第18話「玉座の間」
翌日、ルビアンたちは帝都へと向かって歩き出す。
太陽が最も高いところまで昇った頃、モルガンは突如クリスからの呼び出しを受ける。何か分かったのかと思い、彼女は急いで駆けつける。
「モルガン、ブラッドパールの出処が分かった」
「それは――どこなんだ?」
「ジルコニアだ」
「ジルコニアだとっ!」
「ああ、これを見てみろ。通常のブラッドパールはその魔力の凶悪さ故、加工が難しい。だがここまで正確な円を描くように加工されているとなれば、もはやジルコニアしかない」
――宝石が持つ魔力を引き出すには繊細な加工が必要だ。ジルコニアが持つその細かい技術力は、アモルファスの技術力を遥かに凌駕している。
それを知ったクリスは、ジルコニアが戦争を始めようとしているのではないかと疑った。
「でもそれがはめ込まれた野生のモンスターは、いずれもアモルファスにいた。なのに何故ジルコニア産のブラッドパールがあるんだ?」
「詳しい事までは分からん。だが1つ確かなのは、誰かがブラッドパールを密輸し、アモルファスに住む野生のモンスターたちに使った事だ。あまり考えたくはないが、恐らく実験に使われたんだろう。これは早々に破壊した方が良い。1つは私が処分しておく。これはお前に返そう。モルガンはこれを持って女王陛下に伝えろ」
「分かった」
危険な魔力を持つ宝石の密輸は法律によって禁止されている。
だがジルコニアからブラッドパールが流れ込んだ事が明らかになった今、ジルコニアとの不仲はやむを得ない状況となっていた。
モルガンはブラッドパールを持つと、急ぎ王都の宮殿へと向かう――。
そこでデイムの称号を見せると、彼女は王都の中でも一際大きな宮殿への出入りを許可され、門番が道を開けると、彼女は宮殿内にある階段を上り玉座の間の扉を勢いよく開いた。
「おいっ! 今は会議中だぞ」
「申し訳ありません。緊急案件なのです」
「言ってみよ」
玉座に座る女性が冷静な顔でモルガンに用件を聞く。
モルガンは玉座に座る女性に向かって状況を説明する。
「何? ジルコニア産のブラッドパールだと?」
「はい女王陛下。王都で最も優れた宝石鑑定師の鑑定結果故、間違いありません。これが事実であれば、ジルコニアは近い内、戦争を仕掛けてくるやもしれません」
「「「「「!」」」」」
その場に出席している大臣たちが騒めき、普段は会議室として使われている玉座の間が一段と騒がしくなる。
背が低く幼く見え、派手な格好をしたスタイルの良い女性らしき人物が玉座から立つと騒ぎが収まり、そのままヒールの音を玉座の間に響かせながらモルガンに近づく――。
女性がモルガンの前で足を止めると、跪くモルガンを上から見下ろす。
彼女こそアモルファス王国の女王、ディアマンテ・モンド、通称女王陛下である。
元々は孤児だったが、その絶大な魔力と指導者としての才を気に入られ、世界中にホテルを持つモンドホテルの年老いた経営者に幼くして養子入りする。養父が権力争いに勝利し、国王に即位すると共に王女となったが、しばらくして養父が病死すると、王族争いが勃発する。
ディアマンテは養父の遺言により女王に即位し、王族候補を次々と屈服させその地位を確固たるものとした。養父から引き継いだ植民地戦争では彼女が女王に即位してしばらくしてから快進撃を見せる。最終的に重要拠点である島を手に入れ、そこをダイヤモンド島と名付けた張本人である。
そしてアモルファス王国優勢のまま、ジルコニア帝国との植民地戦争を終わらせた実力者でもある。
モンドホテルの経営者でもあるが、その事実を知る者は少ない。
「――妾は世界中に表れた突然変異したモンスター討伐のため、民には討伐隊を組ませ、妾も兵を率いて戦っておる。故に、今はまだジルコニアと争っている暇はない。もしそれが偽りであったならば、ただでは済まぬぞ」
「天地神明に誓って本当でございます」
「しかし、だからと言ってそれがジルコニアから持ち込まれたものであるという証拠はどこにもないのでしょう?」
反論するのは玉座の間で行われている会議に出席していたエメラである。
そもそも会議中にモルガンが突然現れ、緊急案件である事を理由に発言を認められていた事で予定が狂ったためか、エメラを始めとした大臣たちが苛立っている。
「して、その根拠は何だ?」
「繊細な技術力によって作られたこのブラッドパールですが、宝石鑑定師が言うには、凶悪な魔力を持つこの宝石を、ここまで正確な円を描けるほどの細かい加工ができるのは、ジルコニアの技術力でしか成し得ないそうです」
「――ほう、それは興味深いな」
「アモルファスとジルコニアは貿易摩擦を起こしている最中なのですよ。にもかかわらず、一方的に疑いをかけて刺激すれば、彼らに戦争の口実を与えてしまいます」
「女王陛下、今ならまだ間に合います。どうか――ご決断を」
「……」
ディアマンテは少しの間黙り込み、数十秒が経過したところで結論を出す。
「モルガン、ひとまずその案件は持ち帰れ」
「そんなっ! お考え直しください、女王陛下」
「モルガン、女王陛下が下した決断です。逆らう事は許されません」
「――かしこまりました」
モルガンは悔しそうな顔をしながら宮殿を去っていく。このままではジルコニアに先手を許してしまう。それをどうにもできない自分の無力さを噛みしめながら、彼女は強く拳を握り続ける。
そんな彼女を最上階の窓からディアマンテが見つめている。どうしようもない事に、彼女は他の政務に勤しむ必要があった。
モルガンは久しぶりにレストランカラットを訪れる。
だがそこにガーネの姿はなく、客席制限をされた状態のまま彼女はカウンター席に座り、いつものメニューを注文する。2人しかいない事を不審に思ったモルガンはグロッシュに尋ねる。
「グロッシュ、ガーネはどこに行ったんだ?」
「あー、ガーネなら、ルビアンと一緒にジルコニアまで行ったぞ」
「何っ! ルビアンがっ!」
モルガンは驚いた。何故ガーネと一緒にジルコニアまで行っているのか。
2人は恐らく事情を知らない。そう思った彼女は最悪のシナリオを想像する。このままではルビアンが戦争に巻き込まれてしまう可能性がある。
彼女の中でその危機感は高まるばかりであった。
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ディアマンテ・モンド(CV:釘宮理恵)




