第42話「命の恩人」
この頃、王都では度々出現するモンスターが問題となっていた。
定期的に夜の時間帯に出現し、王都民からは度々死傷者が続出する事態となり、王都部隊はモンスターを警戒して四六時中パトロールをする事態となった。
心休まる事がないアモルファス軍はすっかり疲労困憊となっており、兵士たちの目の下にはクマができていた。
モルガンは王都部隊からの信頼を失い、しかも謹慎処分のために周囲からは引きこもりのように見えていたが本人は気にも留めなかった。
カーネリアが食堂へと戻って来る。何やら決意を固めた表情である。
「ルビアン、あたしは今日からお前のために身も心も捧げる所存だ」
「「「ええっ!」」」
「別に驚く事もないだろう。あたしにとってルビアンは命の恩人だ。一生を捧げる覚悟はできている。あたしと結婚してくれ」
「けっ、結婚って――あのなー、いきなりそんな事言われても困るっつーの」
「駄目か?」
「……結婚は駄目だ。よく知りもしない相手と結婚なんて言語道断だ。だから……その……あれだ。仲間という事なら別に良いぜ」
「――そうか、分かった。これからよろしくな、ルビアン」
「お、おう」
カーネリアはそう言いながらニコッと笑い、彼への貢献を決意する。彼女はすっかりルビアンの事を気に入っていた。
クリスからの要望とはいえ、助けてもらった事に変わりはない。
今まではその強すぎる能力故に助けてもらった事などないに等しかった。カーネリアは助けられる喜びを知ったのだ。
「ルビアン、クリスからの伝言だ。探索水晶は返さなくても良いそうだ」
「貰っちまっても良いのか?」
「ああ、普段外に出ない自分が持っていても宝の持ち腐れと言っていたからな」
「そういえばカーネリアって、クリスとどういう関係なんだ?」
「クリスはあたしの姉だ。とは言っても、あたしの親の再婚相手の連れ子だから血は繋がっていない。パーティを追放されて身寄りのなくなったあたしを引き取ってくれてから一緒に住んでいる」
カーネリアとクリスはお互いにとって血族以上の存在であった。
それだけにクリスが彼女をジルコニアへと派遣した時は心が痛んだ。しばらく帰ってこない時には心配もした。
「岩石系の魔法で脱出しなかったのか?」
「花崗は相手の魔法を封印する能力を持っていてな、あたしが気絶している間にかけられたらしい。牢屋の中で何度か試してはみたが駄目だった」
カーネリアは右腕に刻まれた魔封じの紋章を悲しそうな顔で見つめながら答える。
「今も使えないの?」
「ああ。この魔法は永続だ。だからどうにかして――」
ルビアンがカーネリアの右腕を掴み魔力を放出すると、カーネリアにかけられていた『封印の魔法』が解かれていく。
魔封じの紋章は奇麗さっぱり消滅していた。彼女はそれに驚きを隠せない。
「えっ!」
「封印の魔法ならもう解けたぜ」
「一体何をしたんだ?」
「『解除の魔法』を使ったんだよ。これは魔法をかけられた状態から回復したり、魔力をこめられている物質から魔力を取り除いたりできる回復魔法の一種だ。カーネリアを助けに来た時も、これで強制収容所に侵入したんだよ。魔力感知を避けるために魔法のバリアを解除するのが大変だったけどな」
「――ルビアン……ありがとうっ!」
涙をこぼしながらカーネリアがルビアンに抱きつき、彼女の豊満な胸が彼に勢いよく襲いかかる。
もう世界中を冒険する人生も、討伐隊の一員としての人生も諦めかけていた彼女にとって、魔法は最後の砦であった。それさえをも失っていた事に彼女は絶望していた。
だがこうして再び魔法を使えるようになった事は歓喜以外の何物でもなかった。
「ルービーアーン、何デレデレしてるのかなー?」
ガーネがルビアンの顔を見ながら威圧感のある笑顔で怒っている。
彼に他の女性が抱きつく事をよろしくないと思っている様子。彼女はそれがどのような感情によって生じるものであるかにまだ気づいてはいなかった。
「どっ、どうしたんだよっ!?」
「いいから離れなさいっ! 今営業中だって事忘れてるでしょ?」
ガーネが2人を手で引き離す。カーネリアはきょとんとしていた。
「グロッシュ、私は愛するルビアンともっと一緒にいたい。もし良ければ私をただでも良いから雇ってくれないか?」
「さすがに働いてくれる人をただで雇うってわけにはいかないなー。まあでも、最低賃金でも構わないなら雇っても良いぞ」
「引き受けた」
グロッシュは律義にも報酬を払う事を申し出る。それに対してカーネリアは何の躊躇いもなく即答する。彼女はずっとルビアンと一緒にいられる事が嬉しくてたまらないのだ。
だがガーネは納得していない様子。このままでは彼を取られてしまうという危機感さえ持っていたが、人事権はグロッシュにあるためしぶしぶ認めるしかなかった。
「はぁ~、しょうがないわね。カーネリア、うちで働くのは良いけど、明日から私の管轄下で働く事、それと営業中はルビアンに抱きつくの禁止だから」
「何だと!」
「何だとじゃないわよ! お客さんの目についちゃうでしょ! それができないならあんたの雇用は絶対認めないから」
ただでさえ美人なんだから、少しは立ち振る舞いを考えてよね。
カーネリアは王都民の中でも格段にずば抜けた美人であった。彼女が持つ類まれな魅力は早くもガーネからマークの対象となっていた。
「仕方ないな。だがルビアンの事は諦めないぞ」
「望むところよ! あんたにルビアンは渡さないから!」
2人の間には目に見えない火花がバチバチと鳴っている。カーネリアはガーネのルビアンに対する気持ちを感じ取っていた。それが、自分が彼に対して持つ気持ちと同じものである事も。
こうしてこの食堂に、新たな仲間が増えたのであった。
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