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第4話「宮殿の清掃」

 ケルベロスの額には何やら不審とも思える『黒い珠』が埋め込まれていた。


 それはさっきまでこそ禍々しく光っていたものだが、ケルベロスが力尽きると力を失ったかのように光らなくなる。


 モルガンはその黒い珠が気になり持ち帰ろうと手でもぎ取る。


「おい、どうした?」

「いや、何でもない」


 モルガンは黒い珠をポケットに入れ、駆け足で仲間たちに追いつくのだった。


 その頃、ルビアンは宮廷の中を『浄化の魔法』で掃除し、少しずつではあったが、手をかざした場所が魔力によって清潔な状態になっていく。


 ノルマではなかったものの、壊れた場所は修復の魔法で壊れた場所を修理していた。他の者たちは水の魔法で床や壁を濡らし、その後で箒や雑巾を魔力で動かしたりしていた。


「ふぅ、こんなもんか」

「君凄いねー。壊れた場所まで修復するなんて」


 ルビアンに話しかけてきたこの男、アクアン・ヘリオドールは水の魔法と物理防御を得意とする元討伐隊のメンバーである。


「俺はありとあらゆる回復魔法が使えるんだ。回復だけなら誰よりも得意な自信はある」

「へぇ~、じゃあ死体の蘇生はできるか?」

「それはさすがに無理だ。保存状態を回復させるくらいならできるけど、それ以外の能力は低めなんだよ。だからエンポーが普及してからはパーティに要らない存在になっちまってな」

「あー、なるほどねー。みんな気軽に高性能な回復ができるようになっちまったからなー。俺は水を出す魔法が使えるけど、水が効くモンスターがあんまりいないからって理由でついにパーティを追放されちまったよ」

「もしかして、ここにいる連中ってみんなそうなのかな?」

「だろうな。そうでなくても職を選べない立場なのは確かだと思うぜ」


 彼らが話していると、その後ろからヒールの音を鳴らしながら何者かが近づいてくる。


「あなたたち、そこで何をサボっているのですか?」

「「!」」


 彼らが後ろを振り向くと、そこには豪華な衣装を身にまとう1人の女性の姿がある。


 彼女の名はエメラ・エスメラルド。この宮殿に住まう名門貴族のお嬢様である。戦闘では前衛の物理攻撃と後衛の魔法攻撃の両方をこなせるアタッカー向けの能力持ちで素早さも高い実力者。


 エメラは緑色のサラサラとしたロングヘアーをなびかせながら見下すように彼らを見つめている。


「雑談なら終わってからにしていただけますか? 平民のくせにこのわたくしの前でサボるなんて生意気ですよ」

「あー、すみませんねー。以後気をつけ――」

「んだとごらぁ、たまたま貴族に生まれたからって調子こいてると、いつか痛い目見るぜおばさん」

「は? 今何とおっしゃいました?」


 彼女は周囲が恐れおののくような怖い目でルビアンを見つめる。その威圧感のある目に周囲の者たちは体が震えあがっていた。


 ただ1人を除いては――。


「お、おい、やめとけって」

「おばさんつったんだよ。歳を取りすぎて耳が遠くなったのか?」

「良い度胸ですね。わたくしはエメラ・エスメラルド。あなたは?」

「俺はルビアン・コランダム」

「ふーん、得意種目は?」

「回復」


 ルビアンが淡々とした口調であっさりと答えた。


「……それだけ?」

「ああ、それだけだ」

「ふふふふふっ、あはははははっ! あなた今がどんな時代か分かって言ってますの? 今や誰でも気軽に回復を行える時代ですよ。平民の回復担当(ヒーラー)ごときがわたくしに逆らうとは、随分と舐められたものですねっ!」


 エメラがルビアンを拳で殴りつける。


「うわあああああっ!」


 ルビアンがパンチで吹っ飛ばされ、少し遠くの壁に激突する。


「いってぇー。少しはやるみてえだな」

「! ダメージを受けていないですって!」

「それは違うな。ダメージならしっかり受けたよ。一瞬で回復したのさ」

「一瞬で回復?」


 まさか、あの瞬間回復を使えるというのですか?


「今度はこっちの番だ。くらえっ!」

「やめなさい!」

「!」


 ルビアンのパンチがエメラの顔から拳半分程度の距離でピタッと止まった。


 しかし彼女はビビるどころか平然としている。まるで彼が殴れない事を分かっていたかのように。


「何だよ? もう降参か?」

「ルビアン、貴族であるわたくしを殴ったら、あなたは即逮捕なのですよ」

「なっ! お前だって俺を殴ったじゃねえか!」

「平民の無礼に対する鉄拳制裁は世間の常識のはずですが」

「きったねえぞ! 正々堂々勝負しろー!」

「嫌です。まさかあなたが瞬間回復を使えるとは思ってもいませんでしたから。とにかく、争いはここまでです。これ以上続けるというなら日給なしのクビにしますよ」


 彼女はそう言い残すと後ろを向いてその場を立ち去ろうとする。


「ぐぅ……」


 エメラがヒールを履いた足を止め、そこでまたルビアンがいる方へと振り返る。


「それと、次からはちゃんと名前で呼ぶ事。わたくしにはエメラという名前があるのですから」

「お、おう」


 彼女は再び後ろを向くと、寂しそうな顔をしながらヒールをカッカッと鳴らし、宮殿を闊歩するように立ち去っていく。


「何だあいつ」

「お前なー、危うく日給なしのクビになるところだったんだぞ。少しは自重しろっての。エスメラルド家は貴族の中でも次の王族候補って言われてるくらいなんだぞ」

「そんなの知るかよ。さっさと終わらせてここを出ようぜ」


 ルビアンはタジタジだった。いつも貴族に言いたい放題言われているのが気に食わない。


 彼は早く掃除を済ませたかった。

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アクアン・ヘリオドール(CV:阪口大助)

エメラ・エスメラルド(CV:竹達彩奈)

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