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第179話「幼馴染からの教え」

 その頃、玉座の間ではディアマンテがアモルファスの未来を憂いながら窓の外を眺めている。


 そっと窓に触れ、エンマリュウが現れればこの窓ガラスのようにいとも容易く平和な世を壊されていくのかと王都の行く末を案じるだけで心が絞めつけられる思いだ。


 玉座の間の扉が開くと、中年らしき部下の1人が汗をかきながら入ってくる。


 何やら急いでいる様子だ。ディアマンテは緊急を要する案件であるとすぐに分かった。


「女王陛下、大変です! ジルコニアから大勢の難民が押し寄せてきており、外交官たちが対応に追われております。宮殿にもジルコニア街に住む移民たちが押しかけてきており、難民たちを通す事を認めろと要求を突きつけております」

「今難民たちが流れてきてはエンマリュウを誘ってしまう可能性がある。外交官たちに王都に()()は絶対に難民を通すなと伝えよ」

「かしこまりました、女王陛下」


 ディアマンテは後ろを向いたまま返事を出した。


 ジト目でひたすら窓の外にある王都の街並みを見つめているのだった。


 数分後、ダイヤモンド島領事館にて――。


 アモルファスの総督であったジャスパーが難民たちの対応に追われている。


 ジャスパーは総督を歴任した後外交官となり、ジルコニアとの交渉、諜報活動、通行許可証の発給などを仕事としていたが、まだその就任から1年も経っていない頃であった。日中は不慣れな仕事にオーバーワークが続き、日が落ちると共に電池が切れたように眠る生活だ。


 難民たちの多くは正式な手続きを踏まずに着の身着のままダイヤモンド島まで無断で押し寄せてきており、困った様子で追い返されないかを心配している。


「ジャスパーさん、女王陛下から通達です」


 先ほどディアマンテと話していた部下が瞬間移動でジャスパーの元へとやってきていたのだ。


 ジャスパーの部屋には多くの本棚が奇麗に並べられており、彼が座る机には羽ペンがインクの上に立てられており、その近くにある本の多さが彼の忙しさを物語っていた。


「どうだったんだ?」

「駄目です。王都にだけは絶対に入れるなとの事です」

「――そうか。やはり駄目か」

「このままでは埒が明きません。追い返してきます」

「待て」


 ジャスパーが制止すると、部下の足がピタリと止まり、瞬間移動の魔法を使うための魔法陣が解除されてあっという間に消滅する。


 部下は再びジャスパーがいる方を向き、話を聞く態勢に入った。


「王都にだけは絶対に入れるなと言ったんだな?」

「はい」

「アモルファスの各地にある総督に難民を受け入れるよう申し込んでくれ。私の名前を通せば受け入れてもらえるはずだ。難民たちの命がかかっている。粘り強く交渉してくれ」

「かしこまりました」


 部下は今度こそ瞬間移動の魔法で縁都まで去っていく。


 1人になったジャスパーはルビアンと話した記憶を思い返していた。


 20年前――。


 初等教育を卒業したばかりのジャスパーは、幼馴染で同級生であったルビアンやモルガンと共に卒業祝いに食堂へと赴き、そこでひたすら飲食をしながら談笑しているところであった。


 ルビアンとモルガンは就職先がなかった時に卒業したため、討伐隊以外の仕事がなく、仲間を集めて討伐隊を結成した頃であった。


「へぇ~、じゃあお前らは討伐隊に入るんだな」

「ジャスパーは入らねえのか?」

「私は大学へ行って役人を目指す。討伐隊は10人までだろ。軍だったら何人でも良いんだ。それこそ何万人もの兵を率いてこの国を防衛するんだ」


 ジャスパーは既にアモルファス大学への入学が決まっていた。


 ルビアンやモルガンとは違い家柄と才能に恵まれた彼は役人としての将来を期待されていた。


 それが初等教育を終えた瞬間から今まで見えなかった格差が浮き彫りになり、彼は幼馴染たちとは違う進路を歩み、離れ離れになってしまった事を寂しく思いながらもそれを隠し続けていた。


 それもあってルビアンとワンナイトパーティを組めた時は嬉しさが込み上げた。


「ジャスパーはスケールがでかいな。こっちはまだ4人しかメンバーが集まってないんだ。そういう事ならお前を誘うのはやめておこう」

「誘う気だったのかよ。前にも言っただろ。私はみんなとは住む世界が違う」


 ジャスパーが笑いながら言った。その静けさを感じる声から発した自らの考えと対照的な言葉は寂しさの裏返しであった。


 本当は彼もルビアンたちとパーティを組みたくて仕方なかった。


 だが身分が違ったためにその願いも虚しく叶わぬものとなってしまった。


「やれやれ、メンバーが集まらないと遠征にも行けないというのに」

「モルガン、それだったらサーファを誘ってみないか?」

「サーファって、確か回復魔法だけが取り柄で、色んな討伐隊を回っているそうじゃないか。回復担当(ヒーラー)だったらルビアンだけで十分だし、そんな奴を雇ってなんになるんだ?」

「あのなー、討伐隊は5人以上集まらないと結成できねえんだぞ。それにあいつ、実家のモータウルスの餌代を稼ぐために必死だ。戦闘もそこそこできるみたいだし、別に良いじゃねえかよ」

「うちは前衛をこなせるアタッカーを募集中なんだぞ。何故そんな奴を助けようとするんだ?」

「困ってる奴を助けるのは当たり前だろ。俺たちは王都民である前に、血の通った人間なんだからさ」


 ――困っている奴を助けるのは当たり前……か。


 私も役人である前に血の通った人間だ。できる限りの事はしよう。


 ジャスパーは討伐隊に入る前のルビアンの言葉を忘れていなかった。


 ジルコニア人たちの救出活動には相応のリスクが伴うものだ。だが彼はそれを覚悟で各地方の総督たちに頭を下げ、難民の受け入れ要請をすると決めた。


 そんなジャスパーも束の間の休憩を終えると、再び業務へと戻るのだった。

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