第23話「雑用回復魔法」
翌日の昼過ぎの事、ルビアンの前にはカーネリアがいる。
彼女が旅立つ準備は整っている。ルビアンはカーネリアをジルコニアへ送ってから、帝都の探索をする事となった。だが食堂の方も手伝わなくてはならない。
ルビアンは自分には討伐隊の方が合っていると感じながらも食堂で働く道を選んだ。後悔はないがまだ心の片隅では諦めきれていない。
食堂さえ潰れなければ生活をする事はできるが、それだけでは物足りないという欲望が――彼の中には確かにあった。
「ジルコニアまで送るのは良いけどさ、どうやって情報を探るんだよ?」
ルビアンはカーネリアにジルコニアの情報を手に入れる手段を聞く。
「簡単な事だ。本当の事を吐かせれば良い。」
カーネリアは答えた。だがさらっと答えた割には抽象的な方法だとルビアンは感じた。
「本当の事を吐かせるとは言っても、マジでできんのか?」
「そうだ」
「でも国家機密を知ってる奴なんてそうそういねえぞ。吐かせる方法はともかくとして、どうやって知ってる奴を探すんだよ?」
「それも秘密だ。だがどちらも確実な方法がある」
「そうかよ」
ルビアンはこれ以上詮索せず、カーネリアの手を掴むと瞬間移動の魔法を使う。
帝都は相変わらずの様子だった。
市場では人が賑わい、主に米や穀物などの取引が行われている。
長屋にはカーネリアの知り合いもおり、アモルファス人も数は少ないがジルコニア人たちと共存していた。帝都の外側には大きな農地があり、そこでは農民たちが日光に耐えながら汗水を垂らして働いている。
そこでも魔法が大いに活用されており、何割かは討伐を終えて戻ってきたところだった。
ルビアンたちはそんな帝都の様子を眺めながら歩いている。
「――ジルコニアにもモンスターはいるんだな」
「それは当たり前、この世界を半分ずつ支配している2ヵ国がずっと戦争をしなかったのは突然変異したモンスターの対処に追われていたからだ」
「何でモンスターたちが突然変異を起こしたんだろうな?」
「それは諸説あるんだが、人間が自然環境を荒らし、それに対処しようとモンスターが突然変異を起こして強化されたという説が、今のところ1番有力だ。あたしはこの辺でおさらばさせてもらうぞ」
「手伝える事はないのか?」
「今はない。だがもしかすれば、お前の能力が必要になるかもしれない。じゃあな」
カーネリアが突然走り出し、帝都の街から消えていく。
彼女には策があった。役人をおびき出して真実を履かせる方法が。
ルビアンはそんな彼女の事を気にしてはいたが、今は手伝える事がない旨を伝えられた以上、帝都への長居は無用となった。
「おー、おかえり。早かったな」
「今は俺に手伝える事はないってさ」
「そうか。でもうちには手伝える事がいくらでもあるぞ。今お客さん来てて動けないから、皿洗いやってくれないか?」
「分かったよ」
ルビアンはしぶしぶ皿洗いを始める。
彼は洗浄の魔法を使って次々と皿を洗っていき、あっという間に全ての食器がピカピカに光るようになっていた。魔力を帯びた彼が食器に少し触れただけで食器についていた汚れが全て落とされ、まるで新品のように光沢を放っている。
その凄まじいスピードにガーネが目を丸くして驚いていた。
「終わったぞ」
「早っ! 前々から思ってたんだけど――ルビアンって雑用得意だったりする?」
「一応な。アルカディアにいた時は唯一の非アタッカーであるという理由で雑用ばっかやらされてた。家の中でも外でもずっと専業主夫みたいな扱いだったよ。二度としたくないって思ってたけど、まさかここで役に立つとは思わなかったよ」
すると、食堂の扉が開き新たな客が入ってくる。
「いらっしゃいませー」
新たな客にガーネが意気揚々と声をかける。
ガーネの接客スキルはかなりのものであった。リピーターの中には彼女と毎日会うために来ている人もいるほどだ。
「「おやぁ~、これはこれは。パーティを追放されたルビアンじゃないですかぁ~!」」
似た容姿の2人が同時にルビアンに声をかける。
「アナテちゃんにブルカちゃん、久しぶりー」
ガーネがルビアンの代わりに返事をする。2人共髪型以外はほぼ共通している。アナテ・ルチルはポニーテールであり、その左隣にいるブルカ・ルチルはツインドリルである。
この2人は双子の姉妹であり、アナテが姉、ブルカは妹だ。背は低めで見た目は子供っぽく見えるがもう既に成人している。
しかもずっと別の仕事に駆り出されていたアルカディアのメンバーでもある。2人は王都の仕事でしばらくはアジトに帰宅できなかった。
アナテは後衛のアタッカー担当で物理攻撃と魔法防御が得意であり、ブルカは前衛のブロッカー担当で魔法攻撃と物理防御を得意としている。2人は攻撃と防御の得手不得手が逆であり、時期によって前衛と後衛を入れ替わる事が多い。
「ハモるな。気持ち悪い」
「「ブーブー。何その接客態度、酷くない?」」
「悪いな、オイラも何度か注意はしてるんだけど、なかなか変わらなくてな」
「アナテたちはずっと王都の仕事に駆り出されてたから、ルビアンの追放を知ったのはつい最近なんだけど、理由が理由だからしょうがないね」
「うん、ブルカもそう思う。もしかしてぇ~、空腹を回復させる魔法を使ってるとかぁ~。あはははは」
「空腹までは回復できねえよ。いくら回復したところで、空腹による栄養失調までは俺でもどうにもならねえ。だから食うのに困ったら終わりなんだよ。なのにモルガンの奴、退職金もなしに俺を追い出しやがったからな」
「「なるほどねぇ~」」
アナテとブルカはチャーハン定食を注文する。
ルビアンが追放された事には全く驚かなかった。むしろいつ追い出されても不思議ではないと思っていた。その予感がようやく的中したかと言わんばかりだ。
彼の口の悪さは相変わらずだった。
だがそれはずっとアルカディアで虐げられていたが故の結果である。何かしら言い返さなければ余計になめられるという自尊心が反射的に彼を卑屈にしていた。
彼はその自覚もないまま他の雑務を手伝うのだった。
気に入っていただければブクマや評価をお願いします。
読んでいただきありがとうございます。
アナテ・ルチル(CV:伊瀬茉莉也)
ブルカ・ルチル(CV:かないみか)




