第22話「食堂への帰還」
昼を迎えると、ルビアンたちは帝都の市場まで赴く。
そこでガーネの知り合いであるジルコニア人と会う事ができた。ルビアンたちは商人からジルコニア米を購入し、一度帝都から王都へと戻る。
ルビアンはカーネリアの腕を掴み、一緒に食堂へと戻る事となった。
「おっ、やっと帰ってきたか」
「ふぅ、やっと客席制限を解除できる」
グロッシュもペリードも売り上げの少なさからしばらくは少食にせざるを得なかった。
ルビアンたちがジルコニア米を持ち帰るまでの間、ずっと減っていく食材を相手に持久戦に耐え続け、ルビアンたちを見た事で安堵の表情を浮かべていた。
「アモルファスにこんな食堂ができていたとは――」
「「!」」
「もしかして、カーネリアか? その髪の毛、あんたカーネリアだろ?」
カーネリアとペリードの目が合うと、カーネリアは咄嗟に食堂の端っこにまで移動して顔を隠す。ペリードは嬉しそうな顔を浮かべるが、カーネリアは合わせる顔がないようだ。
「知り合いか?」
「知り合いも何も、カーネリアはオイラがいたパーティのエースだったんだぜ。得意の全体攻撃で敵をあっという間に壊滅――」
「やめろっ!」
カーネリアの叫び声が食堂内に響き渡る。
彼女にとっては傷を抉られているような気分だった。久しぶりに会えた事が嬉しくてたまらないペリードの無神経な言葉が、彼女の心を突き刺すように傷つける。
「ど、どうしたんだよ!?」
「あたしはもうエースじゃない。うっ、ううっ」
カーネリアが食堂の扉を叩くように開きながら出ていく。ペリードは気づいていなかった。彼女がどれほど深く傷ついたのかを。
「女性を泣かすなんてサイテー」
「いやっ! そんな事言われても何の事かさっぱり分かんねえよ! 向こうでカーネリアと何があったんだよ?」
ルビアンはカーネリアの事情をグロッシュたちに説明する。
「じゃあ、そいつの賠償金のために世界中を回ってたわけか。ペリード、後でカーネリアに謝っとけよ。大事なお客さんになるかもしれないからな」
「分かったよ。でもまさか、そんな事情があるとは知らなかったよ」
「同じパーティだったのに何で知らねえんだよ?」
「そのパーティの主力とエースが一斉にいなくなったせいでロクに討伐ができないって思ったから、それでパーティを解散したんだよ。だからその後の事は知らなかった。討伐隊の仲間はあくまで仕事仲間であって友達じゃない。それはルビアンも知ってるだろ?」
「ああ、嫌と言うほどな」
ルビアンは食堂にある食材を鮮度の魔法で元に戻すと、すぐにカーネリアを探しに行く。カーネリアはすぐそばにある広場で落ち込んだ顔のまま座り、日陰に隠れながらボーッとしていた。
広場では王都の子供たちがボールを蹴って遊んでおり、彼女はその様子をジッと眺めている。
ルビアンはカーネリアを見つけるとすぐそばに座った。
「ペリードには俺から事情を説明しといたぜ」
「良いんだ。あいつは事情を知らない」
「たまには王都の景色を見るのも悪くねえだろ?」
「そうだな。だがあたしはここにいるべきではない。あいつに合わせる顔がない。ルビアン、明日で良いから、あたしを帝都まで戻してくれないか? やるべき事がある」
「じゃあ俺もついていくよ。手伝うって約束したからな」
「ルビアン……ふふっ、お前は変わった奴だ」
「ほっとけ」
カーネリアはルビアンにただならぬ関心を示していた。
大半の人間は自分の能力を示すと自分を恐れるようになる。だがルビアンはカーネリアを恐れるどころかあっさり受け入れている。アルカディアのメンバーのめんどくささに比べれば、カーネリアは全く苦ではない。
ルビアンは自分がアルカディアにいた事を話す。
「アルカディアなら聞いた事がある。唯一ドラゴンを討伐した王都最強の討伐隊と聞いている。まさかルビアンがそこにいたとは思わなかった。ドラゴンばかりのあの場所で、よく生き延びたものだ」
「過去の栄光だよ。俺に至っては直接倒してないし」
「それでも、ありとあらゆる回復魔法が使えるのは凄い事だ。ルビアン、あたしは決めたぞ。あたしは必ずジルコニアの情報を掴み、賠償金を払ってみせる。そうすれば、あの子に謝れる気がするから」
カーネリアはまだ謝っていない。それこそ彼女が残した1番の悔いだ。
名誉を重んじる彼女にとっては賠償金を払うよりも謝る事の方が何より重要であった。だがただでは許してもらえないのが世の理である。
ルビアンはそんな彼女を手伝おうと思った。
しばらくして2人は食堂へと戻る。ペリードはさっきの事を謝るが、カーネリアはあっさり許した。許してもらえない者の苦しみを理解できるからだ。誰かを許せないままでいるのはお互いのためにならないばかりか呪いとなってしまう。彼女はこれ以上呪いを増やしたくはなかった。
カーネリアは近くにあるモンドホテルで休む事となった。
ガーネはしばらく店を手伝う事に専念するが、ルビアンはグロッシュに事情を説明すると、仕事を度々抜ける事を認めた。食材の鮮度を戻してもらえただけでも十分にありがたいとグロッシュは感じている。
ルビアンはそんな食堂の軽い風土に感謝し、今日も眠りに就くのだった。
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