第20話「上陸作戦会議」
アルカディアのメンバー10人の内6人が集まる。
残りの4人は別の仕事に駆り出されており、大規模な遠征をする時以外に全員が揃う事は少ない。小さな任務であれば同行する人数も少なくなる。
モルガン、オニキ、モスア、オパル、スピネが部屋の中央にある机に集まり席に着く。そこにもう1人のメンバーが歩み寄ってくる。
彼女の名はアマゾナ・マイクロクリン。ミディアムヘアーで露出度の高い服を着ている。アルカディアの盾と呼ばれており、後衛の守りの要である。魔法で味方の物理防御や魔法防御を底上げし、それによってカチコチになった盾やボディで敵に突撃するのが得意である。
モルガンはアルカディアの剣と呼ばれており、アマゾナとは対照的である。
戦場での指揮官はモルガンだが、作戦方面においてはオパルが計画を立て、アマゾナがメンバーの細かい割り振りをする。
「ジルコニアに上陸するとは言っても、上陸してどうするの?」
オパルがモルガンに尋ねる。彼女がこんな無謀な作戦を立案するとは思えないからだ。
「実はな、以前私たちを襲ったケルベロスを操っていたあの宝石がブラッドパールである事は話しただろ。あれがジルコニア産のものであると判明した。しかもそれがジルコニアとの取引が停止された後、別の場所で全く同じ物が発見された。これが何を意味するか、分かるよな?」
「――誰かが密輸してるって事?」
「そうだ。私は女王陛下にこの事を伝えたが、女王陛下は見送れと仰った」
「それじゃ、密輸を認めてるようなものじゃねえか!」
モルガンの言葉にオニキが反応して感情的に言い返す。彼は頭よりも先に体が動く。だが周囲はそれに慣れているのか全く動じない。
「落ち着け。女王陛下は文明の再構築に勤しんでおられるのだ。今我々が住むこの世界は、明らかに古代よりも文明が劣っているからな」
古代のアモルファス王国は今よりもずっと栄えていた。
それは何より『進歩的な知性』に基づいた魔法による創造が重んじられていたための産物であった。しかし、ある時から魔法よりも『神の教え』に基づいた物理による破壊の方が優先されてしまい、相対的に魔法が軽んじられるようになったために人類が一度原始人に戻りかけた事がある。
この事態を重く受け止めているディアマンテの心境をモルガンは知っており、そのために踏み込んだ抗議ができなかった。
今対外戦争を行えば文明の進歩に遅れが生じる。ディアマンテは外交よりも内政を優先するとモルガンは受け取ったのだ。
「じゃあどうすんだよ?」
「女王陛下は見送ると仰った。だがこれ以上関わるなとは一言も仰らなかった。つまりジルコニアの問題は、我々王国民に託されたという事だ。今の女王陛下は身動きが取れない。私たちは独自にジルコニアに乗り込み、彼らから情報を盗んで女王陛下にお伝えする」
「でもそんなのどうやってやるんだよ?」
「案ずるな、策はある。スピネ、確か魔法薬が作れたよな?」
「一応できるけど――まさかっ、帝都に忍び込むつもりなの!?」
「ああ、そうだ」
ルビアンは帝都まで行くと言っていた。なら帝都まで行けば会えるはずだ。
モルガンの目的はスパイではなく、ルビアンたちを見つけてアモルファスに連れ戻す事であった。だがそれを他のメンバーに悟られてはいけない。
「待って! もしスパイがばれたらただじゃ済まないわ!」
「心配するな。名目上はただの観光客だ。国と国の間に緊張はあるが、個人でジルコニアまで行く事は認められている。逆もまたしかりだ。遠征の時にも何度かジルコニアまで行った事がある」
「ならあたしも行く。モルガン1人にだけ行かせられない」
スピネがモルガンとの同行を名乗り出る。
「ならあたしも行く。いざという時には盾が必要でしょ?」
アマゾナも同行を名乗り出る。彼女はルビアンの次にメンバー内の地位が低かった。だがルビアンがいなくなった今、自分よりも地位の低い者がいない事に焦りがあり、そこから挽回するには自ら同行を名乗り出る必要があった。
「決まりだ。ジルコニアまでは私たち3人で行く。オパル、私がいない時はお前が隊長代理だ。留守は任せたぞ」
「――どうせ駄目って言っても行くんでしょ。なら行ってきなさい。ただし、必ず無事に戻ってこないと承知しないんだから」
「分かってるよ」
「そこまでして行きたい理由が気になるけど、あえて詮索はしないでおいてあげる」
オパルが小さな声でモルガンに耳打ちする。彼女にはモルガンが私情を挟んでいる事が筒抜けであったが、詳しい理由まで聞けば他のメンバーたちを混乱させる可能性があった。
モルガンはそんなオパルの配慮に黙って感謝する。
「……ジルコニアへの出発は明日だ。残っているみんなは王都のパトロールをしてくれ。また狂暴なモンスターが入ってこないとも限らないからな」
「分かったよ。残りのメンバーなんだけどさ、もうしばらくしたら戻って来るってよ。また全員で冒険に出かけたいぜ。腕がなまっちまうよ」
モスアがしばらくの平和を暇そうに語る。
もうそんな事も言っていられなくなるとモルガンは悟る。だが暴れる相手が人間になるかもしれない事への覚悟は誰1人としてできていない――。
翌日、モルガン、スピネ、アマゾナの3人がアルカディアの所有する船でジルコニアへと向かう。それから数日が経過し、モルガンたちはようやくジルコニアへと辿り着くが、帝都までの道はまだ遠い。
帝都はジルコニア列島の中央に位置する場所にあり、どこから上陸しても簡単には辿り着けないようになっている。
その事から帝都は天然の要塞とも呼ばれている。
モルガンたちは上陸すると港に船を停めて馬車を借り、そこから遠くまで馬を飛ばす。周辺の村は傍から見ても分かるほどに荒廃しており、帝都に近づくにつれて建物の立派さが増している事にモルガンは妙な違和感を持ち始める。
彼女たちは馬車に揺られながら帝都を目指すのだった。
第2章終了です。
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アマゾナ・マイクロクリン(CV:東山奈央)




