第199話「平和の尊さ」
ルビアンたちはエンマリュウによって潰された食堂を復活させた。
潰れたのはこれで2回目だ。だが食堂はその度に不死鳥の如く蘇る。
王都はゲールとエンマリュウの死闘によって半数以上の建物が崩壊し、中央に至っては食堂の他、ほとんどの建物が瓦礫と化していた事からも、それがいかに大きな激戦であったかがうかがえる。
食堂の隣にあった移民たちの家も畑も全て台無しとなった。
そこでディアマンテからは王都中央に大きな土地を与えられ、ルビアンたちはさらに大きな食堂を作る事ができるようになり、避難していた者たちの協力を得る事に。
王都民たちはエンマリュウを倒したレストランカラットのために最優先で食堂の修繕を始めてから早1ヵ月、今まで以上に立派になった食堂は、ルビアンの仲間たちばかりか、子供たち1人1人に部屋を与えられるほどであった。
単にルビアンたちを優先しているだけでなく、またしても不足となった食料の補給路を確保するためでもあり、この急激な需要により今まで以上に忙しくなった。
「その荷物で最後か?」
「ええ、これでようやく修繕が終わったわね」
バックヤードで2人きりになったルビアンとガーネがのんびりと話している。これから忙しくなる前兆からか、2人はしばらくの休憩に入ったのだ。
「修繕っていうより引っ越しだけどな」
「お父さんがいた頃よりずっと大きくなったわね」
「ああ、ここまで豪邸になるとは思わなかったよ」
「ヒュドラーもエンマリュウも倒したんだから、これくらいのご褒美はあっても良いんじゃない。ルビアン――あんたは私たちの誇りよ」
ガーネがルビアンを正面から抱きしめて言った。
ルビアンは何も言わずガーネを抱きしめ返すと、段々と2人の顔の距離が近づき、まるで平和の訪れを告げるかのように、口づけを交わした。
「ルビアン、ガーネにだけキスはないんじゃないか?」
「「!?」」
2人は一斉にアンの方を向き、言葉にならない声を出しながら咄嗟に距離を置いた。
「そうだぞ。あたしもルビアンとキスしたい」
カーネリアがそう言いながらルビアンの腕に抱きつき豊満な胸を押しつけた。
「ちょっと、ルビアンが困ってるじゃないですか?」
「本当はエメラもルビアンとキスがしたくて仕方ないんじゃないか?」
「そっ、そんなわけ――」
「あっ、顔が赤くなった。やっぱりお前も狙っていたか」
「あなたと一緒にしないでください!」
アンはエメラをからかい続け、エメラはアンの言葉を真に受けながらツッコミを入れた。
かつての主従関係はどこへやら。大物貴族と宰相であった2人は同じ目線で面白おかしく談笑する関係となっていた。レストランカラットの仲間たちは1人1人の個性を認め合い、これ以上ないくらいに仲良く共存している。
これ以降、アモルファス王国は移民を寛容に受け入れ、その影響力を増大する事となった。
ジルコニア帝国は大都市を潰された影響から国力が衰退し、次々と植民地を失っていった。ジルコニアの植民地はそれぞれが独立宣言を果たし、世界の半分を支配するアモルファスがこの世界の主導権を握る事となった。
「みんな、今から写真を撮ろうよ」
「写真? なあに、それ?」
「女王陛下が文明復興の一環で遺跡の発掘をしていたら、このカメラというものが発掘されて、女王陛下の復元の魔法で復元したものだよ。映ったものを画像として記録できるんだよ。さっき役人の人からもらった。ほらっ、早速撮ってみたよ」
「ふーん、なかなか奇麗な絵ね」
綺羅がカメラで撮ったばかりの写真を見せた。料理の仕込みをしていた加里、翡翠、部屋の中を掃除していた桃、頼も集まってくる。
そこにはルビアンたちがいちゃついている様子が赤裸々に描かれていた。
「これ、古文書に会った絵のやつと同じくらい鮮明だな」
「確か古代の文明には、このカメラのように映ったものを絵にできる道具や、鉄でできた乗り物で地上や空を高速で移動して人や物を運んだり、細長い板のようなもので遠くにいる人と直接会話をしたりしていたそうです」
「鉄でてきた乗り物なんてありえへんやろ。そんなもん乗ったってそのまんまじゃ動かへんし、魔法で動かしてたに決まってるやろ」
「でも、古代の人々はあんまり魔法に頼らなかったと聞いているのです。魔法が使えない人のために、精巧な技術でこういった不思議な道具を量産して、魔法のように使っていたそうなのです」
「やっぱり古代の人たちには勝てないわねー」
ルビアンたちの間では、古代で使われていたとされる不思議な道具の話題が尽きない。
そうこうしている内に引っ越しが完了し、午前中に全ての準備が整うと、ルビアンたちは以前より広くなった食堂の開店準備を済ませ、その扉を開いた。
サーファやアクアンといった常連の他、王都へ戻ってきた食糧難に苦しむ人々が次々と押し寄せ、あっという間に全ての席が埋まってしまった。
ルビアンたちは途端に忙しくなり、相変わらず人気の看板メニューであるジルコニア米のチャーハンを中心としたメニューが次々と売れていく。
「まるで波のように押し寄せて来たなー」
「加里、今外をチラッと見て来たけど、この10倍以上の人数が並んでいたわ」
「マジでっ!?」
「マジよ。これから喋る暇もなくなるわ。覚悟は良い?」
「もちろんや」
加里と翡翠がいつもと変わらないノリで淡々と調理をこなしていく。
「ほい、3番テーブルな」
「ああ、任せろ」
バトンを受け取るようにカーネリアが加里の作った料理を受け取り客席へと運んでいく。
ルビアンたちはようやく日常を取り戻したのだ。
それに安心したのか、ルビアンは息を吐いた。
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