第188話「滅びゆく運命の末路」
目の前でスピネを殺され、怒りに満ちているモルガンとオニキがエンマリュウと睨み合った。
その最期までモルガンのために尽くし、モルガンに対して秘かに好意を持ち続けていたスピネのあっけない末路であった。
元を辿れば、ルビアン追放はいつもモルガンから好意を向けられていたルビアンへの嫉妬心から彼女が画策したものであったが、その決断がアルカディアの運命を大きく狂わせた。
スピネはここまでの戦いで何度かモルガンたちを回復しようとしたものの、ルビアンのように全体回復魔法が使えないため、回復が間に合わずに多くの仲間を失う結果となった事を内心後悔しながら死んでいった。その無念をモルガンたちに伝える事はなかった。
そしてスピネの死により、アルカディアは唯一の回復担当を失った。
魔力の爪による呪いの前にエンポーは役に立たなかった。今度ダメージを受ければもう回復ができない状況となってしまっている。そして今度は今までのお返しと言わんばかりにエンマリュウの反撃が始まった。モルガンもオニキも周囲の建物をひょいひょい飛び回りながらエンマリュウの攻撃をかわすのが精一杯だ。
エンマリュウの攻撃中はダメージを回復に変えるガードができない。
モルガンたちはそれを知りながら反撃ができずにいる事に悔しさを覚えた。2人だけでは圧倒的に戦力不足だ。これでは敵の攻撃を常に受け続けている内にいつかは命中してしまう事を意味していた。
オニキは自分の命と引き換えにモルガンに反撃のチャンスを作ろうと考えた。
「くそっ、このままじゃ埒が明かねえ。モルガン、俺の最期のわがままを聞いてくれ」
「最期のわがままだと」
「ああ。今から奴に突っ込む。奴が怯んだら攻撃を仕掛けろ。今までこいつに倒されていった仲間たちの仇を取ってくれ」
「何を言っているんだ。無茶はやめろ」
「モルガン……先に向こうで……待ってるぜ」
「オニキー!」
オニキはそう言い残すと、エンマリュウに向かって一直線に走っていく。
「どりゃああああああっ!」
オニキはエンマリュウの顔面に向かって棍棒をぶつけようとする。咄嗟に反応したエンマリュウが魔力の爪で応戦する――。
棍棒と魔力の爪がぶつかり合い、激しい衝撃波がオニキを襲う。その大柄な体をも吹き飛ばしかねないエンマリュウの攻撃を彼は物凄い形相で必死に耐え抜いた。
――と思われたが。
「! ぐわああああああっ!」
片腕を棍棒で弾き飛ばし、見事に押し勝ったと思いきや、すぐにもう片方の腕がオニキに飛んでくると、オニキはそのまま地面に叩きつけられた。
そして地面にめり込んで動けなくなったオニキに対し、エンマリュウは一瞬の隙を与える事もなく、両腕を容赦なくハンマーのように何度も地面に叩きつけた。その攻撃と共に大きな砂埃が発生し、周囲の地面がグラグラと揺れている。
オニキの体は叩かれて平べったくなったパンのように潰されており、彼はこの猛攻による全身粉砕骨折により死亡した。
エンマリュウはあえて即死させる事はせず、オニキが死ぬ寸前まで激痛を感じるようにわざと威力を加減しながら連撃を加えた。これこそがエンマリュウの最も恐ろしい特徴であり、ただ戦いに勝つだけでは飽き足らず、なぶり殺しを楽しむ冷酷さが多くのパーティに恐怖心を植えつけていた。
砂埃が段々と収まっていく。
エンマリュウはモルガンの姿を見失った。その凶暴な目はモルガンを見つけようと周囲をキョロキョロと見渡した。
あえて即死を狙わず、オニキに対する集中攻撃をした事が裏目となった。
「私はここだっ!」
エンマリュウが上を向くと、そこには空高く飛び上がり物凄い勢いで聖剣を構えながら降下してくるモルガンの姿があった。
「聖剣斬っ!」
モルガンの聖剣がエンマリュウの背中から中に深く刺さり、エンマリュウに初めてまともなダメージが入った。エンマリュウは痛みに耐えながらのたうち回り、エンマリュウに刺さった聖剣にぶら下がる格好となったモルガンが大きく揺さぶられる。
「観念しろ。お前の負けだ、エンマリュウ」
モルガンは必死にこらえ、聖剣を放そうとしなかった。
だがモルガンは既に体力の限界を迎えていた。ここにきて魔力の爪の痛みがモルガンを襲い、聖剣を必死に掴んでいる両腕の握力が急速になくなっていく。
そしてついにモルガンはその聖剣を放してしまった。
ブンブンと全身を振り回すその勢いに負けると、彼女の体は遠心力によって少し遠くまで投げ飛ばされてしまい、そのまま民家の壁に強く叩きつけられた。
「ふっ、やったぞ……みんな――」
モルガンが仇を取ったと思い、重力に従って顔面から前方に倒れようとしているところだった。
「――がはっ!」
一瞬、モルガンの体に激痛が走った。
気がついてみれば、モルガンの腹部から背中にかけてエンマリュウの変幻自在に鋭く細く尖った尻尾が貫通し、尻尾の先が壁に刺さっている。全身血塗れのモルガンは口からさらに血を吐いた。もはや病気による血なのか、攻撃によって出た血なのか分からない。
ほとんど動けなくなったモルガンを背中から縦に聖剣が刺さったままのエンマリュウが憎しみの目で睨みつけると、彼女に刺さっている尻尾を勢いよく抜き、血がついた尻尾を振りながら去っていった。
聖剣が刺さっているためか、モルガンやオニキを捕食する余裕はなかった。
モルガンは仰向けにバタッと倒れた。
段々と意識が遠のき、死が目前まで迫っている事をモルガンは自覚する。彼女を照らす太陽に向かってモルガンは希望を掴み取ろうとするかのように片手を伸ばした。その太陽にはルビアンの顔が映っているように見えている。
「……お前を……追放したばっかりに……無念だ……」
さらばだ……ルビアン……。
……! 何故だ? 何故みんながいるんだ?
一瞬目の前が真っ暗になったモルガンには、王都の郊外にある草原に立つアジトを背景に、かつてアルカディアのメンバーだった者たち全員の姿が見えている。彼ら全員が温かい目でモルガンを迎え入れてくれている光景が彼女の魂を浄化していくようだった。
かつてのメンバーたちがモルガンの手を引くと、そのまま一緒に空高くへと運んでいく。
みんな……こんな不甲斐ない私を受け入れてくれて……ありがとう。
こうして、世界中にその名を轟かせた討伐隊アルカディアは、ここに滅亡したのであった。
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