第176話「食堂情報網」
アンが全力でアルカディアを潰そうとしている矢先の事だった。
ルビアンはエンマリュウの弱点を見つけ出そうと様々な本を調べている。
その中にあった古代の図鑑を見ていると、やはりクロコダイラントをベースにしている事からも、このモンスターを徹底して調べる事に。
クロコダイラントの基本情報はあれど、明確な弱点までは分かっていない。
数時間前――。
ルビアンはクリソと共に研究所へと戻り、数多くの研究資料を読み漁った。寝る間も惜しんで古代文字の翻訳をし続けた事もあり、まだ公開されていない情報もあった。
研究所の部屋の中は相変わらず散らかっている。
机の上にも紙、部屋の端っこにも紙の山が乗せられ、今にも崩れそうだ。
エンマリュウに関する情報のみが分かりやすくまとめられており、ルビアンはその翻訳と睨めっこをしながら読み続けている。
「ルビアン、エンマリュウはどんなモンスターで構成されているの?」
「分かったかもしれないってだけで確証はねえよ」
「やれやれ、ここに入れてもらうために嘘を吐いたのね」
「ああでも言わなきゃ入れてくれなかっただろ。モルガンの証言と一致しそうなモンスターはクロコダイラントだけじゃないってのは確かだ」
「尻尾を自由自在に伸ばすって言ってたから、テールバーンじゃないかしら?」
「テールバーンか、確か古代にいたワイバーンの一種で、尻尾の長さと太さを変えられたけど、天敵である上級モンスターの増加という環境の変化についていけずに絶滅したんだっけな」
「そうね。今いるワイバーンたちの始祖とも言われているわ」
ルビアンとクリソは度々議論を重ねながら使われた古代モンスターを調べていく。
その内モルガンの証言と一致する特徴を持ったモンスターをピックアップしていく。
「候補が多いな」
「ここから何体かに絞り込めれば良いけど、エンマリュウの情報が少ないわね」
「エンマリュウの調査か討伐をしてくれるパーティがいれば良いんだけど、あれだけ強いんだし、そうそう行ってくれるパーティなんて――」
「それならさっき、女王陛下がエンマリュウを討伐してくれるパーティが見つかったって言っていたわ。どこのパーティかは知らないけど、命知らずなパーティがいたものね」
「そいつはラッキーだぜ。エンマリュウの情報が手に入ればこっちのもんだ」
ルビアンもクリソも知らなかった。
これから討伐を命じられたのは、事実上の死刑宣告をされたアルカディアである事に。
エンマリュウの情報を知りたいのであれば、ルビアン自ら討伐隊を結成して討伐へ向かう手もあったのだが、子供たちの世話を見知らぬ他人や常連に押しつけるわけにもいかず、やむなく他に任せるしか方法はなかった。
だが手をこまねいているのも彼の趣味ではない。
少しでも多くの情報を揃えるべく、ルビアンは家に帰ってからも研究者の如く無心になり情報収集を心掛けているところであった。
この様子を見ていたガーネたちに心の変化が表れていた。
「ルビアン、どうしたの? そんな困った顔して」
「エンマリュウの弱点を探してるんだけどさ、なかなか分からねえんだよ」
「ふーん、分かったわ。今度常連さんたちに聞いてみるわね」
「ガーネ、どうしたんだ?」
バックヤードから話を終えて出てきたカーネリアとアンが合流する。
何やらガーネが困っている様子に見えたのか、2人共ガーネが心配になっている。
「2人とも聞いて、ルビアンがエンマリュウの弱点を探そうと必死なの」
「それなら私に任せてくれ。何人か情報通を知っているんだ」
「なら私も宮殿にいる知り合いに聞いてみよう。私の知り合いはベルンシュタイン家と繋がりのある者が多くてな、何でも世界中から品を取り揃えている大商人もいるんだ」
「それは頼もしいわねー。急を要するみたいだから、なるべく早くね」
ガーネたちはルビアンを手伝おうとするが、本人は飼料や図鑑と睨めっこをしながら考えるばかりで話がまるで聞こえていない。
それほどにまで集中しているのには訳がある。
常連から度々エンマリュウが王都に近づいているという噂話を聞く度に心休まる事はなく、せめて弱点でも分かれば安心できると考えたのだ。
翌日、ルビアンは仕事の合間にエンマリュウの研究を始め、ガーネたちは常連や知り合いにルビアンの事情を話していく。
「そういうわけだから、少しでも多くの人に伝えてほしいの」
サーファやアクアンを始めとした常連に言い聞かせるようにエンマリュウの情報を集めるためのお願いをしている。通常、モンスターの研究は研究者のみでやり取りが行われていたが、ガーネたちは一般の人々からも情報提供を求めたのだ。
「良いぜ。ルビアンには色々と世話になったからな」
「そうだな。なるべく大勢に伝えておくよ。王都の中心にある大きな市場で噂を流せば、明日にはほとんどの人に情報が行き渡るはずだぜ」
「ありがとう。ルビアンも喜ぶと思うわ」
ガーネとカーネリアは接客のため動けなかったが、アンは食料調達の担当であったため比較的自由に動けたため、宮殿へと向かい、そこで知り合いの大商人と会った。
アンよりもずっと派手目で成金丸出しの風貌で誇り高く意地汚いが、アンはそんな彼を見事にコントロールしている。
「そういうわけなんだが、頼めるか?」
「エンマリュウの情報ねぇ。分かったよ。他でもないアンちゃんからのお願いだ。情報収集は専門じゃないけど、一度商人の連中を集めて伝えてみるよ。俺の手にかかれば一声で集まるよ。この星の裏側にいる商人だって集められるくらいだ。もしかしたら何か知ってるかもしれねえ」
「それは良かった。なら情報の質に応じて報酬を割増しにしよう」
「ルビアンには何度か世話になってんだ。今回は特別に割引しておくよ」
「助かるよ。星の裏側までたのむぞ」
「任せとけって」
王都の街では誰もがルビアンの名を知っており、食堂やクエストなどで何度か世話になった者たちばかりであった。
みんなルビアンが困っていると聞き、血眼になって情報を集め始めるのだった。
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