第28話「緊急案件」
数日後、アモルファス王国王都の宮殿にて――。
モルガンは仲間たちと共に船で帰国し、王都の宮殿まではぁはぁと肩で息をしながら入っていく。情報はアルカディアのメンバーたちと共有している。
宮殿内の大理石やシャンデリアの中をその足で上り、玉座の間へと辿り着く。
「おいっ、ここは大臣以上の者以外は――」
宮廷内に住む大臣の1人がモルガンを咎めようとする。
「申し訳ありません。緊急案件です。国家の一大事なのです」
モルガンは慌てながらも冷静な口調で答える。
「あら、今度はどんな案件かしら?」
「ジルコニアの情報を掴みました」
「「「「「!」」」」」
その場にいるモルガンとディアマンテ以外の全員が驚く。
「ふふっ、今日の会議は退屈せずに済みそうだ。さあ、今から会議を始めるぞ。彼女に水を持ってきてやるのだ」
「かしこまりました」
「お心遣い感謝いたします、女王陛下」
ディアマンテが不敵に笑いながらモルガンを歓迎する。その懐の広さにモルガンは感謝を伝え、用意された席に着く。
会議が始まると、モルガンはジルコニアから持ち帰った情報を次々に報告していく。
ブラッドパールをジルコニアの工場で次々と量産化されていた事、近い内に攻撃を開始する事、既に工場は何者かが壊した事、ブラッドパールを使ったモンスターの軍隊を持っている事を話し、大臣たちはざわざわと慌てふためいていたが、ディアマンテは顔色1つ変えず最後まで聞き続けている。
「以上が報告となります」
「ふむ、ご苦労だったな。もう下がってよいぞ」
ディアマンテはそう言いながら、さっさと帰れと言わんばかりに片手で冷たく相手を追い払うような仕草をする。
「対策は話されないのですか?」
「妾は下がって良いと申したはずだが」
ディアマンテがムッとした表情でモルガンを見つめる。その威厳の強さに彼女は思わず体が震えあがってしまう。
「は、はい。承知しました」
モルガンが玉座の間から去っていく。
ディアマンテが彼女を会議から追い出したのには訳がある。
このままモルガンが居座り続ければ、いずれ訪れるであろう政権争いに巻き込まれると感じたからだ。これに巻き込まれた者は、常に魔境を彷徨い続ける事を知っていたが故である。
モルガンはディアマンテが見込んだ数少ない英傑、そんな彼女を争いの犠牲にはしたくなかった。
ようやくいつものメンバーだけになったところで、ディアマンテはエメラを始めとした大臣たちに告げる。
「さて、これからジルコニアとの交渉をどうするかを考えるぞ」
「わたくしはジルコニアとの戦争は避けるべきであると考えます」
「妾もその案でいこうと思う。珍しく意見が合ったな」
「しかし、モルガンの報告が真であれば、今すぐこちらも迎撃準備をしなければ大変な事になるかと。わが軍の戦力のほとんどは植民地に駐屯しております故、本土はがら空きです」
「だが植民地から軍を撤退させれば奴らの思うつぼだ。ここは王都に所属する討伐隊を集め、王都を守らせるように伝令を送るのだ」
「討伐隊に任せるのですか?」
「今はそれしかない。どうしても奴らが攻めてくるようであれば、こちらとて容赦はしないと通達を送っておけ」
「かしこまりました」
その頃、モルガンは食堂へと向かっていた。
ルビアンが帝都まで行ったと聞いて後を追いかけたは良いが、一向に見つからないまま帝都から帰ってきてしまった事を彼女は悔いた。
ずっとルビアンに会えないその不安から彼女は歩きながら息を吐いた。すると、食堂の扉が開いてモルガンが入ってくる。
「あっ、モルガンじゃない。いらっしゃい」
「!」
モルガンはルビアンが当たり前のように食堂で働いている姿に驚いている。ルビアンはモルガンの姿に飽き飽きしている様子だ。もう顔も見たくない相手が客としてやってくる事の気まずさに、彼は店の奥へと姿を消そうとする。
「待ってくれ。ルビアン、お前本当に就職したのか?」
モルガンが呼び止めると、彼はその場に後ろを向いたまま足を止める。
「だったら何だよ?」
「ルビアン、私の家のハウスキーパーにならないか? お前なら色んな雑用をこなせるだろ。給料も福利厚生も補償する。しかも――」
「断る」
ルビアンはモルガンが台詞を言い終える前にそれを遮る。
最初の言葉の時点で断る事は明白だった。彼にはそれ以上の言葉は要らなかった。ずっと信頼していた彼女にまで見限られた事を忘れていなかった。
モルガンはこの時点で自ら画策した計画が崩壊している事に気づかない。
「なっ、何故だ?」
「ちょっと外に出てくる。モルガン、話なら外で聞く」
「あ、ああ」
2人はそのまま外に出る。食堂の扉の前にはオープンと書かれた看板がある。行列はなく、外では所々に通行人がおり、数々の家が王都の街を賑やかに飾っている。
「何故だと聞いたな?」
「ああ、教えてくれ」
「――俺はお前の事を信頼していた。だからどんなに他のメンバーがうざくったってついてこれた。なのにお前までエンポーに目が眩んで俺を突き放した。あれで分かったんだよ。お前にとって俺の価値はエンポー以下の価値だったってな。それにお前言ったよな? 本気だって」
「何か誤解しているみたいだが、私がお前をパーティから追放したのは、お前を私の家で雇おうと思っていたからだ。お前は私以外の人に頼れない奴だからな。しばらくすればお前が頼ってくると思ってずっと待っていたんだぞ。それにお前が帝都まで行くと聞いたから、私も帝都までお前を追いかけていったというのに顔も見せてくれない。もしかして帝都まで行ってなかったんじゃないか?」
モルガンはルビアンの気も知らないで自らの想いを勝手気ままに披露していく。モルガンにとっては情けだが、ルビアンにとっては傲慢な態度でしかなかった。
こんな思い込みのためにあんな辛い日々を送ったのかと彼は心から激昂する。
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