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第162話「彷徨う対抗馬」

 エメラはさっきから自分を見つめている綺羅に気づいた。


「どうかしましたか?」


 自分を見つめていた理由を探るように聞くと、綺羅は誤魔化そうとそっぽを向いたが、エメラが彼にツカツカと近づくと、いよいよ誤魔化しが効かなくなった。


「別に何でもないよ」

「とてもそうは見えませんでしたけど」

「エメラはさ、何で戦闘ができるのに討伐隊に入らないの?」

「わたくしはあくまで護身術の一環で戦闘技能を磨いていただけです。いつ誰が暗殺しに来ても珍しくない身分でしたから。大臣たるもの、相応の強さがなければ務まりません」

「貴族って案外脆いんだな」

「何か言いました!?」

「いや、なーんにも」


 綺羅は両腕を後ろに回しテーブル席の椅子の背もたれに体重をかけた。


 彼はエメラの中にある臆病さを見抜いていたと同時に、せっかくある技能を活かさないのはもったいないとさえ思っている。


 ルビアンは回復魔法を食堂に活かしてるってのに。


 綺羅は陰口を言うように心で呟いた。


 元々戦闘技能がなかったために不遇の立場にいた綺羅にとってエメラは嫉妬の的でしかない。


「私に討伐隊に入れと仰りたいのですか?」

「いざって時に戦えるようにしておかないと意味ないだろ」

「いつか戦う事になるとでも言いたいのですか?」

「取り柄があるのに使わない奴がムカつくんだよ。僕は溶岩系の魔法が使えたけど、戦闘は苦手だったからずっと溶岩の魔法を活かした武器職人として武器を作る仕事をするのが精一杯で、近くに大きな武器屋ができてからは移住を余儀なくされた。でもジルコニアはどこも武器商人の宝庫だ。だから姉さんと一緒にアモルファスまで移住するしかなかった」

「今は武器職人ではないのですか?」

「晶さんに僕の作った武器が気に入られてからは一緒に訓練を受けさせてもらえる事になって、それからはあんまりやってないかな」


 綺羅が話したかったのは自分の事ではない。


 エンマリュウがアモルファスの領土内に侵入した今、いつ王都を襲ってくるか分からない。彼にはそんな予感がしていた。


 その頃、アモルファス大学研究室にて――。


 クリソは自らの研究室を持ち、考古学者として古代文字の解析に明け暮れていた。


 部屋の中のデスクの上は相も変わらず古文書の翻訳が書かれた紙でいっぱいになっており、クリソは椅子に座りながら背伸びをして再び作業に戻ることの繰り返しである。窓は締め切っていて日にちも分からないまま解析だけが進んでいく。


 エンマリュウが領土内に侵入してきた事もあり、クリソはエンマリュウを倒すためのヒントがないか調べるためにジルコニアの古代文字を優先的に解析している時だった。


「……!」


 クリソの目がクワッと光るように鋭くなる。


 彼女はとんでもない古文書を解析してしまったのだ。


「これは――とんでもない発見だわ」


 研究室の扉が開く音がする。現れたのはコーヒーを乗せたプレートを持った優しそうなショートヘアーな女性の助手だった。


「教授、あまり研究ばかりだとお体に障りますよ。少し運動してきたらどうですか?」


 助手が心配そうにクリその容態を気遣っているが、クリソ本人にとってはどうでもいい話である。三度の飯より3000年前の解析、それがクリソのモットーであると言われるほど寝食を忘れていた。


「ねえ、これ見て」

「……話聞いてました?」

「そんな事よりこれを見て。私、とんでもない発見をしてしまったかもしれないわ!」


 クリソが研究資料の一部を見せびらかすように助手の目の前に突きつけ、彼女がそれを受け取ると、クリソは舞い上がって元気を取り戻したように自信満々に語りだした。


「教授は新発見が栄養源なんですね……! これ本当なんですかっ!?」


 研究資料をチラッと見た助手が驚きを隠せない。


 さっきまでのまともな対応はどこへやら。彼女もこの研究資料に釘付けとなっている。


「ええ、この古文書を書いた人が嘘吐きでなければね」

「えっと、エンマリュウは文明を破壊し暴れ続けるヒュドラーの対抗馬として古代ジルコニア人が作った人造モンスターって、もしこれが本当なら……」

「ええ、古代人たちが私たちよりも遥かに高度な文明を持っていた証拠になるわ」

「でも結局、ヒュドラーは2回とも人の手によって倒されましたよね」

「ヒュドラーは2つに分かれた大国を1つにするために、古代アモルファス王国の大臣たちによって作られた人造モンスターである事が分かっているわ。でも結局、誰1人としてヒュドラーをコントロールする事はできず、文明ごと滅ぼされた」

「……人間の愚かさは……昔から変わらないんですね」


 クリソはある可能性を感じていた。


 それはヒュドラーの対抗馬として作られたエンマリュウがエックスポイズンの拡散によってヒュドラーがまだいると勘違いし、エックスポイズンがある場所を片っ端から破壊しているという可能性だ。


 エンマリュウが暴れたとされる場所はいずれもエックスポイズンの反応が強く表れた場所だ。それが事実であればエンマリュウの進路にも説明がつくとクリソは考えた。


 アモルファスの領土内でエックスポイズンの反応が特に強い場所は2つある。


 その1つがダイヤモンド島、そしてもう1つは……。

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