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第36話「戦いは略すもの」

 森の上空にジルコニア軍率いるワイバーン軍団が集まってくる。


 地上ではこの光景に恐怖さえ覚える者がいた。空は至って快晴であり、森内部の地上にも所々に日光が射している。


 森の中にいるモンスターはワイバーンの気配を感じて姿を消してしまう。ワイバーン軍団が退路を断とうと森の上空を囲むように覆い尽くすとその動きを停止する。


「――やっとあいつらの準備が整ったみてえだな」

「一体どうするつもりだ?」

「まあ見てなって。あいつらにはこいつを使う」

「それは――」


 ルビアンはバッグの中から青色の珠を取り出した。


「雨雲の水晶だ。これがどんなものかぐらい知ってるよな?」


 彼が手に持っているのは雨雲の水晶であった。王都には様々な魔法の道具が揃っており、遠征をする時は道具を使って足りない戦力を補おうとするパーティも多かった。


 雨雲の水晶は文字通り上空を雨雲で満たし、雨を降らせるという代物である。


 魔法石や魔法薬は王都で市販されている。ルビアンは新聞を読んでからジェムストーンへと向かい、クリスから雨雲の水晶を購入していたのだ。


「それをどうするつもりだ?」

「これを破壊して魔力を上空に飛ばす」


 森の中央の少し高い位置で大爆発が起きる。


「何だ今の音?」

「まさか攻撃が始まったのか?」

「でもワイバーン軍団は動いてねえぞ」

「じゃあ一体誰が?」


 地上にいるアモルファス軍の部隊がざわざわと騒ぎだす。


 周囲のワイバーン軍団もまた動揺している。ルビアンが爆発の魔法の魔力を雨雲の水晶に施すと、それを空にめがけて思いっきり投げていたのだ。それが爆発すると、あっという間に上空が雨雲で満たされていく。


 雨雲が雷の前触れのような音を鳴らすとすぐに大雨が降り出し、森の中が水浸しになっていく。ザーザーと鳴り止む気配もない大雨に周囲は騒然となる。


「将軍、大雨が降っています」

「馬鹿なっ! さっきまで快晴だったはずだぞっ! ええい、構わん。地上の奴らを攻撃しろっ!」

「「「「「おお~っ」」」」」


 ワイバーン軍団は慌てて攻撃を開始する。ワイバーンたちが一斉に口から火炎弾を地上に向かって打ち出す。上空からは火矢の如く、たくさんの火炎弾が森の中へと降り注ぐ。


「あいつら火炎弾を撃ってきたぞ」

「このままじゃ森ごと燃やされるぞ」

「いや――大丈夫だ」


 火炎弾は地上に辿り着く前に大雨に打ち消され、彼らはワイバーン軍団の攻撃が封じられた事を知ると途端に喜びだす。


「「「「「おーーーーっ!」」」」」

「今だっ、全員に上空への攻撃を命令しろっ!」

「ああ、分かった」


 モルガンが上空へ向けて一発の銃弾を飛ばす。


「この音――モルガンからの攻撃の合図だ」

「撃て撃てっ! 雷の魔法を撃ちまくれ。飛び道具もくらわせてやれっ!」

「「「「「おお~っ」」」」」


 モルガンは銃で攻撃命令を伝えると、地上のアモルファス軍が一斉に雷の魔法などの電気系統の魔法を使い、それを上空のワイバーン軍団に向けて撃った。


「「「「「うわああああーーーーっ!」」」」」


 電流の光線がワイバーン軍団を襲う。


 力尽きたワイバーンが騎手たちと共に地上へと落下していく。騎手は必死に逃げようとするが、地上の森はアモルファス軍の狩場である。


「ぐわああっ!」

「ぐおおおっ!」


 囲まれた騎手たちは為す術もなく次々と討ち取られていく。


「水は電気をよく通す性質がある。ワイバーン軍団を雨で水浸しにして電気系統の魔法が通るようにしてから攻撃しつつ、ワイバーンからの厄介な火炎弾は雨で防ぐ。考えたな」


 モルガンはルビアンの戦略を素直に褒め称える。


「まあな。これなら敵の弱点を作りながら攻撃を防げるってわけだ。あいつらを上空に誘導できなかったら失敗してたけどな」


 ルビアンはモルガンたちの鼻を明かしたようにスカッとした顔になる。ルビアンたちがジルコニア軍の将軍を囲い込むが、既に他のワイバーン軍団は海岸で待機している部隊を除く全てが撃ち落され、地上で弱ったところを討ち取られていた。


「お、おのれっ!」

「あんたがジルコニア軍の将軍か?」

「いかにも。さっさと討ち取れ。俺の首はさぞ値が張るだろうよ」


 将軍はもはやこれまでと思い、討ち取られる事を覚悟しながらも刀をルビアンたちに向け、最期の抵抗を試みていた。彼の鎧姿と傷痕から今までに数多くの戦場を経験してきた事を思い起こさせる。


「いや、あんたは帝都に返す。さっさと帰れ」

「おいっ! 勝手な事言うなよ! お前は一般市民なんだぞ。お前こそとっとと帰れよ」


 オニキが生意気にもしゃしゃり出てきたルビアンを咎めようとする。


「待て。ルビアンはこの戦いの功労者だ。そう言ってやるな」


 モルガンがオニキをなだめると、ルビアンは将軍と視線が合ったまま雨でずぶ濡れになっている事さえ気にも留めず睨み合いを続ける。


「――貴様、一体何者だ?」

「ルビアン・コランダム。食堂の雑用係さ」

「ふっ……この俺が一般市民ごときの術中にハマるとは、武士の恥よ」


 彼は刀を鞘に納めると、後ろを振り返り立ち去ろうとする。


「ルビアン・コランダム――その名前、覚えておくぞ」

「そいつは光栄だな」

「ふん」


 将軍は歩きながら森の中を通り、海岸で待っていた残りのワイバーン軍団を引き連れてジルコニアへと帰っていく。


 ワイバーンたちの死体から多くのブラッドパールが回収され、モルガンの命令でそれらが集められるとその場での魔法が使われ砕け散った。


 戦闘が終わってからしばらくすると、アモルファス軍も王都へと退却を始める。


 すると雨雲がなくなり、再び日光が彼らを歓迎するように降り注いだ。

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