第191話「清算と備え」
最終章です。是非お読みください。
アルカディアの葬儀が終わると、王都の住民たちはそれぞれの家へと帰っていく。
アモルファス王国では討伐隊が全滅した場合、メンバーたちが棺桶の中に入ったまま王都の通路を1周する葬儀が習わしである。
実物こそないものの、かつてのメンバーだった10人分の墓が作られ、モルガンたちの遺体は焼却されたのち、そこに埋葬される事となった。
王都では名誉の戦死と大々的に報道され、エンマリュウを呼び出した事実を伏せた上でエンマリュウの進撃を遅らせたと報じられた。
アルカディアは虚偽の報道により名誉を取り戻したのだ。
しばらくしてディアマンテが食堂にやって来るや否や、ルビアンとディアマンテはバックヤードで2人きりとなり、そこにある机で一息ついた。
ルビアンはまた何かあるのかと思いながら彼女と向かい合うように席に着いた。
ディアマンテは持参させた紅茶と道具を使い自ら紅茶を淹れると、それを飲みながら一息ついた。慣れない部屋かと思いきや、彼女はかつて自らの根城としていた孤児院の中を思い出した。
「ルビアン、あんたに1つ訪ねたい事があるの」
「何だよ?」
「この前モルガンの死体を確認した時だけど、彼女は武器を持っていなかったわ。彼女の武器がどんなものだったか覚えてる?」
「確か勇者の聖剣だったな。アルカディアが始めて討伐をした時、モルガンたちと遺跡に入って手に入れたんだよ」
「そう」
――勇者の聖剣、聞いた事があるわ。
確かあのヒュドラーを倒した時に使われたとされる伝説の武器。
「モルガンがあれを最初の討伐で手に入れてからというもの、アルカディアは急速に成長を遂げるようになったんだよ。勇者の聖剣1つでパーティの攻撃力不足を補う事ができる。だから最初はモルガンをサポートしているだけで簡単にダンジョンをクリアできた」
「それが次第に1人1人の質を求めるようになり、後衛でサポートに徹していた者から排除されていったと聞いているわ。そして最後に追放されたのが、ルビアンだったわね」
「嫌な事思い出させんなよ」
「ふふっ、ごめんなさい。でもその話を聞いて確信したわ」
「何を確信したってんだよ?」
ディアマンテの不安そうな顔を見ながらルビアンが聞いた。
彼女がここに来た時点でどうせろくでもない話だとルビアンは確信している。
仮にも一国の主を疫病神のように思いたくはないが、彼女がルビアンを尋ねるという事は、彼女や大臣たちの力ではどうにもならない事態が発生している事を意味している。
「探索の魔法を使ってモルガンの武器の行方を追ったわ。そしたら――」
「そしたら?」
「勇者の聖剣が段々とこっちに近づいてきているの。つまり誰かが奪ったという事よ」
「捜索隊の誰かが戦利品として持って帰ってるんじゃねえの?」
「捜索隊が手に入れた物は全てあたしの目を通す事になっているわ。状況が状況だし、あまり信じたくはないけど、エンマリュウが勇者の聖剣を持っている可能性があるわ」
「!」
いきなりの知らせに怖気が走り、その首をのけ反らせる。
おいおい、それじゃ鬼に金棒じゃねえか!
モルガンの奴、最後にとんでもねえ置き土産を置いていきやがったな。死んだ後もずっと俺たちに迷惑ばっかかけまくりやがって!
静かに怒りを表情に表したルビアンの心情をディアマンテが察した。
アルカディアに無理難題を押しつけた事で、問題が大きくなってしまっている事をディアマンテは悔いている。ルビアンはモルガンが強制的に討伐を命じられた事を知らない。それは王権の乱用に他ならず、安易に明かすわけにはいかなかった。
「なんかあいつらの墓燃やしたくなくなってきた」
ムスッとした顔でルビアンが言った。
「今さら死体蹴りなんかしても状況は変わらないわ。既に王都の市場から王命を発しているわ。エンマリュウの来襲に備えて、いつでも避難できるようにしておけってね」
「王都は人口100万人を超える大都市だぞ。そう簡単に避難できるわけねえだろ」
「その通りよ。だからルビアン、あなたに討伐隊の結成と隊長就任を命じるわ。討伐隊には苦い思い出があるだろうけど、今は手段を選んでいられないわ。アモルファス軍は住民の避難にほとんどの人員を割く事になるからエンマリュウの相手はできない。だから時間稼ぎだけでもお願いしたいの」
「……分かった。他の討伐隊にもおんなじ事を言ってんだろ?」
「ええ、さすがはルビアンね。じゃあ後はよろしくね。じいや、帰るわよ」
「はい、女王陛下」
ディアマンテがにっこりと笑うと、用事を終えたと言わんばかりに去っていく。
執事が紅茶やその道具を使用人に片付けさせてから慌てた様子で女王の後を追った。
だがルビアンは内心では討伐隊なんて冗談じゃないと思っている。
ましてや隊長経験のないルビアンにとっては慣れない仕事でもある。
作戦をメンバーたちに伝えても結局モルガンの案に従い、それで痛い目に合った事が何度もある。ましてや実力面ではエースアタッカーとしての経験を持つカーネリアやアンに劣り、かつての将軍である加里や翡翠にも指導力で勝てる気がしなかった。
「あたしはルビアンが隊長なら文句はないわ」
カーネリアが後ろからルビアンに抱きつきながら言った。
ルビアン1人だけになったかと思いきや、しばらくしてから入れ替わるようにガーネたちがルビアンの周りに集まってくる。さっきまでにルビアンとディアマンテの会話を聞いていたアンがこっそりとみんなに伝えていた。
「私もルビアンなら問題ない。ヒュドラーとの戦いもルビアンの指示で勝ったようなものだからな。私たちはお前の本当の実力を知っている。必要に応じて回復をしながら指揮を執れる回復担当。リーダーになれなかった分の悔しさを晴らす機会を女王陛下がお与えになった」
「言われればもっともだな」
茶化すようにルビアンが答えた。
「それで、パーティ名はどうするの?」
「どうしても決めないと駄目か?」
「当たり前じゃない。カッコ良いパーティ名を希望するわ」
「そうだな――」
パーティ名か。確かアルカディアはモルガンがテキトーに決めたんだっけな。
ふと、店内にある看板がルビアンの目に入った。
「――レストランカラット」
「店名をパーティ名にするの?」
「普段は食堂の経営をして、緊急時のみ討伐隊をやるんだからこれで良いだろ」
「ふふっ、ルビアンらしいわね」
こうしてルビアンを中心とした討伐隊、レストランカラットがここに誕生したのだった。
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