第46話「癒しの大地」
助けにやってきたのはカーネリアだった。
ルビアンは何故彼女がここにいるのか信じられない表情だ。
この想定外の事態には鉱次も香もより警戒を強めた。ルビアンとカーネリアは剣を、鉱次と香は刀を持ったまま対峙を続ける。そんな緊張の中でルビアンが口を開いた。
「何でここが分かったんだ?」
「食堂に行ってもルビアンの姿がなかったから、きっと犯人を突きとめていると思った。モンスターはいつも南門から王都の中へと侵入していた。だからそこにいると思って来てみれば、南門の門番が2人共『催眠の魔法』で眠っていた。怪しいと思って外を探していたら、案の定ここにいたというわけだ」
「まさかお前に助けられるとはな」
「言ったはずだ。お前のために一生を捧げるとな」
「……こいつらがモンスターにブラッドパールを装着して暴れさせてたんだ」
「なるほど。なら話は簡単だ。お前たちを――生け捕りにする」
カーネリアは剣を相手に向けながら高らかに生け捕りを宣言する。
「残念ですが、知られた以上はあなたにも消えてもらいます」
香は魔力を使い、手からカーネリアに向かって芳香を飛ばす。カーネリアは慌てて回避しようとするもそれに直撃し、彼女に強烈な眠気が襲ってくる。
「貴様っ! ……眠らせるとは卑怯な!」
「戦いに卑怯も勝手もありませんよ。これであなたにも眠ってもらい――」
「高陵っ! 周りを見ろっ!」
「! これはっ! ……『癒しの大地』。何故あなたがその魔法を?」
気づいてみれば周囲の大地はキラキラとした癒しの輝きを放っている。
ルビアンは手の平を地面に置くと地面に向かって魔力を注ぎ込み、癒しの大地を展開していた。この回復魔法がフィールドに展開されている間、敵も味方も状態異常が回復し、状態異常にならなくなる。
「ふぅ、これでもう催眠の魔法は使えなくなったぜ。門番を眠らせたのもその魔法だろ?」
ルビアンは眠っている門番を見た事で犯人が催眠の魔法を使える事を知っていた。
「クッ――まさかこんな魔法まで使えるとはな」
これじゃ俺の得意な猛毒の魔法も麻痺の魔法も使い物にならねえじゃねえか! クソッ! 厄介な魔法を使いやがる。
私の催眠の魔法も氷結の魔法も封じられたわけですか。
鉱次も香も相手を状態異常にしてから攻撃する戦法を封じられ、純粋な殴り合いに持ち込まれた事に危機感を持った。
「ルビアン、助かった。危うくおねんねするところだった」
「いいって事よ。困った時はお互い様だろ」
「……今度はこっちから行くぞっ!」
「「!」」
カーネリアは長剣に魔力をこめると、それを一気に相手に向かって放出する。放出された光は無数の光に分かれ、それが岩の破片となって彼らに襲いかかる。
「ぐわあああああっ!」
「きゃあああああっ!」
岩の破片は彼らの全身を切り裂き、殺すまではいかずとも意識を保っていられないほどのダメージを与えるには十分だった。
鉱次も香も全身の所々から血を流して倒れ、ローブも衣服も岩の破片によってズタズタに引き裂かれている。
「カーネリア、今のは?」
ルビアンがカーネリアの思わぬ魔法の使い方に興味津々だ。
彼は新しい魔法やその使い方には敏感である。
「破片の魔法を長剣から放った。通常、魔法は体から魔力を放って使うものだが、それだと魔力が制限されてしまう。武器に魔力をこめてから放った場合であれば、本来の魔力が解放されて威力が増すんだ」
「魔法と武器を組み合わせる事で威力を増す合体技か。俺はそこまでできねえんだよな」
「ルビアンが使えるのはありとあらゆる回復魔法と基本的な魔法だけだったな」
「気にしてるんだから言うなよ」
「ふふっ、すまんな」
カーネリアはすっかり安心しきって笑顔がこぼれる。さっきまでの冷徹な顔とのギャップにルビアンは彼女の中に可愛さを感じた。
そんな彼女の前にルビアンもまた素直さを表わす。
「カーネリア、ありがとな」
「困った時はお互い様だろ。ルビアンこそ、癒しの魔法を大地に向かって放つ事で癒しの大地を作ってしまったのだから驚きだ。あれは超一流の医者にしか使いこなせない究極の回復魔法なんだぞ」
「知らなかった」
ルビアンはアルカディアにいた時からこの魔法を使っていた。アルカディアのメンバーには相手を状態異常にして戦うメンバーがいなかったため、状態異常封じが邪魔にならなかったのだ。
「それより警察を呼んでこの2人を逮捕してもらわないとな」
「しばらくは事情聴取を受けるなこりゃ」
翌日――。
鉱次も香も王都警察に逮捕され、しばらくは魔力を封じられた状態で拘束されている。2人はジルコニアのスパイ容疑とブラッドパールを悪用して王都を混乱に陥れた罪で起訴され、香の家の倉庫にあったブラッドパールが全て没収され破壊された。
この事が昼の新聞のトップを飾ると、瞬く間にルビアンの手柄となった事で食堂が人気となり、昼からは常連が次々と押し寄せてくる。
「さすがはルビアンだな」
アクアンが食堂へやってきてルビアンを褒め称える。彼もまた、食堂の常連と化していた。王都部隊の一員でもあった彼は実質ルビアンが指揮を執った森での戦いも知っていた。
ルビアンは機嫌を良くしながら雑務を続けるのだった。
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