第35話「苦肉の策」
ルビアンの指示を受けたスピネの案内でアモルファス軍は退却する。
森からは空が見えづらいために昼間でも夜のように暗く、上空からも森内部の地上は見えづらかった。
森の中へと姿を消していくジルコニア軍の将軍はワイバーン軍団に進軍を命じるが、ワイバーンは地上戦が不得意な上に体が大きいために森の中では進軍が遅くなり、大きな翼が木に引っかかるため足が遅くなり、木をなぎ倒しながら進むにしても逃げ切られてしまう。
「将軍、アモルファス軍が森へと退いていきます」
「ふん、馬鹿め。森の中は袋の鼠よ」
「どうなさいますか?」
「――最前線の部隊は海岸に残し、残りの部隊は俺たちと一緒に来い。上空から火炎弾を浴びせて奴らを森ごと焼き尽くしてくれる」
「はっ!」
アモルファス軍の動きを見切っていた将軍はワイバーン軍団に命じ、地上からではなく上空から火炎弾で森を焼き尽くす作戦に出た。
無論、その事はルビアンたちにも筒抜けであった。だがモルガンたちはルビアンの策を知らないために段々と不安の表情を見せるようになる。
彼らは森の中央に向かって逃走すると、部隊を5人一組に分散して森へと散らせるが――。
「なあ、ルビアン。ワイバーンは火炎弾を得意としているんだぞ。このまま森にいれば私たちは森と一緒に燃やされてしまうんだぞ。まさかとは思うが、パーティ追放を理由に裏切る気じゃないだろうな?」
「あのなー、俺が何の策もなしにこんな事をすると思うか?」
「私はお前を信用している。だが信任するにはいくつか疑問が残る。お前の作戦はいつもハイリターンを狙った戦略ばかりだ。最後まで諦めない姿勢は好きだが、まずは何より仲間たちの信頼を勝ち取るべきじゃなかったのか?」
「んな事してたらいくら時間があっても足りねえよ。いいから俺が言った通り、仲間を全員森の中へ散らせて、ワイバーン軍団が上空いっぱいに居座ったらお前が持ってる銃で合図をして上空に一斉攻撃だ」
「待て!」
ルビアンとモルガンの後ろから低い声でルビアンを呼ぶ声がした。
声の正体はオブシディ・プリニウス。黒髪のおかっぱ頭が特徴の誇り高き男である。彼はアルカディアのメンバーであり、コリンティアの元メンバーでもある。
強力なビーム系の魔法が得意であり、その凶悪さと対空性能が驚異的である反面スタミナの消耗が激しく、いつもルビアンの回復に頼りきりであった。
――コリンティアはアルカディアと双璧を成す存在の討伐隊であり、史上初めてフェニックスを倒した事で知られている。メンバーはアルカディアと同じく10名、この部隊にもコリンティアのパーティが混ざっており、モルガンがこの部隊の隊長である事を不満に思っている。
「何だよ?」
「やはり貴様が仕組んでいたか」
「オブシディか、今までどこへ行っていたかと思ったらこんな所にいたとはな。でも今は緊急事態だ。文句はないよな?」
「ある。貴様なぞ食堂にいれば良いものを、今や底辺職に就いた貴様の言う事など誰が聞くか」
「全くだぜ。パーティを追放された負け犬になんか従わねえよ」
オブシディの斜め後ろにいるトパー・インペリアが話しかけてくる。
彼は黄色のトゲトゲ頭が特徴であり、ありとあらゆる光の魔法を駆使し、相手の動きを止めてから攻撃するアルカディアのトリックスターである。
「ああ? お前ら今の状況分かってんのかこらぁ!」
「そもそも何故一般市民の貴様が戦場にいるのか理解に苦しむな」
「まっ、せいぜい死なないようにする事だな」
ルビアンが彼らの挑発に乗ってしまい、またしてもルビアンのアルカディア時代と同じノリで言い争いを始めてしまう。
「別に従わねえならそれでも良いけどよ。もしお前らがモルガンの命令に従わなかったら、お前らを軍の規約違反で女王に報告するから覚悟しとけ。討伐隊ならともかく、軍での裏切りは下手すりゃ死刑の可能性もあるからな」
「「!」」
2人は一瞬ビビった表情になると、ルビアンがスカッとしたような顔で彼らの後ろに頭を向けたまま笑いをこらえている。
自分には逆らえても、ディアマンテやモルガンには逆らえない事を知っていた。
「ま、まあいい。俺たちが従うのはあくまでモルガンだ」
ルビアン、モルガン、スピネ、オブシディ、トパーの5人が森の中央に辿り着く。他のメンバーはモルガンの命令で別の5人1組の中にいる。
「ルビアン、そろそろ作戦を教えてくれないか?」
「それは秘密だ。敵を欺くにはまず味方からって言うだろ。何かを企んでいるように見えてしまったら、敵に警戒させてしまう可能性がある。それに森の中にいれば、あいつらの注意を確実にこっちに向けられるからな」
「――分かった。信じるぞ」
モルガンはただ闇雲に森の中へ軍を避難させたわけではない事を確認すると、今だけはルビアンの言いなりになってやるかと思った。
モルガンは戦闘中の指揮、特に接近戦での『戦術』を得意としている。
一方で大局面での『戦略』ではルビアンの方が勝っていた。故に彼が後衛を任されていた時はそれなりに戦術と戦略がうまく噛み合っていた。
戦いの術では前衛の直感が冴える。だが戦いを略す事においては後衛の分析が物を言う。
彼が戦場を遠くから眺めていたのは後衛を務めていた時の癖によるものである。
彼が追放されてからは文字通り戦いを略す事ができなくなったため、モルガンはどの局面においても長期戦を余儀なくされた。この部隊の指揮も例外ではなく、彼女は敵にとって有利な条件で戦わされていた。
アルカディアの面々はあっけなく退かざるを得なくなった上、パーティから追放した憎き相手に頼る破目になってしまったこの由々しき事態に悔しさと憤りを覚える。
彼女らの心に渦巻く負の感情の矛先は無力な己自身の未熟さだった。
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読んでいただきありがとうございます。
オブシディ・プリニウス(CV:津田健次郎)
トパー・インペリア(CV:石田彰)




