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第178話「壊滅する隣国」

 ルビアンはすぐにクリソを呼ぼうと研究室まで瞬間移動する。


 みんなが集めてくれた情報の書かれた資料を持ちながらルビアンはにっこり笑っている。彼はますます調べたくてたまらなくなったのだ。だが自分1人の力では限界がある。


 そこで調査や分析においてはトップクラスの実績を誇るクリソを頼りにしているのだ。


「ルビアン、どうしたの? その本の山」

「みんながエンマリュウの情報を集めてきてくれたんだよ」

「みんなが?」


 ルビアンは今までの事情をクリソに説明する。


 すると、クリソもまた、さっきまでのルビアンと同様に感極まっている。ずっと研究室の者や、同じ考古学者の者にばかり情報を集めさせていたのが恥ずかしいとさえ思えてくる。


 もっと他の人を頼るべきだった。専門家でなくてもできる事があるのだと彼女は思い知った。


「早速調べるわよ」

「そうだな。すぐに戻って残りの情報も持ってくる」

「頼んだわ」


 クリソがそう言うと、ルビアンが瞬間移動で食堂へと戻っていく。


 調べる前にクリソは部屋の中を見渡した。たくさんの紙が散らかっている事からも、彼女がいかに研究に夢中で会ったかがうかがえる。


「――また紙が増えるわね」


 クリソは腰を曲げ、水が抜けきったような表情でため息を吐いた。


 ルビアンが食堂に戻ってみると、カーネリアとアンがエンマリュウの情報を漁っている。まるでルビアンを手伝おうとしているかのように見えた。


「それも今からアモルファス大学の研究室まで持って行く予定だぜ」

「ルビアン、もっと私たちに頼ってくれても良いんだぞ」

「気持ちは嬉しいけど遠慮しとく。2人は子供たちの面倒を見ててくれよ」


 ルビアンはかつて加里と翡翠の部屋だった場所を子供部屋とし、そこでは所狭しと言わんばかりに子供たちが賑やかに遊んでいる。


 カーネリアとアンは共同注視するようにその光景を一緒に見て和んだ表情だ。


 カーネリアとの間に生まれた男子は活発で明るい性格だ。既に学生となったガーネとの子供である男子と女子の2人にとても懐いている。アンとの間に生まれた女子と男子は大人しく冷静だ。エメラとの間に生まれた女子は人見知りだ。


 どの子供も所々がルビアンとそれぞれの母親とよく似ている。


 そのためか、見分けがつかない事はなかったが、ここにいる大人たちはどの子供とも分け隔てなく接しており、子供全員にとってガーネたちは全員母親だ。同様にガーネたちにとっても全員を自分の子供と思っている。


「あの光景を守るためにも、絶対に弱点を見つけないとな」

「そうだな。あたしは子供たちを全員守ってみせる。絶対にな」

「それは私も同じだ。子供たちの笑顔を後世にも残したいからな」


 外から誰かが慌てた様子で走ってくる。


 勢いよく食堂の扉が開くと、桃と頼の2人がぜえぜえと疲れた様子だ。


「そんなに慌ててどうしたんだよ?」

「ルビアンはおるか?」

「ルビアンやったらさっきアモルファス大学まで行ったで」

「そんなっ! 緊急事態なのです!」

「桃、一体どうしたの?」


 キッチンいた加里と翡翠が慌てている2人をなだめていると、その後ろから綺羅が深刻な顔で食堂に入ってくる。


 綺羅、桃、頼の3人はルビアンに協力しようと世界中に散らばっているジルコニア系移民たちのネットワークを使い、世界中からエンマリュウの目撃情報を仕入れてはルビアンに伝えていた。


 そんな彼らがいつになく不安に満ちた表情だ。


 これは余程の事があったに違いないとガーネたちは察した。


「じっ、実は……帝都と水都が……壊滅したのです」

「「「「「!」」」」」


 桃が恐る恐る言った。ガーネたちも常連たちも凍りついたように黙っている。


 帝都も水都もアモルファスの主要都市である王都や縁都に並ぶほどの大都市だ。これらの都市部がこの短期間で壊滅的な被害を受ける事など誰が予測できただろうか。


 ジルコニアは主要都市を一気に失い、逃げ惑う人々が近くの町や村へと一斉に押し寄せていく。


 大都市がモンスターに攻め込まれたのは古代以来である。


 上級モンスターほど賢さや気高さもあり、自分よりも弱い人やモンスターには手を出さないが、エンマリュウは兵器として作られた人造モンスターだ。情けなど全くない。目の前で動くものは主人を除き、全て敵と思い込むよう仕向けられている。


 今や自らを従えていた主人はおらず、抑える者がいなくなったエンマリュウは自らの収まるべきところを追い求めるように建物を破壊していく。


「それで、帝都や水都のみんなはどうなったんだ?」

「みんな散り散りになって、行方不明の難民たちが多いんだってさ。今ジルコニア街の移民たちが王都を避難先にするよう宮殿に押しかけているところだよ」

「逃げなくちゃいけねえのか」

「最悪ジルコニア街だけでも、帝都や水都が復興するまで難民たちに提供できれば良いんだけど」

「宮殿がそう簡単に許可を出すとは思えません。逃げ惑う人々に誘導されたエンマリュウが王都までやってこないとも限りませんから」

「じゃあ見捨てろってのかよ!?」

「落ち着いてください。避難先は王都だけではありません。縁都も避難先の候補です。女王陛下もお気づきになられているはず」


 エメラには1つの考えがあった。


 難民たちを王都だけでなく、アモルファスの領土内にある町や村に分散させる策を思いつく。エンマリュウが自らの意思で人を襲う事が分かった今、みすみす王都まで誘導する事だけは避けたかった。


 ジルコニアは緊急事態宣言を発布し、エンマリュウが滞在している都市部全ての放棄までを宣言しなければならないほどの事態であった。


 食堂は行く末の分からない自分たちの未来を前に沈黙するのであった。

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