第169話「回復の価値」
数日後、ルビアンの元に数人の客がやってくる。
外見はボロボロで所々に切り傷や火傷といった満身創痍の最たる例とも言えるほどの重傷だ。
どうも討伐隊の者たちであるとの事だが、彼らの目当ては食事よりも治療だ。治療であれば病院まで行けば良いのだがそうもいかなかった。彼らは金銭的にも困っていたのだ。
「ルビアンなら俺たちの魔力の爪による傷を治せると聞いたんだ。病院はどこも人が混んでる上に治療費が高くて金もないし、かと言ってポーションも値上がりしてて買えないし、もう頼れるのはあんたしかいないんだ。どうか頼む。この通りだ」
討伐隊の男の1人が頭を下げた。
彼らを連れてきたのはサーファとアクアンだ。
2人は帰還を果たした討伐隊をどうにか報いたいと思い、ルビアンを紹介したのだ。ヒュドラーの魔力の爪さえ治してしまう驚異の回復力は注目を集めていた。
「確かに今はエンポーが貴重品でポーション自体が定価格の3倍を超える値段で売られているからな。ここんとこ討伐隊が生きて帰ってきたは良いが、ポーションで治療ができずに病院へ行く事態になっているが、そのせいで今病院は患者で溢れかえっている」
アンがルビアンに今の回復事情を説明する。
「みんなそんなに回復に困ってんのか?」
「ああ、それもあって今じゃどこのパーティにも回復担当が引っ張りだこだ。だが今までむげに扱いすぎた代償なのか、すでに引退した人や、討伐隊の者に不信感を抱く者も少なくない。今復帰すればかなりの儲けになるというのに」
カーネリアが嘆きながら呟くように言った。
彼女としては今ルビアンに討伐隊の回復担当に復帰してほしいと思っている。だが同時にルビアンの気持ちも尊重しているため、面と向かって戻ってほしいとは言えない。
「ルビアン、確か食堂の仕事のついでに回復や修復で稼いでた事があるよな?」
「ああ、あの時はあんまり忙しくなかったからやる余裕があったけど、今じゃそこまでやる余裕はねえからなー。誰かが手伝ってくれるなら別だけど」
ルビアンにとっては千載一隅のチャンスだ。
ここで多く稼いでおけば食堂は一生困らない額を稼げる事は間違いないとアンは考えている。
「ルビアン、回復1人につき10ラピスなら病院より安い」
「金のない奴から10ラピスも取るのか?」
ルビアンは咄嗟に反論する。昔はお金を払える人だけがやってくる状態だったため、安心して商売をする事ができたが、今はお金のない人もやってくる始末だ。
そんな彼らから残り少ないお金を巻き上げる事にルビアンは罪悪感を感じている――。
だがアンはそれも計算ずくだった。何としてでもこの案に賛成してもらい、少しでも収入源を確保しておく必要があったのだ。いつまた飢餓の時代がやってくるか分からないため、貯金しておくに越した事はないが、損得勘定でルビアンは動かない事をアンは知っている。
「集めたお金はポーションの生産工場に寄付する。そうすれば長い目で見てポーションの値段を下げる事に貢献できる。そのためのお布施だと思えば良い」
「……」
珍しくルビアンの方が押し黙ってしまう。
彼は生活費分稼げればそれで良いと考えている。平民根性がしみ込んでいるルビアンからすれば、貧困者からお金を巻き上げるやり方は貴族がやってきた既得権益とぴったり重なってしまう。このままただで治療して恩を売るのも良いが、それだと大勢の客が押しかけてきて食堂が食堂ではなくなってしまう。
ルビアンが回復ばかりをするようになれば食堂の雑用係としての仕事がなくなり、半分病院のような施設になってしまう。そうなれば病気持ちがやってくるため、衛生上良くない事も視野に入れていた。
「ルビアン、拝金主義が嫌いなのは分かるが、人を救うのに金が必要な時もある。確かに貴族の中には金を巻き上げる者もいるが、その多くは世の中に貢献するために金を集めている」
アンはベルンシュタイン家の者として経営を学んでいる。
金回りを良くする事で社会に貢献するのが貴族の役割であるとアンは知っている。
「ルビアン、私もアンに賛成するわ」
「せやな、悪い事に使うんじゃないなら別にええと思うで。お金を取ったからゆうて誰もルビアンを責めたりせえへんよ。ルビアンがどれだけええ奴かはうちらが1番知ってる」
「ルビアンは本当にみんなに愛されてるわねぇ~」
ガーネがルビアンの後ろから抱き着きながら言った。
半分は喜び、半分は嫉妬、ガーネはそれを顔には出さなかったが、みんなその事は重々分かっていた。相手の気持ちを知りつつも尊重し遠慮はしない。それが同じ相手を愛した者同士のお約束だ。本当は独占したいが、その気持ちに蓋をする事が重婚者には求められる。
「――分かったよ。じゃあその条件で回復と修復をやってみるか」
ルビアンが重傷を負った討伐隊の者たちを1人10ラピスで回復の魔法を施していく。ルビアンの回復魔法はどの回復担当よりも質が高く、あっという間に回復を終えてしまった。
見る見るうちに傷が塞がっていき、肌には艶が戻っていく。
回復を施された者たちは最後にエンペラーポーションを使ってから久しく、それ以来の完全回復にはその後もずっと忘れられないほどの嬉しさを感じた。
ガーネはそんなルビアンの笑顔を見ると、ホッと一息つくのだった。
気に入っていただければブクマや評価をお願いします。
読んでいただきありがとうございます。




