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第2話「求職する男」

 ルビアンはモンドホテルで求人を探すもなかなか仕事が見つからない。


 彼の脳裏にはモルガンとの思い出があった。その昔、ルビアンとモルガンは小さい頃から一緒に遊ぶ仲であり、将来は『結婚』して幸せな家庭を築く事まで約束する仲であった。


 しかし、ルビアンたちが学校を卒業し職探しを始めた頃、不景気が続いていたためにほとんどの求人は締め切られており、残る職業は自営業か常時募集中の『討伐隊』しかなく、自営業者としてのノウハウがない2人に選択肢はなかった。


 魔法に自信のあるルビアンと剣士としての腕っぷしには自信のあるモルガンは、当時はまだ無名であったアルカディアに入隊した。


 パーティは上限10人までという法律があり、それ以上は軍の扱いとなってしまう。軍を編制するのは王国が率いる王国軍のみが許されていた。だが当時のアルカディアは総勢5人の弱小パーティであった。


 討伐隊は平民が就ける職業の中では最も給料の高い職業であり、モンスターが出現する度に召集がかかる。アルカディアもまた、その討伐隊の1つとして名を馳せるようになった。当時はドラゴンを倒したパーティはおらず、軍でなければ倒せないばかりか傷を負わせて退却させるのが精一杯であった。


 そこに1人の男が入ってくる。


 ――彼の名はサーファ・サピロス。ルビアンの元同僚であり、色んな討伐隊を転々としている助っ人のような存在である。彼もまた回復担当(ヒーラー)ではあるが、回復能力こそルビアンに及ばないものの、代わりに物理攻撃もそこそこ得意である。


 ルビアンとはパーティ内で回復担当(ヒーラー)を競い合った仲である。ルビアンは回復に特化しているところ以外は基本的な攻撃魔法と防御魔法を使える程度であった。


「ん? もしかしてサーファか?」

「ルビアンか? 久しぶりだなー、元気してたか?」

「見ての通りだ。今日パーティから追放されたんでね。それで職探しだよ」

「ついに追放されたかー。お前あいつらと仲悪かったもんな」

「ああ、モルガンがいたからいてやったようなもんなのにさ、ついにあいつからも見放されたよ」

「俺たちがこうなったのは全部エンポーが普及したせいだ」

「何ぃ! エンポーが普及しただとぉ! そんなのありかよぉ!」


 エンポーとは『エンペラーポーション』の略である。


 回復薬に必要な材料である『ポーションプラント』が継続的に大量発生するようになり、それによって回復薬の値段が大幅に下がってしまい、回復担当(ヒーラー)の価値がなくなってしまったのだ。


 さらには有名な高等回復薬であるエンペラーポーションが格安で誰でも手に入るようになった。かつてはその希少性から皇帝のみが使う事を許されていたためにその名がついた。


「少し前から情報が出てただろ。新聞読まねえのか?」

「読まねえよ。普段はつまんねえ事しか書いてねえからな」

「で? 求人は見つかったのか?」

「全然、サーファはどうなんだ?」

「俺は最近別の討伐隊に移籍したばっかりだけどさ、最近俺よりも攻撃能力に長けた新人が入ってきちまってさ、回復はエンポーで使わなくなったし、物理攻撃は新人に取って代わられてるんだよなー」

回復担当(ヒーラー)が生きづらい世の中になっちまったな」


 ルビアンとサーファはお互いの傷を舐め合うように世知辛い世の中を語り尽くしていた。話が終わるとルビアンが再び求人を探すべくノートを漁る。


 サーファは別の討伐隊への移籍を考えるべく、求人募集中の討伐隊リストを見ていた。


「はぁ~、全然見つからねぇ~」

「そう慌てんなって。求人ならいくらでもあるんだからよ」


 ――見るに見かねてルビアンに話しかけているモンドホテルの店長、モルダ・テクタイトは彼の友人である。いくら討伐隊とは言っても、モンスターが出てこなければ仕事がない場合も多く、そんな時はモンドホテルから仕事を貰っていたのだ。


「なあモルダ、最近野菜とかが高騰しててさー、食料もロクに確保できないんだ。なんかこう、1年は食うのに困らない仕事とかねえか?」

「そんな仕事はとっくになくなってるに決まってるだろ。野菜が高騰したのはこの前ゴブリンが王都と取引をしている農園を荒らし回ったせいだ。こないだの新聞に載ってたぞ」

「はぁ~……今日から新聞読むか」


 しばらくした後、ルビアンはモンドホテルから1つの仕事を貰った。


 仕事内容は宮廷の清掃員である。週に一度、1日限りの清掃員を大量に雇い宮廷の大掃除をする事となる。


 ルビアンは浄化の魔法を持っていたためにこの仕事を貰う事ができた。


 王都にはいくつかの宮殿があり、その宮殿には多くの貴族が住んでいる。王国民の98%が平民であり、残り2%が貴族である。


 その貴族の中でも特に実力の優れた一族のみが王族を名乗り、王朝を開く事を許されるのだ。


 ルビアンはそんな貴族たちの禍々しい現実を知っているためか、普段は宮殿に近づく事がなかったのである。


「まさかここで仕事をする事になるとはな。えっと……1日限りの清掃員で報酬は日給50ラピスか。まあ、掃除するだけで50ラピスなら悪くねえか」


 彼はそんな独り言を言いながら、モンドホテルが発行した許可証を見せて宮殿内へ入る。


 これから彼を待ち受ける試練がすぐそこに迫っていた。

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サーファ・サピロス(CV:森久保祥太郎)

モルダ・テクタイト(CV:立木文彦)

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