第21話「強さの代償」
第3章の始まりです。
お楽しみください。
その頃、ルビアン、ガーネ、カーネリアは帝都に辿り着く。
彼らはそこの定食屋でジルコニア料理を楽しみ、靴のまま上がろうとして注意されたりしながらも、ようやく落ち着く事ができた。
帝都には寝殿造や書院造の屋敷が数多くあり、屋根には瓦が使われている。ルビアンたちは初めて見る畳、障子、床の間、鴨居などに驚きを隠せないでいる。
「――これ、全部木でできてるんだよな?」
「ええ。ジルコニアの知り合いの話で聞いた特徴と一致してるわね」
「どうにか帝都までたどり着けたし、一度家に帰るか」
「待って。確かに帝都にはいつでも来れるようになったけど、家に帰るのは寝る時だけよ。瞬間移動の魔法は距離が遠いほど消耗が激しいんだから、帝都までの距離だと、下手に何度も使えないわ」
「そのための回復魔法だろ」
「お前たちは一体何の話をしてるんだ?」
カーネリアがルビアンとガーネの会話に疑問を呈する。
2人が瞬間移動の魔法を使え、それ故いつでも王都と帝都を行き来できる事を彼女は知らない。ルビアンたちが事情を説明するとようやく納得する。
「ふむ――そういう事か。ルビアンはパーティを追い出され、今はガーネの食堂の手伝いをしているというわけか」
「そういえば、何でカーネリアはフリーランスで討伐してるんだ?」
「あたしもパーティを追放されたからだ」
「「ええっ!」」
「何故驚く?」
「いや、だってクラーケンを一撃で倒せるような強い奴が何で追い出されたのかなって」
ルビアンの言葉を聞くと、彼女は空を眺めながら話しだす。
「私の攻撃は全体攻撃ばかりだ。だから味方が射程範囲から外れているか、バリアを張っている状態でなければ味方にまでダメージを与えてしまう諸刃の剣。この前の巨石の魔法も下手をすればお前たちにも牙を剥いていたかもしれない。あたしはパーティの役に立たないばかりか、それで大切な仲間を殺しかけたのだからな」
「「!」」
カーネリアが何かを思い出したかのように涙目になる。
ルビアンもガーネも彼女が自らの力の大きさに悩み、ずっと苦しんできた過去が容易に想像できた。能力が時代に合っていないからという理由でパーティを追放されたルビアンとは違う理由である。
「それはお気の毒ね」
「あたしは自らの魔法でパーティの主力を引退に追いやってしまった。あたしはその責任を問われ、多額の治療費と賠償金を請求された上でパーティを追放された。あたしはせめてもの罪滅ぼしとして、フリーランスで討伐したモンスターのアイテムを金に換え、それを治療費に充てている。何とか治療費は払えたが、まだ賠償金を払いきれてない」
「ブラッドパールを探しているのはどうしてなの?」
「ジルコニアが良からぬ事を企んでいると風の噂で聞いた」
「風の噂?」
ガーネがさっきよりも集中してカーネリアの話に耳を傾ける。
「ああ。もし有力な情報をアモルファスに売れば、情報料をたんまり貰える。それで賠償金を払いきれると思った。だが未だに有力な情報は見つからず、それで途方に暮れているところにお前たちとあのクラーケンが現れたというわけだ」
カーネリアが要求された賠償金は100万ラピス。引退に追いやられたパーティメンバーが貴族の出身であった事もあり、平民には到底支払いきれない破格の額であった。
だが責任感が強い彼女はそれを引き受けた。
そのためならと危険地帯にも自ら潜り込んだ。死んだら死んだで償いになる。討伐隊に入るような人間は、みな命よりも名誉を重んじる者ばかりである。
ルビアンにしてみれば、チャーハンを食べるためだけにジルコニアまでやってきた自分が恥ずかしい。カーネリアが抱えている事情に比べて働いている理由がしょぼすぎる。
「分かった。じゃあ俺たちの仲間になってくれよ」
「あたしが――仲間に? いやいや、待ってくれ。私はついてきているだけだぞ」
「私は賛成かな。この前だって私たちを助けてくれたし――」
「駄目だ! あたしが仲間になれば、お前たちを傷つける事になるかもしれないんだぞ!」
「だったら何故、あのタイミングで巨石の魔法を使ったんだ?」
「そ、それは、仲間じゃないからだ。仲間でない者が巻き込まれても事故で済む。だから私は仲間を作らないでやってきた。もうあんな事になるのは嫌だから」
「違うな。やろうと思えばクラーケンが海岸からもっと離れている時に巨石の魔法を撃てたはずだ。でもそれをしなかったのは、俺たちにも攻撃が当たる事を恐れたから。それで俺たちがクラーケンから離れるのをずっと待ってたんだろ?」
「!」
こいつ、そこまで見抜いていたのか。だが一体何故?
ルビアンはカーネリアの優しさに気づいていた。彼女にはそれが嬉しかったが、1番悟られたくない感情を知られたためか、内心複雑であった。
「違う。あたしは……確実な方法を取っただけだ」
「怖い気持ちは分かるけどよ、あんたがそこまでの配慮ができる奴だって事は分かる。俺はあんたみたいな優しい奴とパーティ組みたかったな」
「私とルビアンの事なら心配しないで。瞬間移動ですぐにかわせるから」
「そうそう。あんたは命の恩人だ。だからお礼に俺もあんたの賞金稼ぎに協力するぜ。それにもしあんたが過去の事で何か言われたら、俺が全力であんたを守ってやるよ」
「!」
カーネリアは顔を赤らめる。誰1人守れなかった自分が守られる側になる事を示唆する言葉を聞いたのは初めてであるが、何より男から守ってやると言われた事自体に意識が向いていた。
このどうしようもない気持ちは何だ?
でも、そこまで好意的に受け止めてくれるのなら。
「分かった。これからよろしくな」
「ああ、よろしく」
「よろしくね」
カーネリアはしばらくの間、ルビアンたちの護衛を務める事となる。
そしてルビアンたちは、カーネリアのために風の噂の正体を暴く事となった。
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