第24話「認められる喜び」
食堂が書き入れ時になり、次々と客が足を運んでくる。
客席制限がなくなったのか、それをずっと待っていた客が集まってきたのだ。ルビアンとガーネは王都と帝都を瞬間移動で行き来できるようになった事で、個人の仕入れでは他の店よりも有利となっていた。
アナテとブルカは美味しそうに店の看板メニューであるチャーハン定食をモグモグと食べている。これがまた可愛くてたまらない。
ルビアンにしてみればアルカディアのメンバーが来る事には不満しかないが、客を選べる立場でもなく、仕事に私情を挟む事はよろしくないと思っていた。彼はモルガン以外の全員と元から仲が悪く、誰1人として追放を悲しむ者はいなかった。
「「ご馳走様。このお米美味しかったよ」」
2人が同時に食べ終わりお代を払う。ジルコニアとの国家単位での貿易ができなくなった今、ジルコニア米の価値が高騰していた。
だがルビアンとガーネがジルコニア米を継続的に供給できる事を知ったグロッシュは定食や単品の値段を変える事はなかった。商売的に言えば損をしているが、それ以上に客の笑顔を見るのが彼の楽しみであった――。
「ねえルビアン、新しく入った人知ってる?」
「知らねえよ」
「モスア君って言うんだよー。めっちゃイケメンだし、昔いたパーティで前衛の攻撃力が評価されてモルガンが直々にスカウトしたんだってー」
「そりゃ良かったね」
「食料調達もロクにできなかったルビアンよりも優秀そうだし、ずっとおなかペコペコのまま遠征せずに済みそうだね」
「そうそう。ルビアンだけ多めに食料を食べてたりして。あはははは」
アナテとブルカが交互にルビアンの神経を逆撫でする。いつものノリでルビアンをからかい始めたのだ。彼女たちにとってはただの冗談だが、ルビアンはそうは受け取っていない。
いちいち客と喧嘩をするのも馬鹿馬鹿しいと思っていた彼はジッとこらえ、悔しさを噛みしめながら調理の手伝いをしている。
「その辺にしてくれないかしら」
少しばかり冷たい声でガーネが2人に注意する。
「「えっ」」
「確かにルビアンは不器用だし、戦闘でも攻撃面で目立たなかったかもしれない。でも彼は人を貶めるような事は絶対にしないわ。そういうあなたたちだって、ルビアンに戦闘の度に回復し続けてもらった恩も忘れてるし、ルビアンの大変さを分かって言ってるの?」
「そんなムキになる事ないじゃん」
「そうそう。ブルカたちは事実を言ってるだけだよ」
「なら、ルビアンの良いところも言ってみたら」
「「……」」
こいつら――急に黙りやがったっ! マジで何も言えねえのかよっ!
ルビアンは後ろを向きながら絶望的な顔になる。黙ってくれたのはありがたいが、それは評価されていない事の裏返しでもあり、心底では複雑な様子だ。
「本当にないんだ」
「だって普段からモルガン以外と全然話さないもん」
「そうそう。ブルカたちだってモルガンと話したかったのにぃ~。モルガンと話せるだけでも恐悦至極だってのに当たり前のように話しかけるし、マジ生意気」
「モルガンってそんなに凄いんだ」
「「凄いも何も、敵を一刀両断するあの聖剣捌き、目の前で見たら本当に美しいんだからぁ~。ガーネも一度見てごらん。絶対惚れるから」」
2人は過去に見たモルガンの活躍を想像しながらデレデレとした笑顔になる。メンバーたちにとってモルガンはあこがれの存在。そしてただでさえ元から地位の低かった回復担当であるルビアンには優越感を持っていた。
モルガンがデイムの称号を手にしてからは、なおさら釣り合わないと思われるようになっていた。
「う……うん。機会があればね」
ガーネは2人のテンポに押されている。
これが双子パワーなのかとルビアンもガーネも思い知る。声が大きく数が多い方が勝つと思っているアルカディアのメンバーたちに彼らの声は届かなかった。
しばらく雑談をしていたアナテとブルカたちが帰っていく。
「「はぁ~」」
ようやく呪縛から解き放たれたと言わんばかりにルビアンとガーネがため息を吐く。ここにきてガーネはルビアンが今まで味わってきた苦労を思い知る。
「あの人たち、ちょっと対人能力に難ありね」
「ちょっとどころじゃねえけどな」
「生まれつきの能力が高すぎると、どうしてもプライドまで高くなっちゃうのね。はぁ~、なんかドッと疲れた。もうあの双子相手にしたくない」
「だったら少し休めよ。後は俺がやっておくからさ」
「うん、そうする。ルビアン、ありがとう」
「お、おう」
ガーネは休息も兼ねて賄い飯を食べている。
ルビアンはようやく調理に慣れてきたのか、ガーネと同様に基本的なメニューは作れるようになっていたが、グロッシュやペリードのように早く作る事はできない。
彼は仕入れた食材に対して定期的に鮮度の魔法を施し、廃棄処分にならないよう尽力する。
店内の掃除も洗浄の魔法であっという間に終わり、料理に食材管理ばかりか、仕入れや掃除の負担を減らす事さえできていたためにガーネたちの信頼を獲得していく。
度々ガーネたちから褒められた事で、ルビアンは人に認められる事の喜びを知る。
それはアルカディア時代にはなかった感情であった。
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