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第153話「薄紅色のリボン」

 裁判室の中ではルビアンだけが場違いな格好だ。


 全員がそんなルビアンの動向に注目する中、法律を逆に利用した案を思いついたのだ。


 ルビアンはローズの事をカーネリアに調べさせ、法律やその解釈はアンに調べさせた。


 加里と翡翠にはエメラを減刑するようにとの署名を集めさせ、ガーネはルビアンと共に王国中の弁護士を探して回った。だが派閥争いに巻き込まれたくないと全員に断られた。


「その考えとは?」

「ローズ、あんたはずっとシリカ家の家督を継ぎたかったんだよな?」

「それはそうだが、もう遅い」

「エメラはあんたを陥れるために大臣派を作ってたわけじゃねえ。それは分かるよな?」

「だからどうした」


 ローズは裁きを受ける事しか考えていない。故にルビアンの言い分を聞こうとはしない。


「俺はあんたがシリカ家の子供として育った証拠を集めてきた」

「!」


 これにはローズも思わず度肝を抜かれたようだった。


 ルビアンが言いたいのはローズがシリカ家の人間になる事をこの法廷の場で認めさせる事であった。シリカ家は既に滅び、ローズが後を継ぐ事が認められたとしても他に親類がいない。


 それはローズがエスメラルド家との関係が切れる事を意味していた。


 ローズがシリカ家の人間になりたかった事は調べがついていた。


「このままだと、エメラはお前の姉として死刑になるかもしれねえんだ。これはかつてシリカ家の人が住んでいた建物にあったリボンだ。これ、あんたのだろ?」


 ルビアンが古びた薄紅色のリボンをローズに見せた。


「! ――それは私が母の誕生日ににプレゼントしたリボンだ。まさかまだ実家にあったとは」

「個室の引き出しの中に、ずっと大切に保管されていたぜ。よっぽど愛されてたんだろうな。それから当時執事をやっていた人も連れてきたぜ。ディア、通しても良いか?」

「良かろう」

「入ってくれ」


 裁判室の扉が開くと、そこには80代くらいの老人がしがない格好で佇んでいる。


「!」


 ローズが元執事とのまさかの再会に開いた口が塞がらない。


「ローズ、この人があんたの子供時代にシリカ家にいた執事で間違いないか?」

「――ああ、間違いない。でもどうして?」

「なあじいさん、ローズが子供時代にシリカ家で仲良く暮らしてた事、覚えてるか?」

「はい。ローズお嬢様は紛れもなくシリカ家の一員でした。ですから、当時のご主人様と血の繋がりがないと聞いた時の驚きは、今もしっかり覚えております」


 元執事はルビアンに説得されてここへ来た。


 罪人であるローズをシリカ家の一員と認める手助けをする事はシリカ家に泥を塗る行為だ。だがローズがシリカ家の家督を継げずに無念のまま国家を恨んでいる事を知っていたため、意を決して証人となる事を決意したのだ。


 ずっとシリカ家に尽くしてきた身としても、家を継げずにローズが名字を変えるところを見てきた者として、家制度の改定をルビアンから聞いて知った時は、彼女をシリカ家の人間として認めずにいるのもどうかと思った。


 既に証拠も証人も揃っている。ローズにシリカ家を継がせるには十分な根拠だ。


「物は相談なんだけどよ、判決を下す前にローズがどこの家の人間かだけハッキリさせてくれよ。同じ家の人は罰を受けるんだろ? だったらローズがエスメラルド家かシリカ家のどっち側なのかを判定するのが先じゃねえか?」

「確かにそうだ。家制度に則って判断するのであれば、どこの家かだけハッキリさせよう。ローズ、お前はどっちの家の人間だ?」


 ローズにはエスメラルド家の人間となる根拠も、シリカ家の人間となる根拠も持ち合わせている。


 元々は自らを裏切った姉を道連れにするために出自を明かした。


 だがエメラに自分を貶める根拠はなく、単に自らの勘違いで国家を危機に晒してしまった事をローズは悔やんでいる。


 彼女の答えは1つしかなかった。


「私は――シリカ家の人間です。元々は家督を継ぐ事を認めてほしかっただけでしたが、なかなか認めてくれない国を恨むあまり、いつしか家制度そのものを壊すために政権を手に入れようとして、そのために何度も国家の危機を招いてしまった私1人の責任です」

「……では判決を下す」


 ディアマンテがそう言うと、その場にいる全員が固唾を飲んで判決を見守った。


「罪人ローズをシリカ家の人間として家督を継ぐ事を認める。そしてお前は謀反と国家転覆を図った罪で死刑に処する」

「!」


 ローズは最後にシリカ家の人間として認められた事を心底嬉しく思い、今までの感情が目から溢れ出していた。


「シリカ家の者は既に親族を含めローズただ1人だ。故に親族による監督責任放棄罪の者はおらぬ。だがローズに協力していたアレクを始めとした者たちにも相応の罪があるのは事実だ。お前たちは全員大臣の職を解き、平民への降格処分とした上でパール島への流刑とする」


 パール島はアモルファス島から遠く離れた孤島であり、罪人の流刑地にして死刑囚を使った人体実験の研究所だ。


「そしてエメラ、お前はアレクの親族故、監督責任放棄罪によりお前も宰相の職を解き、平民への降格処分とする。以上で閉廷だ」

「!」


 ディアマンテは冷徹は審判を下すも、心底ではエメラが死刑にならずに済んだ事を喜んだ。彼女を島流しにしなかったのは、彼女を国に必要な人間であると認めていたディアマンテの配慮だ。


 エメラは平民となった事で、身内が次々と宮殿内で犯行を犯すエスメラルド家の宿命からようやく逃れる事ができたのだ。


 閉廷した裁判室から次々に人が出ていくと、ルビアンはエメラと2人きりになった。


「エメラ、言っただろ。お前は必ず俺が守るって」

「ルビアン、本当にありがとうございました。わたくしを助けるためにあらゆる手を尽くしてくれた事はその全身の汚れを見れば分かります。色んな場所を駆け回って、洗浄の魔法を使う事も忘れるほどに夢中になって」


 エメラが嬉しそうな顔でルビアンの服の汚れを指摘する。


 ルビアンは何かに夢中になると他が疎かになる。エメラはそんなルビアンの癖を長年のつき合いからしっかりと見抜いていた。


「あっ、そういやすっかり服を洗うの忘れてたなー」

「わたくし、ずっとあなたに伝えていなかった事があります」

「何だよ?」


 エメラは深呼吸を済ませ、ゆっくりと口を開いた。


「わたくし、ルビアンの事が好きです。愛してます」


 ルビアンは思わず顔を赤くしてそっぽを向くと、エメラはそんな彼を優しく抱きしめた。

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