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第165話「叶わぬ合流」

 翌日、いつものように食堂の仕込みが始まると、ルビアンたちが食材の買い出しへと出かけた。


 しばらくして買い出しを終えたルビアンとアンの2人が戻ってくると、ガーネたちが迎え入れた。


「2人共おかえり。買い出しどうだった?」

「ああ、何とか買えたよ。ジャガイモの値段が段々下がりつつある。ポーションXの効果がここで出てきたみたいだな。このまま治ってくれるのを祈るばかりだ」

「だがポーションプラントは値段がかなり上がっていたな。クリソが言うには、あの潜伏期間の間にエックスポイズンで多くのポーションプラントがやられたそうだ。だから今、生命力が残っているポーションプラントを保護して必死に増やしているところだ」

「ここにきてまだヒュドラーの影響が残ってるとはなー」


 そんな矢先、またしてもモルガンが食堂へとのっそり現れた――。


 ルビアンたちはポーションXの事情を話しながら仕込みをし終えて店が開いてしばらく時間が経った後であった。


 またかよと言わんばかりの顔でルビアンたちがモルガンを睨みつける。


 この時点でもう客として扱っていない事が分かる。もはや幼馴染ではなく、因縁の相手に他ならない。かつてモルガンに対して持っていた愛情さえとっくにそこを尽きていた。


「ルビアン、良い知らせだ。お前をアルカディアに迎え入れたいと思っている」

「断ると言ったら」

「……あの時は本当に済まなかった。今の王都では回復薬が不足していて、どのパーティでも回復担当(ヒーラー)が見直されてきている。お願いだ」

「断る」


 ルビアンはきっぱりと断った。まるで最初から答えが分かっている問題を解くかのように。モルガンもそう簡単には受け入れてくれないと分かっている。


 そこで彼女はこれからの計画を話す事に。


「エンマリュウは私たちにとって共通の敵のはずだ。私たちとルビアンたちを合わせればパーティの最高人数に達する。一時的なものでも良い。私たちはどうしてもエンマリュウを倒したい。その一心でここまでやってきた。だから協力してほしい」

「言いたい事は分からんでもないが、今までの事を考えるとな」

「ああ、お前たちはいかんせん失望を買いすぎた。そんな連中と組むパーティなどない。いい加減信用されていない事に気づいたらどうだ?」

「エンマリュウがここに現れたらどうするつもりだ?」

「その時はその時考えるだけだ」

「計画もなしに倒せる相手じゃないぞ」


 モルガンはエンマリュウ討伐を口実に、ルビアンたちに合流する形でアルカディアを生まれ変わらせ、そのパーティで再びSランクパーティを目指そうと企んでいる。


 無論、回復担当(ヒーラー)の重要性を知った今、ルビアンを追い出す気はない。


 だがルビアンたちにとってはそれ以前の問題である。


「いざという時の即席パーティならもう考えてある。俺たち7人に加えて綺羅、桃、頼の3人も入れて新しい即席パーティを組むつもりだ。お前らが俺たちと手を組むと言うなら、お前たちの取り柄である攻撃力でうちアタッカーを上回る必要があるぞ。でなきゃ必要ねえ」

「!」


 ルビアンの言う事はもっともだった。アタッカーの中心であるアンや加里の打点を上回るほどの者でなければわざわざアタッカーとして手を組む意味はない。


 アルカディアの中にアタッカー以外の人間はいない。


「……どうしても駄目か?」

「ああ、駄目だ。前々から思ってたんだけどさ、これまでもずっとアルカディアは仲間を平気で見捨ててきただろ。そんなところ、もう信用できねえよ。あの時まではずっとモルガンが俺を励まし続けてくれたから、俺だって他のメンバーが嫌でも頑張ってこれた。もうあんな目に遭うのは真っ平御免だ。分かったらもう二度と来ないでくれ」

「……分かった」


 モルガンは食堂を立ち去っていく。その背中からは哀愁が漂っていた。


 ルビアンはまたしてもモルガンを拒絶した事をアルカディアに同情した客から責められるが、そんなものは知った事じゃないと思っている。ルビアンはもうアルカディアの一員ではない。故にアルカディアの扶養義務もない。もはやルビアンの管轄外だ。それを選んだのもアルカディアだ。


 俺は自分の決断に責任を取れない奴が大嫌いだ。


 たとえそれが、幼馴染であったとしてもだっ!


 ルビアンは拳を強く握りしめながら思った。もう顔も見たくないという本音がもう二度と来ないでくれという言葉として表れていた。


 モルガンたちは事実上のブラックリスト入りとなったのだ。


 もはやアルカディアは5人となったパーティでエンマリュウに挑む以外に道はなかった。


 だがモルガンにとってそれ以上に深刻なのは昨日の吐血だ。もしかしたら何かの病気かもしれないという不安が彼女に襲いかかった。


「ふぅ、やっと帰ってくれたか」

「むしろ何で応じてくれるなんて思ったんだろうな」

「これで懲りてくれると良いが、ずっと見て見ぬふりをしてきた課題を指摘されたな」

「あいつの言う事も分からん事はないけど、エンマリュウってホンマに来るんか?」

「加里、否定したいのは分かるけど、可能性はゼロじゃないわ」

「備えあれば憂いなしです。今から戦闘訓練を積んでおきますよ」

「そうだな。せっかくだから綺羅と桃と頼に移住してもらうか。あいつら仕事がないって言ってたから、うちで雇っても良いかもしれねえな」

「そうね。隣が空き家になった事だし――」


 ルビアンたちは何も考えていないわけではなかった。


 かつてヒュドラーを倒した時のワンナイトパーティに近いパーティを考えていた。即席とはいえ、攻守のバランスがずば抜けて良かった事をルビアンは覚えていた。


 できる事とできない事がハッキリした者ばかりだが、それをお互いにカバーしながらお互いの長所を生かせるパーティだ。


 モルガンがルビアンとよりを戻す機会は水の泡となるのだった。

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読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回のやり取りも短編版を殆どなぞった内容でしたが、連載版における今迄の経緯を知っていると、同じ文章でも結構印象が変わりますね。 特に「良い知らせだ」という、この期に及んでも上から目線&恩着…
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