第17話「海の番人」
ルビアンとガーネが目にしたのはクラーケンだった。
大型の船よりも大きいくらいのイカであり、それがルビアンたちの船であると知りながら襲っている様子である。
触手の1本がガーネを襲う。
「危ないっ!」
「きゃっ!」
間一髪のところでルビアンがガーネに向かって飛び込み触手をかわす。
「ありがとう。ルビアン、あれを見て」
! まただ。またあの黒い珠だ。でも何でクラーケンが。
ガーネが指差した先にはクラーケンの顔があり、その額にはかつてルビアンがフェンリルを倒した時に目撃した黒い珠と同じものと思われる宝石がはめ込まれている。
ルビアンたちの船はクラーケンの触手に捕まっており、それが徐々にクラーケンの口の中へと運ばれようとしていた。雨も風も段々と強くなり、それがクラーケンの恐ろしさを一層引き立たせる。
「ルビアン、このままじゃ飲み込まれるわよ。ここは一旦戻りましょ」
「帰りたいならガーネ1人で帰ってくれ。今帰ったら今までの苦労が水の泡だ」
「死んだら元も子もないでしょ!」
「どうせ今頃死ぬはずだった命だ。悔いはねえよ」
「もうっ! 何カッコつけてんのよ!」
「まあ見てなって」
クラーケンが大きく口を開けると、そこにルビアンが手の平に黄色く丸いサンダーフラムを持ち、それを一直線にクラーケンの口に向かって勢いよく放り投げた。
クラーケンの口内に強力な電撃が走った。サンダーフラムには攻撃魔法の1つ、雷の魔法が込められており、水中の敵などによく刺さるフラムである。すると、怒り狂ったクラーケンの触手がルビアンとガーネを襲う。
「うわああああっ!」
「きゃああああっ!」
ルビアンもガーネもクラーケンの触手に当たり、バットに当たったボールのように弾き飛ばされ、ジルコニア本土の岩場に激突する。
「いってぇ――乱暴なマネしやがって」
まさかこの数日間だけでフラムを何度も使う事になるとは思わなかったぜ。使い捨てだからあんまり使いたくなかったけど仕方ねえ。
「ううっ!」
「ガーネっ!」
ルビアンがガーネに近寄ると、彼女は岩場に激突した衝撃で頭から出血し、全身に重傷を負っていた。しかしルビアンの全体回復魔法により、その癒しの光を浴びた2人の傷が癒えていく。
「! 傷が治ってる。ありがとう」
「それより、問題はあのクラーケンだ」
ルビアンたちが乗ってきた船がクラーケンの腕力によりバラバラに破壊されていく。
「クソッ、気に入ってた船だってのによ!」
「でも、どうしてクラーケンがここに?」
「分からねえ。クラーケンはもっと広い海の海底に住んでるって聞いてたけど、こんな海峡に出てくるなんて聞いてねえぞ」
クラーケンが陸に上がろうと近づいてくる。
ルビアンもガーネも攻撃魔法を繰り返し撃つがほとんど効いておらず、もう触手がすぐ近くにまで迫ったその時――。
「……ん? 何だあれは?」
ルビアンたちの頭上に小さな岩がたくさん集まり、それが段々と大きくなっていく。
その巨石をかなり後ろから何者かが操っていた。
「クラーケンよ、巨石の鉄槌を受け、海底へと散れっ!」
浮いている巨石がクラーケンの真上まで移動すると、それがクラーケンの顔面に勢いよく直撃し、辺りには大きな水しぶきがかかる。
クラーケンが鳴き声と共に海底へと沈んでいく。
海面には黒い珠が浮いていた。それを見つけたガーネが引力の魔法で手の平に吸い寄せる。
「――これ、あのクラーケンの額にはめ込まれていたものよね?」
「ああ、この前見たやつと同じだ」
「それを渡すんだ」
「「!」」
ルビアンとガーネが声の方向へ向くと、そこには橙色のロングヘアーで魔女のような格好をした女性が立っており、冷静な目つきで彼らを見つめている。
モルガンにも負けないほどスラッとした体型をしたその女は、先ほど岩石系の魔法を使った張本人である。
「このブラッドパールが目当てか?」
「! お前、何故それの名前を知っている? さてはお前らも奴らの手先かっ!?」
「その奴らってのはよく分からねえけど、別に悪い奴じゃねえぜ。俺はアモルファスにいる時も、危うくこの黒い珠に殺されかけた」
「アモルファスでも同じ物を見たと?」
「ああ。俺はルビアン・コランダム。あんたは?」
「あたしは、カーネリア・カルニス。普段はフリーランスで討伐をしているが、今は訳あってブラッドパールを探して回っている」
「えっと、私はガーネ・メラナイト。さっきは助けてくれてありがとね」
「礼には及ばん。それより――」
カーネリアがルビアンの持っているブラッドパールを見つめる。
「それは危険なものだ。今すぐ破壊しろ」
「お、おう。分かった」
ルビアンがブラッドパールを地面に置くと、それを爆破の魔法で破壊する。
「さっきから見ていたが、お前、全体回復魔法を使えるのか?」
「ああ、一応あらゆる回復魔法が使えるぜ。でもエンポーが流行ってからはパーティから追放されちまったけどな。だから今はこうして、ガーネの食堂に就職したってわけだ」
「そうだったか。なら奴らとは違うようだ」
「奴らってどんな連中だよ」
「それは秘密だ。それはそうと、ジルコニアに何か用か?」
「実はさ、いつも食ってるチャーハンに使われてるジルコニア米がなくなっちまってさ、それで貿易摩擦をかいくぐって取引しようと上陸しに来たんだ。帝都がどこにあるか知ってるか?」
「そうだったか。帝都ならあっちだ」
カーネリアが山の方へと指差した。それは帝都までまだまだ距離がある事を意味していた。ルビアンはそれを悟ったのか頭をガックリさせて落ち込んでいる。
「マジかよ。山の向こうじゃねえか。でもありがとな」
「待ってくれ」
「なっ、何だよ?」
「あたしも同行させてくれ」
「どうして?」
「あのクラーケン、明らかにお前たちを狙っていた。だからお前たちと一緒にいれば、何か分かるかもしれないと思ってな」
「そうかよ。勝手にしろ」
カーネリアもルビアンたちに同行する。近くには神社や木造の家が立ち並ぶ村があり、ルビアンたちはそこで寝泊まりをする事となった。
ルビアンたちはさっきの戦いの疲れからか、そのまま眠りに就くのだった。
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カーネリア・カルニス(CV:上坂すみれ)




