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第33話「救援要請」

 食堂には異様な空気が漂っていた。


 いつもは偉そうな態度でルビアンを貶していたスピネがルビアンにお願いをしている。


 しかも既にパーティから抜けている相手へのお願いだ。ルビアンでなくても応じないのが当たり前だが今は国家の危機である。


「あいつがどうなろうと俺の知った事じゃねえだろっ! んなもんパーティメンバーに頼めよ!」

「そういうわけにもいかないの。仲間たちはみんな最前線から動けないし、今も本土の近くで交戦中なのよ。しかも肝心のエンポーは全部国が管理する事になって、そのせいで持ち出せる数に制限がかかってしまったの。既に部隊から何人もの死傷者が出てるわ」


 スピネがルビアンたちに事情を説明する。


 ――王都は海沿いにある大都市である。故に王都は水資源で栄える事となった。だがそれは同時に海側から攻められやすい事の裏返しでもあった。


 モルガン率いる王都部隊は王都から少し離れた東側の海岸でダイヤモンドハーバーを攻めたばかりのジルコニア軍と交戦中である。周囲の客はスピネに同情していた。もし部隊が戦いに敗れればアルカディアの評判が下がるのは必至だからだ。


 だがルビアンは聞く耳を持たなかった。


「あのワイバーンの軍団、やっぱりおかしいわ。ワイバーンは人間の言う事なんて聞かないはずなのに、相手の兵士が見事に操ってた。モルガンが言うには、額にはめ込まれているブラッドパールに操られているみたいなの」

「ワイバーンって確か下級ドラゴンの亜種で、上級ドラゴンには含まれないけどパワーだけなら上級ドラゴン並みで、5人分の戦力でやっと互角にやり合えるモンスターだぞ」

「それがたくさんいるとなると、寄せ集めのアモルファス軍の部隊じゃ、対処するのは難しいな」

「呑気に分析してる場合じゃないでしょ。モルガンが言ってたの。ルビアンだったら何とかできるかもしれないって――」

「断る」


 ルビアンはスピネが言い終える間もなく即答した。


 彼にとってはアルカディアだろうがアモルファス軍の王都部隊だろうが、もはやどうでもいい事であった。討伐隊から除名された時点で彼の熱意はとうに冷めており、対岸の火事である。


「もしモルガンが指揮する部隊がジルコニア軍に敗れるような事があったら、彼女は罰を受けるわ。勝てば官軍負ければ賊軍、それがアモルファスの掟なのは知ってるでしょ?」

「知った事か。俺には関係ねえだろ」

「あのさー、オイラとしてはこんな事は言いたくないんだけど、アモルファス軍が負けたらジルコニア軍がここを攻めてくるんじゃねえの?」


 ペリードが王都の陥落を示唆する質問をすると、その場の空気が一気に静まり返る。これではさすがに他人事とは言えない。


「――その可能性は否定できないわ」

「ルビアン、今すぐ戦場まで行ってあげて。もし王都にまで攻め入られたら、食堂が壊されるかもしれないのよ。そうなったらもう営業どころじゃないわ」

「うーん、そうだなー。でもこいつバーで俺の事を散々ボロクソに言ってたからなー」


 ルビアンは忘れていなかった。アルカディア時代にスピネから散々ネチネチと嫌味を言われ、ルビアン追放を心から喜んでいた事に。


「その事については謝るから。ごめんなさい」


 スピネは内心ぶちぎれながらも頭をペコリと下げる。状況が状況なだけに彼女はプライドを捨てるしかなかった。全てはモルガンを助けるために。


「じゃあ俺の靴を舐めてみろよ。そしたら考えてやっても良いぜ」

「ルビアン、言い過ぎよ」

「冗談だって。こいつが靴なんか舐めるわけ――」

「「「「「ええっ!」」」」」


 スピネ以外のその場にいる全員が驚愕する。彼女は両手を地面に着き、目を瞑りながら泣きそうな表情でルビアンの両靴を舐めようとしていたのだ。


「うわっ! やめろって! マジで舐めようとする奴があるかボケ!」


 ルビアンは慌てて後ろにジャンプする。スピネのただならぬ覚悟に周囲はぽかーんとしていた。スピネは四つん這いだった姿勢からゆっくりと立ち上がって息を吐いた。


「あんたにとってはどうでもいい人かもしれない。でもあたしにとってモルガンは大切な人なの。だからお願い。モルガンを……助けてください」


 俺は全く大事じゃないのな。


 スピネは泣きながら頭を下げ、ルビアンに必死のお願いをする。


 ふと、ルビアンは横を見る。目線の先には不機嫌そうにルビアンを睨みつけるガーネの姿があった。


「女の子を泣かすなんてサイテー」

「分かった分かりましたよ。その場を何とかするだけだぞ」

「ルビアン、ありがとうっ!」

「なあ、ガーネ、頼むから機嫌直してくれよ。なっ!」

「女の子をあんな風に扱うなんて考えられない」

「ルビアン、ガーネは一度こうなったらなかなか治らないぜ。もう覚悟を決めて戦場まで行ってやるしかないんじゃねえか。店の事は心配すんな。行ってこい」

「はぁ~、分かったよ」


 ルビアンはしぶしぶとスピネの案内でアモルファス島にある東側の海岸まで赴く事となった。


「モルガンが危ないわ。早く来てっ!」

「言っとくけどな、お前らのためじゃねえ。ガーネが機嫌直してくれないから仕方なく行くってだけだ。それを忘れんなよ」


 ルビアンは支度を済ませるとすぐにスピネと共に戦場へ向けて出発する。


 彼は最近トラブルに巻き込まれすぎと思いつつも馬車に乗るのだった。

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読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、こうなりますよね。雇い主には勝てませんわ。 こうなるとこのトラブルの結末が気になりますね。ルビアンとアルカディア、特に助けを求めてきたスピネとの関係がどう変わるのか。 恩を仇で返されて…
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