第27話「摩擦の導火線」
翌日、昼になると食堂開店の時間がやってくる。
ルビアンが帝都まで瞬間移動する。だがそこは昨日から大騒ぎになっており、ジルコニアの将軍、御影がアモルファスのスパイから先制攻撃を受けた内容の演説を行い、帝国民の戦意を煽っている。
工場は粉々に砕け散っており、その周囲には巨石の魔法で使われた石の破片が転がっている。
怪我人が複数人ほどいたが、死者は1人も出なかった。これは一般市民までを巻き込むべきではないというカーネリアによる配慮である。
ブラッドパールの生産はしばらくできなくなった。だがただでは済まない状況になっている――。
「これ……一体どうなってんだ?」
ルビアンが廃工場になった場所を調べる。
たくさんのブラッドパールが粉々になってる。しかもこの岩――まさかカーネリアか?
彼はすぐにカーネリアの仕業であると気づく。しかし彼女はここにはいない。何だか嫌な予感がすると思った彼は、ジルコニア米を購入するとすぐに食堂へと戻る。
「あっ、ルビアンお帰り。不作って聞いてたけど、帝都だと普通に売ってるのね」
「不作どころか今年は豊作だって商人が笑いながら言ってたぜ」
「じゃあ、何でジルコニアは不作だって嘘を吐いたのかしら」
「エメラが貿易摩擦のためだって言ってたから、多分それだろう」
「それはそうだけど、何か裏がありそうなのよねー」
ルビアンたちはそんな事を話しながら仕込みを始め、これからやってくる客に備える。いつものように常連を始めとした客が昼食を食べに来る。
厨房からは強火で鍋を揺らしながら注文の品を作るグロッシュやペリード、接客に応じるガーネ、食材の鮮度の回復と皿洗いをするルビアンがいる。
「ごきげんよう」
1人の聞き覚えのある高飛車な声が聞こえる。
作業中のルビアンが後ろを振り返ると、そこには緑を基調とした豪華な衣装を身にまとうエメラの姿があった。
場所に似合わないその優雅な姿に人々は目を奪われる。
「あっ、エメラさん。いらっしゃいませー」
「ルビアン、ガーネ、ジルコニアまでは行けたのですか?」
「注文してくれたら教えてやるぜ」
「――分かりました。ではお勧めの定食を下さい」
「お嬢様、このような場所で食べてはお嬢様の品位にかかわります」
「庶民の生活を体験するのも貴族の仕事のはずです。じいやは下がってなさい」
「はいお嬢様」
エメラの注文通りにグロッシュがチャーハン定食を作る。
料理を作っている間にルビアンが今までの状況をエメラに説明する。彼女はジルコニア米の不作がフェイクである事は知っていたが、帝都の工場が何者かによって攻撃された事は初耳である。
まだ確証は持てなかったためにカーネリアの名前は伏せた。
「――つまり話をまとめると、海峡でクラーケンに遭遇し、その後馬車で帝都まで行ったらジルコニア米が豊作で、さっき行ってみたら工場が破壊され、それを花崗がわたくしたちの送ったスパイのせいにしていたというわけですか」
「アモルファスはスパイを送ってたのか?」
「いえ、こちらとしてはただの言いがかりとしか言いようがありません。一個人が暴れたくらいで先制攻撃と受け取られても困りますわ」
エメラはある機会をうかがっていた。
彼女が属するエスメラルド家はディアマンテが属するモンド家とは対立する関係にある。そのため外交には消極的なディアマンテとは異なり外交路線で支持を集めようとしていたエメラにとって、これは政権を奪い取れるチャンスではないかと。
ディアマンテの政策が失敗に終われば、不信任で政権交代ができると考えていた。
「俺が知ってるのはこれくらいだ」
「なるほど、それは一度交渉する必要がありそうですね」
「はい、チャーハン定食」
プレートに乗ったチャーハンとおかずが彼女の目の前に置かれる。
「ジルコニア米を使ったチャーハンです。レンゲですくった時はパラパラしていますが、食べるとモチモチとした食感に包まれて、とても美味しいですよ」
「……」
エメラがジト目になりながらチャーハンをすくって食べる。
「……美味しい」
エメラが予想外に美味しい味に驚く。
同時にこれほどの質の高さを誇る米を作る国が、数日間船で移動した先にある事に危機感すら覚えている。だがそれを忘れさせてくれるような味でもあった。
――これをみんなが食べられる日々を維持するためにも、戦争だけは防がなければ。
エメラは外交で戦争を防ぐという方針が決まる。それはディアマンテを助ける事にもなるが、ジルコニア米を気に入った彼女にそれを考える余裕はなかった。
「そりゃ良かった。お嬢様ほどのお客さんに喜んでもらえたなら自慢になりますよ」
「ジルコニア米は初めて食べましたが、これほどのものとは思いませんでしたわ」
彼女はすぐにチャーハン定食を食べ終える。食べ方は実に上品であったが、食欲旺盛なところまでは隠せなかったのか、早食いである事が露呈してしまった。
「結構食べるんだな」
「そこ、うるさいですよ。じいや、お代を払っておいてください。わたくしはこれから大事な用事がありますので、これにて失礼します。ごきげんよう――」
「はいお嬢様」
エメラが真っ先に店を出ると、お代を払った執事がその後を慌てて追いかけていく。外にはエメラ専用の馬車があり、執事がそれに乗ると慌てながら馬車を走らせる。
食堂はその日もジルコニア米のチャーハンがよく売れたのだった。
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