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第182話「食堂の日常」

 その頃、時を同じくしてルビアンたちは戦闘訓練に明け暮れていた。


 そんな中、人当たりの良いガーネと仲良くなっていた綺羅、桃、頼の3人が惹きつけられるように彼女の周囲へと集まってくる。


 ガーネは移民たちから武器を貸してもらい、どれが自分に合うかを試していた。


 モンスター戦闘が始まれば移動系の魔法しか使えないガーネの役割は限られてくる。転送の魔法を使う事ができるため、どんな敵からも逃げられるのが幸いだ。だが彼女の役割は近くに住む住民たちを安全な場所へと逃がす事である。


「桃、この聖杖本当にくれるの?」

「はい。私よりもガーネさんの方が適性があるみたいですし、私にはそれとは別に武器がありますから問題はないのです。どうぞ使ってください」

「ふーん、これどこで見つけたの?」

「討伐隊でアイテム要員として雇われていた頃、古代遺跡の1番奥にあった部屋の宝箱に入ってたんですけど、誰も使えなかったので、試しに私が使ってみたら聖杖で魔法が使えたので、それで隊長が私にくれたものなんですけど、味方の攻撃やアイテムを強化するくらいしかできないみたいなのです」

「攻撃に使えへんなんて変わった武器やな。盾でも殴れるっちゅうのに」


 ガーネは図らずとも聖なる武器を手に入れた。


 ガーネは伝説の聖杖、カーネリアは岩石の長剣、アンは夢幻の聖槍、エメラはエスメラルド家に代々伝わる粉砕のガントレット、加里は龍殺しの長槍、翡翠は死神の鎌、綺羅は自ら作った最高傑作である溶岩の刀、桃は味方も一緒にガードできる天使の盾、頼は自然の力が宿った必中の弓矢を持っている。


 どれも世界最高クラスの武器であり、10年以上も前から持っている錆びた剣しかないルビアンはどこか置いていかれたような気持ちになっていた。


 武器を買い替えようにも個人との相性というものがあり、自分に合った武器を探すだけでかなりの手間と費用がかかる事をルビアンは知っていた。


 この頃にはルビアンも討伐隊復帰を諦めており、どうせ討伐隊では味方の回復くらいにしか使えない自分は攻撃に参加する事もなく、こうして雑用係として貢献するのが精一杯であると考えている。アンはそれを知っていたのか、ガーネを羨ましそうな顔で見ていたルビアンに歩み寄った。


「ルビアン、武器の事を気にしてるのか?」

「そんなんじゃねえよ」


 ルビアンが冷めきったような声で言った。


 これは彼なりの強がりだ。彼は自分にも居場所がある事を知りつつ、自分の適性では再び討伐隊を結成してもまた追放されるのではないかと考えている。


 居場所を失うのが怖い。それがルビアンの恐怖心を煽るに足る唯一の要素だ。


「ルビアンはありとあらゆる回復魔法を使えるんだ。私に言わせれば、これほど頼もしい味方はいないと思っている。戦略だって優れているんだ」

「そうだぞルビアン、あたしたちがいる限り、絶対にルビアンを見捨てたりはしないぞ」


 カーネリアがそう言いながらルビアンの背中に豊満な胸を押しつけた。


 それを見たアンは顔を赤くして自分の胸に目をやると、彼女は片手で服越しに自分の胸に触れながら残念そうにため息を吐いた。カーネリアはアンの細く鍛え上げられたしなやかなカーブを描くくびれに、アンはカーネリアの大きく張りのある巨乳に憧れている。


 普段はライバルなのか、それがなかなか言えない。


「――アン、どうしたの? ため息なんかついて」


 アンの様子に気づいたガーネが声をかけた。


「大した事じゃない。あれだよ、あれ」


 片手でルビアンとカーネリアのイチャイチャっぷりを指差した。


 真っ先に目に入ったのは背中に押しつけられている胸だ。


「あぁ~、そういう事ねぇ~」


 ガーネはすぐにアンの意図を察した。すると、今度はガーネが自らの胸に目をやった。


「「はぁ~」」


 2人が同時にため息を吐く。そこにきょとんとした様子のエメラがやってくる。


 さっきまでバックヤードで髪を整えていたために何も知らない。貴族でなくなってから3年、ようやく平民の生活にも慣れてきたが、貴族であった時の身だしなみには人一倍気を使っている。


「どうしたんですか? 2人してため息なんか吐いて。まあ、気持ちは分かりますけど」

「エメラにも分かるのか?」

「誰にでも悩みはあるものですよ。私も最近、出産の影響なのか、また胸が大きくなってしまって、本当に困ってるんですよ。作業の邪魔になりますし、主に男性のお客さんからジロジロここばっかり見られるのが恥ずかしいのです。ですから――どっ、どうしたのですか?」


 自分の両胸を持ち上げながら悩み相談のように話しているエメラがようやく目の前の光景に気づくと、彼女の正面に立っているガーネとアンが怖い顔でエメラに羨望の眼差しを向けている。


 アンがエメラの後ろに素早く回ると、彼女に向かって悪意と嫉妬に満ちた両腕を伸ばした。


「ひゃあんっ! なっ、何なんですかいきなりっ!?」

「エメラは良いよな。こんなに立派なのがついてて」

「そうそう、私は2人産んだのに全然大きくならないし、不公平だわ」

「なっ、何の話をしているのですかっ! ふうっ!」

「お前ら何やってんだよ?」


 ガーネたちのやり取りに気づいたルビアンが背中に心地良さを感じながら何しょうもない事をやってんだかと言わんばかりの顔だ。


 同様にカーネリアも人事のようにその光景を眺めている。


「そうだぞ。2人してみっともない」

「お前が言うなっ!」


 アンはカーネリアが現在進行形で行っている光景を見ながら叫んだ。


 この後カーネリアとアンがいつものように言い争った事は言うまでもない。

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