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第41話「夜中の救出劇」

 夜の帝都ではほとんど誰も歩いておらず、所々に提灯(ちょうちん)が連なっている。


 さっきまでは全く光る様子もなかった探索水晶が王都へ来た途端に光り始めた。ルビアンはカーネリアがここにいると確信しながら辺りを探す。


 北へと歩いた時だけ輝きが増した。つまりカーネリアがいるのは北である。


 北には魔力によってバリアが施されている壁の高い施設がある。木造ではあるが頑丈にできており、ルビアンが空いた門の中をチラッと見てみると、そこにはアモルファス人たちが捕らえられていた。


 なるほど、恐らくここにいるな。


 ルビアンはここがすぐに強制収容所である事を確信する。


 彼は安全に侵入する手段を考えていた。裏口に誰もいない事を確認すると、魔力感知されないよう解除の魔法を使って魔力のバリアを解除してから中へと侵入する。


 内部は木造の牢屋ばかりだった。中にいる囚人たちは寝静まっており、所々から異臭が漂っていた。彼らはずっと風呂にも入っていないのだ。与えられる食料と言えば1日2食分のジルコニア米と水のみ。だがこれだけでは体が持たない。


 ルビアンが牢屋内を巡回していると、そこに見覚えのある顔を発見する。


「――! カーネリア」


 彼は驚きながらも小さな声で彼女に囁く。


 カーネリアは牢屋の中でぐったりしている。


 息は浅く顔は痩せこけており、このままでは確実に死ぬと感じたルビアンは彼女を食堂へ連れて帰ろうと骨の形が浮き出ている腕を掴む。


「待ってろ。今助けてやる」


 ルビアンとカーネリアは瞬間移動し、無事に食堂へと帰宅する。


 彼はカーネリアに回復の魔法を施し、何日も洗われていない服には洗浄の魔法を施す。


「……ん?」


 気がついた彼女は周囲を見渡し、ルビアンを見つけた途端我に返る。


「! ルビアンっ!」


 彼女は思わずルビアンに抱きついた。


「シーッ! 今何時だと思ってんだよ!?」

「あっ……ごめん」

「どうした? ……! カーネリア……どうしてここに?」


 偶然にも起きていたペリードがカーネリアを見つける。


「説明は後だ。わりいけど賄い飯を作らせてもらうぜ。かなり衰弱しきってる」

「分かった。そういう事ならオイラも協力するよ」


 ルビアンとペリードは賄い飯を作り始める。


 すぐにできあがったルビアン特製の大盛チャーハンが完成する。


 カーネリアはそれを見るや否やあっという間に平らげていく。そのあまりの食欲と食べるスピードに2人は驚いている。


「ふぅ~、生き返ったぁ~」

「で? 何があったんだ?」


 落ち着いた彼女は今までの事情を話し始める。


「あたしはジルコニアから機密情報を持ち帰ろうとした。だが花崗が思った以上のやり手でな。逃げようとした途端に素早い動きで距離を詰められた。私は後を追ってきた花崗に峰打ちを決められて気絶したんだが、それからは地獄のような毎日だった。目が覚めた私は手も足も鉄の鎖に繋がれて身動きが取れなかった」


 カーネリアが持つ想像を絶する体験はルビアンたちを震え上がらせた。


 彼女はそれからずっと拷問を受け続け、生かされず殺されずの日々を過ごし、ルビアンが助けに来た時には虫の息であった。


 彼女はそれを思い出す度に体が震え、両腕を組みながらお互いの腕を強く掴み、痛みで恐怖心を和らげようとしていた。


「今日はもう休め。ガーネたちには俺から伝えておくからよ」

「ああ――助かる」


 カーネリアは話し終えると、電池が切れたかのように座りながら眠りに就く。


 翌日、ルビアンはガーネたちに事情を説明し、しばらくは彼女を食堂に居座らせる事となった。ルビアンは夜中まで起きていたのか調子が上がらず、眠気と戦いながら食堂を手伝っている。


「ルビアン、眠いの?」

「ああ、ずっと起きてたからな」

「救出だったら昼から行けば良いのにー」

「昼間は警備が厳重だから行けねえんだよ。あれっ、カーネリアは?」

「さっきお礼を言ってからジェムストーンへ行くと言って出ていったけど」

「マジかよ。もう人探しは御免だぜ。まっ、ここはジルコニアじゃねえから、その内戻って来ると思うけど、もう当分は外出したくねえな」

「やれやれ、ルビアンったら本当にお節介焼きなんだから」

「雨雲の水晶の代金を払う代わりにぜってぇ生きて連れ戻す必要があったんだよ」


 彼がそう言うと、ガーネは少しの間沈黙する。ルビアンは洗浄の魔法で皿洗いをしており、あっという間に皿がピカピカになっていく。


「私はルビアンのそういうところ、嫌いじゃないわよ」


 彼女は安心したような笑顔で呟いた。


「俺はこんな自分が嫌いだよ。自分本位に生きられたらどれだけ楽か」


 ルビアンはもっと伸び伸びと生きたかった。一生分の生活費があればそれで良いと。だが食堂での生活に慣れていくにつれ、その思考に疑問が生じていた。


 彼は自分のためじゃなく、誰かのために働く事に対して無自覚の快感を覚えていた。不愛想だが困っている人を放っておけない。そんな彼の性格にガーネは誰よりも早く気づいていた。


 その頃、カーネリアは1人でジェムストーンへと()()する。


「ただいま」

「! カーネリアっ! 大丈夫なのか?」


 営業中だったクリスが珍しく驚いた顔をする。彼女の服装はボロボロのままだった。何でも回復できるとは言っても、服装を直すには別の魔法が必要だからである。


「ああ、心配ない。全てルビアンのおかげだ」

「……そうか……またあいつがやってくれたか」


 カーネリアとクリスはお互いに知っている状況を説明し合う。クリスがルビアンを派遣した事からカーネリアが知る国家機密まで。


 だがこの時、カーネリアが知っている国家機密は既にアモルファス側の知るところとなり、もはや意味を成さない情報であった。


「つまり、あたしの他に国家機密を知る者が情報を持ち帰ったという事か?」

「そうだ。奇しくもお前が知っている情報と全く同じだ。運が良かったな。どうやらお前の努力は無駄にならなかったようだ」

「だがダイヤモンド島は奪われてしまったのだろう?」

「ああ。だがお前が戻って来てくれて本当に良かった」

「あたしも同感だ。もう当分ジルコニアに行きたくはないな」


 カーネリアはルビアンとクリスに感謝すると共に、再び帰ってこれた事に安心する。彼女はクリスと別れて再び食堂へと向かう。


 彼女の心には1つの決心がついていた。

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[気になる点] ガーネが行けといったのなら、ガーネが支払うべきなのでは? [一言] ガーネウザい
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