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第44話「いくつかの疑問」

 しばらくの間、喫茶雲母は静まり返った。


 ルビアンはレモンティーを飲んでから食堂へと帰宅する。


 どうにもあの場所は落ち着かなかった。ジルコニア人ばかりで肩身が狭いというのもあるが、ルビアンには気にかかる事があった。


 食堂には客席の半分も埋まっておらず、注文を一通り出したばかりであった。


「あっ、ルビアンおかえり。どうだった?」

「香は無事だったよ。輸出業者の人もいてさ、ジルコニア人ばかりで固まってたよ」

「そうなら良かった」

「でも変なんだよ」

「変って何が?」

「モンスターが現れるのはいつも王都のゲートからだ。喫茶雲母はそのゲートの近くにあるのにさ、他の家と違って傷1つなかったんだよ」


 王都に限らず、アモルファスにもジルコニアにも人間が住む場所には東西南北にゲートがあり、それ以外の場所にはモンスターが簡単には侵入できないよう高い壁が設置されている。


 額にブラッドパールを装備したモンスターはいつも喫茶雲母の近くにある南門のゲートから度々現れ、その周辺の家を襲っているが、喫茶雲母には全く被害がなかった事をルビアンは不自然に思っていたのだ。


「……もしかして、喫茶雲母にいた人の中に犯人がいるって事?」

「そこまでは分からねえよ。でもその可能性もある。信じたくねえけどな」

「変と言うならもう1つあるぞ」


 カーネリアがカウンター席に座ったままルビアンに話しかける。


 グロッシュとペリードはもうキッチンの片づけをし始めていた。今日はこれ以上売れないという長年の感がそうさせているのだ。


「何か分かったのか?」

「ああ。ジルコニア軍の事だが、定期的にモンスターを王都内で暴れさせ、王都部隊を疲労困憊にしておきながら一向に攻めてこないという点だ。奴らはあの敗戦以降、ダイヤモンド島から全く動いていない。まるで何かを待っているようだ」

「じゃあ、あのモンスターたちはフェイクで、本当の目的があるって事か?」

「あくまで可能性の話だ。この前はここまでモンスターが攻めてきた影響で、以前よりもうちに客が来なくなっている。そこでだ、ルビアンはモンスターが現れる原因を突き止めてくれ。あたしは図書館へ行ってダイヤモンド島を調べる事にする」

「分かった。いずれにしてもモンスターはどうにかしないといけねえからな」


 カーネリアはずっと食堂で働きながらジルコニア軍の動向を探っていた。


 だが彼らの目的までは分からなかった。彼女は思った。ジルコニア軍が大人しすぎる事、ブラッドパールを装備したモンスターが定期的に出現している事、この2つには関連性があるのではないかと。


 ルビアンは部屋へ戻って考えた。探索水晶を使えば、この騒動をどうにかできるのではないかと。


 だが探索水晶は具体的な人や物でなければ反応せず、単に犯人を捜すというだけの漠然とした想いには応えない。犯人が誰であるのかが分からないからだ。


 しかし犯人が誰なのかが確実に分かる方法を彼は咄嗟に思いついた。


 ルビアンは探索水晶を持ちながら目を瞑り、ブラッドパールの探索を願った。すると、探索水晶が少しばかり光りだした。


 彼はそのまま外へ出ると光がさらに強くなっていく。辺りは既に暗くなっており、周囲の建物からは窓を通して内部からの光の魔法や雷の魔法を応用した明かりが灯っていた。


 ルビアンには確信があった。


 それを王都の南門ゲートまで持っていくと、その光がさらに強まっていく。


 その頃、モルガン邸にて――。


 モルガンはずっと庭でアルカディアのメンバーたちを相手に訓練を続けていた。ずっと謹慎中なのでは体がなまってくる事が分かっていた。女王ディアマンテを恨む事はなかった。


 あの采配は自らの実力不足であると感じ、次こそは功名を取り戻そうと奮起していた。彼女のそばにはスピネ、オブシディ、オパル、トパーが同伴している。


「モルガン、いつまで訓練を続ける気なの?」

「次の出撃までに決まっているだろう。明日にはようやく謹慎が解ける」

「やれやれ、ルビアンが戦場へ来なければこうはならなかったのによ」

「そうよ。せめてモルガンを庇うくらいするべきだったわ」


 アルカディアの面々は戦場に一般市民を呼んだ事で他の討伐隊から笑い者にされていた。特にトップを争うライバルであるコリンティアの面々に馬鹿にされた事は屈辱の極みであった。


 ディアマンテからの信頼も失い、メンバーたちは途方に暮れていた。


「王都部隊はどうなってる?」

「コリンティアの連中が王都部隊を仕切る事になった。まさかまた奴らから命令される立場になるとは、この屈辱許しはせん」


 オブシディはコリンティアの面々と反りが合わず、逃げるようにアルカディアへと移籍した過去を持っているが、軍の中に組み込まれてしまっては隊長になった者の命令を聞くしかない。


 軍とは言っても討伐隊を集めただけの構成では内部から不満が出るのも無理はない。


「そういえば、オブシディって何でコリンティアから移籍してきたんだ?」


 トパーが腕を組みながらオブシディに尋ねる。


「奴らの理念を一言で言えば選民思想だ。役に立つ味方は助けるが、足手まといになった奴は容赦なくその場で切り捨てるような連中だ」

「それって犯罪じゃねえかっ!」

「通常、遠征中の死亡は戦死として扱われる。奴らは証拠が残らないよう、死体を焼いて粉微塵にしてから空へとばら蒔く習慣がある」

「堂々と死体遺棄かよっ!」


 オブシディはそのようなおぞましい事を平気で行う連中だからこそ、彼らを途中で見限り、アルカディアへと移籍した。彼はそんなコリンティアの面々が王都部隊の指揮権を握っている事に確かな危機感を持っていた。


 トパー、スピネは気分が悪くなりその場から離れていく。


 モルガンは聖剣を振るいながら、オパルは本を読みながらその話を冷静な顔で聞いていた。

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[一言] 「奴らの理念を一言で言えば選民思想だ。役に立つ味方は助けるが、足手まといになった奴は容赦なくその場で切り捨てるような連中だ」 「それって犯罪じゃねえかっ!」 いやお前らが言うな
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