第37話「褒美と処分」
王都に着くまでの間、モルガンは久々にルビアンとの会話を楽しむ。
この2人の光景を他のメンバーたちは羨望の眼差しで見つめている。アルカディアのメンバー以外の兵士たちは勝利の味に酔いしれている。絶望的な戦力差を覆した戦い。それは幾多の戦いを切り抜けた彼らにとっては功名以外の何物でもなかった。
王都では数多くの王国民たちが彼らを温かく迎え入れた。既に先に帰った伝達係の兵士が王都に情報を伝えていたのだ。
「やはりお前に頼って良かった。見直したぞ」
「ガーネの機嫌を直すにはこうするしかなかったんだよ」
2人の後ろでアルカディアのメンバーたちがブツブツと愚痴を言い始める。どうもルビアンの功績が納得いかない様子。
「きーっ! くやしー!」
「あいつだけ調子に乗りやがって」
「やっぱあいつ追い出して正解だったな」
「このままじゃモルガンの立場がないぞ。食堂の調達係に助けられたなんて事が知れたらアルカディアは赤っ恥だ。この事は伏せよう」
「どうやって伏せるの?」
「森に隠れたのはモルガンの作戦で、偶然雨が降ってきて、それで敵が退却した事にすれば良い。あいつにだけ褒美は渡さんぞ」
「でも、伝達係がもう女王陛下に報告したんじゃない?」
「……」
アマゾナが的を射た指摘をした途端にオブシディがだんまりする。
既に戦果はアモルファス女王ディアマンテの知るところとなり、ルビアンたちが宮殿の庭へ集められてから功労者への褒美が渡される事となった。
ルビアンはもう帰りたかったがモルガンに引き留められ、ディアマンテはモルガンに戦いの詳しい状況を改めて報告させる。
「今回の戦いにおけるおおよその流れは聞いた。モルガン、この王都部隊の隊長として詳しい戦況と功労者を報告せよ」
「はい女王陛下。今回の戦いでは多くの犠牲者が出ました。ですが、ここにいるルビアン・コランダムが逆転の雨を降らせる事を思い立ったのです」
「ほう、それは興味深いのう」
ディアマンテはルビアンと初対面だ。その可愛い少年のような顔に彼女は興味を持ち、その威圧感を保ったままヒールを鳴らして彼に近づく。
「ワイバーン軍団を倒す戦略を考えたのはお前か?」
「そうだけどよ、ホントにあんたが女王なのか?」
「貴様っ! 何だその口の利き方は!? 無礼だぞっ!」
「俺は誰との間にも序列は作らねえ。大体お前ら、王族貴族っつってもどうせほとんどは先人たちの残り物の恩恵を受けてるだけだろうが。身分なんてお前らの思い込みであって俺には関係ねえ」
「ぐうぅ、貴様っ!」
この男――妾を見ても全く怖気づかないとはな。なかなか肝の据わった奴よ。ルビアンならもしや。
「よせ。ルビアンの言う事にも一理ある。分かった。知らぬのであれば教えておいてやろう。妾はアモルファス王国第142代目国王、ディアマンテ・モンド。お前とお前のパーティに褒美をやろうと思っている。光栄に思え」
「そいつは願ってもない事だな。でも今の俺は食堂の調達係だから、パーティには所属してねえぞ」
「「「「「!」」」」」
宮殿内が騒めく。まさか討伐隊の者でないとは誰も思っていなかったからだ。そればかりか、元々徴兵されなかった者が最大の功労者である事にディアマンテは驚いていた。
「ふふふふふっ、あははははっ。実に面白い――モルガン、一体どういう事か説明しろ」
笑顔で大笑いしたかと思えば、再び冷徹な顔に戻りモルガンに問いかける。
「はい女王陛下、ルビアンは元々アルカディアのメンバーだったのです。私はこれだけたくさんの部隊を率いるのが初めてでしたので、最初はワイバーン軍団に思わぬ苦戦を強いられておりました。ですが彼ならあの状況を打開してくれるのではと思い、頼る事にしたのです」
「まさかとは思うが、彼をパーティから追放したのか?」
「……はい」
「呆れた。これほどの戦略家はそうそういないぞ。追放の理由までは問わんが、一般市民の徴兵は討伐隊に属する者でなければならない。これは立派な法律違反だ。モルガン、お前には失望したぞ。後で処分を言い渡す故、自宅で謹慎していろ」
「はい。面目次第もございません。どうかお許しください」
モルガンが深々と頭を下げ、ディアマンテに許しを請う。
だが彼女はモルガンの言葉を無視して用意された玉座へと座る。
「ルビアン、お前と食堂の同僚に褒美を遣わす。何が良い? 金か? 宝石か?」
「じゃあジルコニア米をくれよ」
「ジルコニア米だと。理由は?」
「うちのチャーハンやエビピラフはジルコニア米じゃないと良い味が出せねえんだ」
「それだけのために他を差し置いてジルコニア米なのか?」
「ああ、うちの主力商品だからな」
ルビアンからの思わぬ要求に周囲は唖然とする。
「ふふっ、面白い奴だ。相分かった。お前の店にはジルコニア米を半年間毎月くれてやろう」
「おう。ありがとな、ディア」
「貴様っ! 女王陛下と呼べっ!」
「ディアか――かつて妾が孤児だった頃を思い出す。妾は気に入ったぞ。今回戦ってくれた部隊の者たちには追って褒美の通達をする。ルビアン以外の者は下がってよい」
ディアマンテの命が下ると、すぐさま集まった人々がぞろぞろと宮殿の庭から去っていく。モルガンは今回の無様な姿を心底悔しがり、自宅へ戻るまでの間、誰も彼女に話しかけようとはしなかった。道中のモルガンは目から涙を流し、次こそはと功名を上げる事を決意する。
彼女はルビアンとずっと一緒にいながらその才能に気づかなかった。
どんな形であれ、常にルビアンと行動を共にする事だけを望んでいた。
宮殿の庭にルビアンとディアマンテだけが残り、しばらくお互いを見つめ合う。彼女は自分と同じく平民出身の彼に希望を見出していた。
他の人の気配を感じなくなったところで彼女はルビアンを自らの部屋へと案内する。
彼女が女王である事以外何も分からないまま、彼はその後を追った。
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