第49話「謹慎からの解放」
モルガンは久々にアルカディアのアジトへ帰還する。
アジトは2階建てで個室のある兵舎のような寮であり、1階の最も広い部屋には仲間たちが集まる大広間がある。アルカディアの仲間たちは大広間へ戻ってきたモルガンを歓迎する。
「おかえり。やっと戻ってこれたね」
「今日はまともな訓練ができそうだ」
「全くだ。待ってたぜリーダー」
スピネが真っ先にモルガンに甘えてくる。
オパルやオニキたちも快く彼女を迎え入れ、久々に積もる話をしていたが、アルカディアのメンバーたちの怒りの矛先は真っ先にルビアンへと向いた。
「モルガンは命懸けで戦ったのに何で謹慎と降格処分なのか全然分からないわ。女王陛下に報告する時にルビアンが庇ってさえくれていればこんな事にはならなかったのに」
「そうだそうだ。モルガンが呼ばなかったらルビアンが褒美をもらう事もなかったんだし、活躍する機会を与えただけありがたいと思うべきだ」
アルカディアのメンバーたちはモルガンの処分に納得がいかない様子。
しかもルビアンが靴を舐めさせようとした事をスピネが『暴露』する。ルビアンは冗談のつもりだったがスピネによって話を捻じ曲げられ、あたかもルビアンが悪意で靴を舐めさせようとしたかのように話し、メンバーたちの怒りを煽った。
特に怒りを露わにしたのは女性陣だった。
メンバーたちの間でルビアンは女性の敵と位置付けられ、男性陣もスピネの話を真に受けて心底から怒り狂っている。
何より最も憎らしい相手に1番おいしいところを持っていかれ、討伐隊ですらない者にいいように使われた事が気に入らなかった。
「そう言ってやるな。あいつを呼んだのは私だ」
「モルガンは優しいね。でもそういうところ好きよ」
オパルが後ろからモルガンを優しく抱擁する。この事からも、アルカディアは良くも悪くもモルガンを中心に回っている事が見て取れる。
モルガンがいない間は誰がリーダー代理を務めるかで揉めており、話し合いの結果、副隊長はオパルに決まったのであった。
しばらくは久々の訓練に勤しみ、モルガンはその腕がなまっていない事を証明する。
自宅謹慎中も聖剣や銃の腕を磨き続けていたモルガンにメンバーたちが感心する。
「さすがだな。これならどんなモンスターが出てきても安心だ」
「油断大敵だぞオニキ。悔しいが、コリンティアのメンバーがいなければもっと被害が大きくなっていたかもしれない。だが次の『ダイヤモンド島上陸作戦』では、エンポーがいつもより多く支給されるそうだから本領発揮できると思うぞ」
「エンポーさえありゃ、ルビアンの手を借りる必要もねえからな」
「それは言わない約束だろ。次は本気でいくぞ」
モルガンは至って真剣な形相で聖剣をオニキに向けると、オニキもまた棍棒をモルガンへと向けた。斬りかかる前触れか、彼にはチャキッと音を立てた聖剣がより一層鋭く見えた。
この前のような愚は侵さない。次はルビアンに頼る事なく勝ってみせるっ!
モルガンは仲間たちと訓練を行える事のありがたみを噛みしめながら次は必ず勝利してみせると心に誓うのだった。
その頃、ダイヤモンド島にて――。
火山の火口には人が通れるくらいの洞窟が地下深くまで続いており、その最深部にはジルコニア軍の兵士たちが昼夜を問わず採掘作業をさせられている。
その作業を御影が見に来ると、兵士たちが途端にその手を休めた。
「ブラッドパールはまだ集まらんのか?」
「それが……ブラッドパールの大半はモンスターに使われておりまして――」
「ならワイバーン軍団を解散させてでも回収してくるのだ。それからアモルファスのスパイに送ったブラッドパールも返還するよう伝えよ」
御影がそう部下に命令すると、部下は突然気まずそうに冷や汗をかき、御影の顔色をうかがうように恐る恐る口を開く。
「丞相、その事なのですが……」
「どうした?」
「アモルファスへ送ったスパイが捕まり、ブラッドパールが全て破壊されました」
「それはまことか!?」
「魔力感知で何度も確認しました。スパイからの返事が届かないあたり、真実かと」
「ぐうぅ……」
御影は怒りを露わにしながら物凄い握力でこぶしをプルプルとさせながら強く握り、鋭くピリピリした眼光で部下を睨みつける。
このままではまずい。これで王都部隊が自由になれば奴らがこの金剛島を奪いに来るやもしれん。
「もうよいわー! すぐに兵を出してアモルファス軍を牽制しろっ! 今すぐにだっ!」
「はっ!」
部下は火口内に響き渡る声で怒鳴られるとすぐに伝令を将軍たちに届けるべく、急いで火山の外へと走っていく。
「もたもたするなぁ! そこにある龍の首と胴体を最後まで掘り尽くすのだぁ!」
「「「「「おお~っ!」」」」」
数百人はいる兵士たちが御影に煽られるように声をかけられると、兵士たちは疲れをひた隠しにしながらせっせと最深部を掘り下げていく。
御影は目の前に眠る『巨大なドラゴン』の頭を見つめている。
ドラゴンは火口の最深部を覆い尽くすほどの大きさであり、御影はその姿を見上げながらほくそ笑むのだった。
彼の邪悪なる陰謀は既にその集大成にまで辿り着こうとしていた。
気に入っていただければブクマや評価をお願いします。
読んでいただきありがとうございます。




