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第177話「回復の恩返し」

 王都民たちが外でルビアンのために奔走する中、当の本人はバックヤードとキッチンを行ったり来たりする生活をしている。


 エンマリュウの資料漁りの合間に洗浄の魔法でキッチンやたまった皿を奇麗にし、鮮度の魔法で賞味期限や消費期限が切れた食材を元の鮮度へと戻している。


 食堂の仕事よりもモンスターの研究に追われているが、もはや研究者だ。ルビアンはアルカディア時代からモンスターの下調べを欠かさなかった。


 周囲もルビアンに対して理解があるのか誰も咎めない。


 それもそのはず、エンマリュウが王都に迫ってくるとなれば困るのはルビアンだけではないからだ。最初こそ自分の住む所には来ないでくれと願うくらいの認識でしかなかった。


 だが奇しくもルビアンの噂が広まった事で王都民たちの心に火がついたのだ。


 王都の中央にある大きな市場でルビアンの噂が流れている。


 一度流れた噂は市場に集まっている人々を中心に広がっていき、やがてそれは王都の外へと拡散していった。


「そんなわけで、今ルビアンが必死にエンマリュウの弱点を探してるんだってよ。俺たち討伐隊はいつでも拠点を変えられるけど、王都の人はすぐに避難できない。だから王都に来る前に弱点を見つけてやっつけてしまおうって算段だ」

「なるほどなー、あのヒュドラーを倒したルビアンが言うんだから間違いねえかもな。俺たちだって黙っちゃいられねえよ」

「ああ、王都民魂を見せてやろうぜ」

「エンマリュウに一泡吹かせてやろうぜ」


 王都の酒場、コーラルバーはいつにも増して盛り上がりを見せており、客足が増えた影響か、アメジ、ソコラの2人は大忙しだ。


 酒の勢いでエンマリュウを倒すと豪語する者までいたが、実際に戦った時の戦力差は言わずもがな。その場のノリである事はみんなお見通しだが、エンマリュウを倒すために手伝いたい気持ちは本物だ。


「今日はルビアンの噂のおかげで大盛況だな」

「そうですね。私たちにもできる事はないんでしょうか?」

「できる事ねぇ~」


 めんどくさそうに両手を頭の後ろに回し天井を見上げながらアメジは考えた。


 このままエンマリュウがここにやってくる噂でも流れれば商売あがったりだ。


「ルビアンさんはうちの常連なんですから、困ってる時はお互い様ですよ」

「うーん、そうだなー。あっ、そういえば情報屋の常連いたなー。あいつにお願いしてエンマリュウの情報でも仕入れてもらうか。俺たちが先に情報を手にすれば、ここもさらに繁盛するだろうぜ」

「さすがはマスター、抜け目ないですねー」


 その頃、食堂でもカーネリアが常連を中心に噂を流している。


 洗練された丁寧な接客が幸いしてか、普段はなかなか店員とは話さない客までもがカーネリアの話に耳を傾けている。


「あたしの夫はそれはもう勤勉でして、今も皆さんのためにエンマリュウを倒そうと必死なんです。あたしも少しでもルビアンのお手伝いをと思いまして」

「そうなのか。確かうちの倉庫に古代のモンスターが記された古文書があったはずだ。昔うちの祖父が古代マニアでよく古文書や化石を拾ってきては保存をするもんだから、倉庫のスペースを圧迫するばかりでね。一度まとめて持ってくるよ」

「良いんですか?」

「ああ、良いとも。どうせ全く使わずにほこりがかぶってるだけで処分に困ってたんだ」

「それは助かります。大切に使わせていただきます」


 数日後――。


 ルビアンがエンマリュウを倒そうと思い悩んでいるという噂は海を越え山を越え、いつしかこの星の裏側にまで達していた。


 そこで商人、旅人、討伐隊といった面々が話す事と言えばエンマリュウの事ばかりだ。


 討伐隊の内の何人かは避難しながらエンマリュウと戦い、いくつかの特徴や技を目撃した。さらには食堂に向けてあらゆる方向から古文書やエンマリュウと戦った手記などが届けられた。


「――これ、全部エンマリュウの情報か?」

「ええ、国を超えて色んな人たちの元に噂が届いたそうよ。そしたらみんなルビアンに協力してくれて、これまで何度か恩を受けたお礼だとか言って命懸けでエンマリュウを観察して情報を持ってきてくれたんだって。あの時ルビアンが回復してあげた討伐隊の人たちがまとめたそうよ」

「それと、この前お前が腰痛を回復させた常連のおじさんからも古文書が届いた。あたしが預かっておいたんだ。大事に使うんだぞ」

「私は知り合いの大商人から情報を貰ってきた。この前モンスターの攻撃で傷を負ったところをルビアンが治してくれた事をずっと覚えててくれたそうだ」

「わたくしは昔お世話になった貴族の方から古文書を貰ってきました」

「うちからもあるで。アメジが情報屋からエンマリュウの情報を仕入れてくれたそうや」

「私はジルコニア街の図書館の館長から古代モンスターの本を貰ってきた」

「……お前ら……ありがとな」


 ルビアンは口を開いたまま王都民たちの行動に感極まっている。


 みんなルビアンが困っていると聞き、情報を集めてくれた事に心底感謝しているのだ。


 彼らは困った時にルビアンの回復の魔法や鮮度の魔法に修復の魔法などで助けてもらっていた。既に何年も前の話ではあるが、彼らはルビアンに助けられた事を忘れていなかったのだ。


 アルカディア時代にできた友人から最近できたばかりの知り合いまでもが、今こそ恩を返す時と言わんばかりに奔走した。彼らはルビアンのために結束し、エンマリュウ討伐という1つの目的のために走り続けるに至った。その結果、考古学者たちが集めてきたものよりもずっと多くの情報を得る事ができた。


 ルビアンは涙を拭きながらその資料をバックヤードへと運んでいく。


 それを見たガーネたちや常連たちも嬉しそうな顔でルビアンの作業を手伝った。

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