第40話「スパイの消息」
王都にあるモルガンの家では多くのハウスキーパーが働いている。
昼間はもちろんの事、日が沈んだ後も夜番が常に家を守っている。
結局残りのハウスキーパーの枠は他の者で埋まってしまった。執事もこれには安堵を浮かべた様子。だがモルガンはルビアンの事を諦めてはいなかった。
そればかりか一発逆転の戦略を披露された事で彼女はますます彼に惚れてしまう。
彼女は今、一般市民を戦争に参加させた危険行為を問われ、王都部隊隊長から隊員に降格となった。さらには厳重注意の上に自宅謹慎まで命じられており、当分は家から動けない状態であった。
モルガンは早くルビアンに会いたいと心から願い、胸を手で押さえながら星空を眺めていた。
翌日――。
ルビアンは食堂の営業終了後、クリスに状況報告をしに行く。
「まっ、そういうわけだから当分は攻めてこれないと思うぜ」
「そうか。だが1つ気がかりな事がある」
「何だよ?」
「私がジルコニアに派遣したスパイがまだ戻ってこなくてな。ルビアンさえ良ければ様子を見に行ってほしいのだが、行ってくれるか?」
「えぇ~、俺が?」
「雨雲の水晶の代金、まだ払ってもらってないんだがな」
ルビアンはワイバーン軍団の情報を知り、その対策として雨雲の水晶をジェムストーンで買っていたが、その強大な魔力に見合った代金を彼は支払っていなかった。
一般市民が買った扱いであったために『経費』にはならず、結果的に自己負担となってしまったが、ルビアンにそれを支払う経済力はなかった。
「あれはもうちょっと待ってくれよ。まさか1万ラピスもするとは思わなかったんだよ」
「天候を変えるのは並大抵の魔力では不可能だ。それくらいはお前でも分かるだろう。そこでだ、お前にさっきの件を頼みたいんだが」
クリスが指を1本立ててルビアンに取り引きを提案する。当然ではあるが、彼に断るという選択肢はなかった。
「様子を見に行くって言っても、手がかりがなかったらどうしようもないぜ」
「案ずるな。この『探索水晶』を使え。探している人や物に近づけば近づくほど強く光る代物だ」
クリスがそう言いながら自らが作り上げたお手製の水晶をルビアンに手渡す。
「お前に探してほしいスパイはカーネリア・カルニスという者だ」
「! カーネリアってクリスが派遣したスパイだったのか?」
「何? 知り合いだったか?」
「ああ、ジルコニアで助けてもらった」
「あー、確かこの前クラーケンと遭遇した時に女に助けられたと聞いたが、カーネリアの事だったか。あいつらしいと言えばあいつらしいな」
「要はカーネリアを連れて帰れば、雨雲の水晶をタダにしてくれるって事だろ?」
「そうだ。ちなみに探索水晶は他の水晶と違って何度使っても消滅する事なく永続的に使えるぞ。それでカーネリアを探し出してくれ」
「分かったよ。じゃあ今日の夜にでも行ってみるか。必ず連れ戻してくるよ。じゃあな」
ルビアンはジェムストーンから食堂へと瞬間移動で去っていく。
店内には数えるほどしか客がこない。ここにはあらゆる宝石や戦闘で効果のある水晶などが売っているが、どれも値が張るために滅多に売れる物ではなかった。
ルビアンの他には1人の先客がいた。彼女はクリスのそばに駆け寄って話しかける。
「面白い客だな」
「そうですね――それより何故ここへ来られているのですか? ――女王陛下」
「! いつから知っていた?」
「先ほど入店なさった時からですが」
「やはりそうか。他の客にはいらっしゃいと言っておったが、妾にだけはいらっしゃいませだったのが気になっていた。まさかばれていたとはな」
「恐れながら、私が持つ邪神の眼は相手の全てを見通す力があります。相手の変装や弱点くらいでしたら簡単に見通せます。見た目は誤魔化せても、そのオーラの強さまでは誤魔化せなかったようです。何か事情があると思い、あえて見過ごしておりました」
クリスが右手の人差し指と中指を右目の上下に当て自らの力を解説する。
彼女が両目に持つ邪神の眼は人や物が持つ能力を瞬時に見抜く力があり、彼女もルビアンと同様に戦闘能力はほとんどないが、その分析力は並外れているものがある。
彼女が宝石商になったのはこの力を活かせる仕事であるためだ。だが人の出身地や物品の出処までは分からないため、そこは他の方法で調べる必要があったのだ。
ディアマンテは正体がばれないよう変装の魔法を使った上で眼鏡をかけて帽子を深くかぶり、目立たない服装で度々外出していた。
「何故平民のふりをして外出をしていたのかと言えば、平民たちの生活を調査していたからだ。女王の姿で王都を探索しても、みな普段の姿を隠して礼儀正しい人間を演じるからな。それでは調査にならん。この時の妾はディア・ホープという平民だ。よろしく頼むぞ」
「承知しました、女王陛下」
貴族らしき客が数人ほど入ってくる。
店内はざわつき、客たちは珍しい宝石や水晶に圧倒されている。固定客は少ないが、一度に支払う金額が大きいためか、彼女の懐はいつも潤っている。
「ディア、どうやらここにはお前の望む品はないようだ」
「そうか、邪魔したな。また来るぞ」
――いつでもお待ちしております、女王陛下。
クリスはルビアンの行く末を心配しながら庶民感覚を持ち合わせた女王を目で追って見送る。扉が閉まると、彼女はいつものように店の営業を続けるのだった。
その日の夜、ルビアンは食堂の同僚たちが寝静まった後行動を開始する。
十分な装備をした後、狭い1人部屋から帝都へ瞬間移動するのだった。
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