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第19話「動揺する女」

 モルガンはルビアンの遠征を知ってから浮かない顔だった。


 彼女は貿易摩擦の実態を知っている。故に早く戻ってきてほしいという想いだけが募っていく。どうにかしてルビアンを追いかけられないだろうか。


 そう思ったモルガンは妙案を探していた。


「どうしたモルガン、元気がないなー」

「グロッシュ、ルビアンの事なんだが、そもそも何でガーネと一緒にジルコニアまで行ったんだ?」

「あー、食材を買ってきてもらうためさ、帝都に着くまでは戻ってこないんだとよ」

「早く戻ってきてくれねえかなー。オイラたち2人だけで店を回すのは大変だよ。早くうちを手伝ってくれないと、客席制限をしたまんまじゃ給料が減っちまうよ」

「うちを手伝うってどういう事だ?」

「知らねえのか? ルビアンはうちに就職したんだよ」

「何だとっ!」

「うわっ! 店内では静かにな」


 モルガンは驚きながら叫んだ。周囲はいきなりの大声にシーンとなっているが、モルガンはそれに構わず質問を続ける。


「あ、ああ、済まない。まさか就職したとは思わなかった。いつ頃からなんだ?」

「2週間くらい前かな。食材を回復できるおかげでうちは仕入れを無駄にしなくても済むようになったんだけど、戻ってこないとまた在庫処分しないといけなくなるから困ってんだよなー」


 嘘だっ! 嘘だっ! あのルビアンが――不器用で周囲とすぐにぶつかるあいつが、食堂に就職するなんてありえない。


 何かの間違いだ。ルビアンと仲が良かったのは私だけのはず。


「ルビアンが就職したいと言ってきたのか?」

「いや、ガーネがルビアンを雇おうとグロッシュに相談してたよ――」

「ご馳走さん!」


 モルガンは猛スピードでチャーハンを食し、食べ終わるとすぐにお代を払って食堂から去っていく。


「ま、毎度ありー」

「食後の運動は体に悪いぞー」


 グロッシュが既に扉の前までモルガンに呼びかけるが、彼女に聞く耳はなく、彼らを遮断するかのように扉が閉まる。


「何急いでんだろ」

「さあな。ルビアンを追い出した張本人のはずなのに、あの慌てようは何かありそうだ。まっ、俺たちには関係ねえけどな」


 モルガンはアジトまで足を飛ばし、ルビアンの後を追おうと画策を始める。


 アジトの扉を勢いよく開けると、そのまま女性陣に混ざる。


「はぁはぁはぁはぁ」


 走りすぎたのか息が上がっている。いつもの冷静沈着なモルガンらしくもないその振る舞いに周囲のメンバーはきょとんとする。


「モルガン、どうしたの?」


 クールかつ色っぽい声でモルガンに呼びかけたのはオパル・ミネラロイドゥというキラキラと光る青髪の女である。


 アルカディア後衛担当の1人であり、主に自分や味方の物理攻撃や魔法攻撃を強化してから自らも魔法で攻撃に参加するという、アタッカー気質の強い女だ。戦闘になると髪色が赤色に変わり、炎のようにめらめらと燃え上がるがあまり感情を表に出さない。


 普段は魔導書などを読み漁っているが、それ故に知識も豊富でパーティの参謀的存在であり、後衛の要であった。


「はぁはぁ――ルビアンが食堂に就職した」

「ふーん、良かったじゃない。あの捻くれた性格だから、どこにも就職できずに野垂れ死にしたのかと思ってたわ」

「違うっ! そうじゃないっ!」

「何が違うの?」

「だってルビアンは私の――」

「私の……何?」

「……いや、何でもない」


 そこに、1人の背が低めの女がツカツカと歩いてくる。


 彼女の名はスピネ・フェライト。右目が赤色、左目が青色、薄いピンクのツインテール美少女である。


 パーティの中でも実践経験が浅い方だが、その実力は本物である。


 追加効果のある針を大量に敵に飛ばしたり、地面に針を設置して敵の進行を食い止めたり、回転しながら攻撃したり、敵の攻撃をはじいたりと、かなりトリッキーな女である。


 前衛も後衛もこなせるため、パーティメンバーが変わる度にポジションが変わっていた。


「ルビアンが好きなんでしょ?」

「いっ、いやっ、そんな事はないっ!」

「そんな事ないわ。明らかに動揺してるし、てっきり諦めたのかと思ってた」

「そっ、そうだ。悪いか? だから私はあいつを、ハウスキーパーとして雇ってやろうと思ったんだ。なのにあいつ、食堂に就職しやがった」

「まあ、どうでも良いわ。それより次の遠征先はどこなの?」


 ――アルカディアはしばらくの間全員が事実上の前衛であり、誰かがやられるとすぐ後ろにいる者が前に出るという構成だったが、サポートが足りない事を危惧してか再び後衛を導入している。


 だが今までにパーティを追放された人間は全て後衛担当であったため、誰もが前衛で戦う事を希望していた。そのために後衛までもが積極的に攻撃に参加するオールアタッカー構成に変わりはなかった。


 そんなプレッシャーの中、みんなして戦力外通告を恐れていた。戦死するよりも追放される方が怖いのだ。


 常にそんな不安がパーティに漂っていたが、当のメンバーたちはこれをプロ意識であると本気で思い込んでいる。そうとでも思わなければ到底やっていけない。そんな背景もあってか全員が常に全力で戦うため、最も高い成果を上げる事ができたが、外からはまず分からない空間である。


「次の遠征先は――ジルコニアだ」

「「「「「ジルコニア!」」」」」


 モルガン以外の全員が驚く。アモルファスとジルコニアの仲が悪い事は公然の事実であった。だがルビアンがそこにいるならと彼女は諦めない。


 ここに、アルカディアによるジルコニア上陸作戦会議が始まったのであった。

気に入っていただければブクマや評価をお願いします。

読んでいただきありがとうございます。

オパル・ミネラロイドゥ(CV:風花ましろ)

スピネ・フェライト(CV:有栖川みや美)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・モルガンがルビアンの再就職を知って動揺している点。ただルビアンの価値をわかってはいないのが残念。 [気になる点] ・アルカディアがさらに前衛に偏り、パーティーバランスが完全に崩壊している…
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