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第148話「遅すぎた救援」

 アマゾナ、クンツ、パイロの3人はエンマリュウを前に震えている。


 3人共必死に岩陰に隠れてどうにかやり過ごそうとしているが、ここまで押されるのは前代未聞だ。


 何度も戦いを繰り返してきたからこそ分かる。今までの相手とは次元が違いすぎる。先制をするどころか自分たちが先制を受けてしまい、早くも仲間を2人も失ってしまったのだから。


 守りを固める隙を作る事さえ許されず、守備の要であるアナテとブルカを失っていた事がここにまで響いてきたのだ。しかも二手に分かれていた事で戦力が半減しているところを狙い撃ちされたためにぐうの音も出なかった。


「こいつ、まさか俺たちが分かれるのを待ってたのか?」

「何というずる賢さだ。しかも地中に隠れていたとは」

「しっ! 黙って!」


 アマゾナが会話中のクンツとパイロを小さな声で咎め、必死の顔で人差し指を口の前に立てている。


 すると、さっきまで二足歩行であったエンマリュウが四足歩行となり、辺りの地面を嗅ぎ始めた。その鼻先は全てを吸い込みかねないほどの嗅覚を誇り、見つかるのは時間の問題だった。


「俺が囮になる。その間にお前らは逃げろ」

「大丈夫なのか?」

「ああ、任せろ」


 パイロが苦肉の策として自ら囮を申し出る。エンマリュウは既に岩陰のそばにまで迫っていた。


 ズシンズシンと地面を踏み鳴らす足音が段々と大きくなってくる。


「おーい、こっちだー」


 パイロが外に飛び出すと、エンマリュウがパイロを睨みつけた。


 だがパイロはエンマリュウと目を合わせる間もなく再び岩陰へと戻ると、そこを通過して遠くへ逃げようとしたのだ。


 岩陰を通過した事でアマゾナとクンツの居場所までもがばれてしまった。


 パイロは最初から囮になるつもりなどなかった。岩陰を通過する事でエンマリュウが2人を見つけている間に自分だけ逃げようとしたのだ。


「ちょっと、何でここを通るのよ。エンマリュウに見つかったじゃない!」

「悪いな、俺は仲間のために死ぬ気なんてねえんだよ。じゃあな」


 パイロは全速力で走っていくと、エンマリュウは口から黄色い炎を吐き出し、それがそのまま後ろ向きに走っていくパイロを猛スピードで迫っていく。


「えっ! ええっ! 嘘だろっ! やっ! やめっ! うわあああああぁぁぁぁぁ!」


 パイロは黄色い炎に飲み込まれ、そのまま炎の一部となり消し飛んだ。


「パイロ……」

「ふん、仲間を売るからだ。同情はできんな――うっ!」

「クンツっ!」


 アマゾナと一緒に逃げている最中のクンツの後ろからエンマリュウの腕の爪が突き刺さり、クンツは口から血を吐いた。


「ぐうっ! 早く……逃げろ」


 クンツはそう言い残すと、炎の魔法を指にまとい、最後の力を振り絞ってバッグからメガフラムを取り出した。これは通常のフラムよりも威力の高い爆弾だ。直撃すれば大型のモンスターにもダメージを与えられる。


 人間が食らえば当然死ぬ。だがクンツはそれを承知の上でメガフラムに火を当てた。


 フラムは手榴弾のようにピンを外して地面や物に当てない限り爆発はしない。だがクンツにはもはやピンを外す力もなかった。彼は自らの命と引き換えにエンマリュウに一矢報いる覚悟でいる。


「とっとと失せろ、ワニ野郎」


 クンツがそう言った途端、彼を中心に大爆発が起きた。


 その衝撃でアマゾナが遠くに吹っ飛ばされた。


 エンマリュウは彼を刺していた右腕の爪を引っ込ませるも、爆発の衝撃で少し遠くまで吹っ飛んだ。だがエンマリュウにはほとんどダメージは入っておらず、すぐにまた起き上がろうとする。


「そ、そんな……メガフラムが効かないなんて」


 アマゾナは恐怖を振り払いながら決死の覚悟で怯んだ状態のエンマリュウに突撃する。


 王都で大臣派たちから授けられた大剣を出現させると、それをエンマリュウに向け、そこから勢いよく走りながら距離を詰めていき、エンマリュウに何度も切りかかった。


 モルガンたちはまだ来ない。アマゾナはモルガンが救援に来る事を半ば諦めかけていた。


 オパル側の5人の内、既に残りがアマゾナ1人だけだったからだ。


 アマゾナは窮鼠が猫を噛むような勢いで猛攻を仕掛けた。


 だがエンマリュウが攻撃に耐えながら起き上がると、その拳をアマゾナに直撃させ、さっきあった岩陰の岩をも打ち砕く弾丸の如く吹き飛ばされ、瀕死の重傷を負った。


「たす……けて……ルビアン」


 アマゾナが助けを求めたのはルビアンだった。だが当然本人はいない。


 彼女はいざという時にルビアンが策を巡らせ、何度も窮地を乗り切った時の事を思い出していた。頭の中にルビアンの顔がぼんやりと浮かんだ。


 エンマリュウは先ほどの猛攻で闘志に火がつき怒り狂っている。


 その爪を置きく振りかぶってアマゾナにとどめを刺そうとしたその時――。


 アマゾナが目を瞑った。だが特に痛みはなく、何か堅い物同士が打ち鳴らし合ったような音だけが響いている。恐る恐る目を開けてみると、そこにはモルガンの後ろ姿があり、彼女はエンマリュウの爪を聖剣で必死に止めている。


「こいつっ、なかなか強いな。アマゾナっ! 大丈夫かっ!?」

「うう……あたしは大丈夫。モルガンこそ、大丈夫なの?」

「私は大丈夫だ。早く逃げろ」

「モルガンから離れろぉ!」


 突然オニキが棍棒を持ってエンマリュウの頭に直撃させると、エンマリュウはたまらず攻撃を中断し、モルガン側の5人がようやく揃った。


 救援と呼ぶにはあまりにも遅すぎた。アマゾナ以外の仲間が全く見当たらない。嫌な予感がモルガンたちの脳裏をよぎった。


「他のみんなはどうした?」

「……みんなあいつにやられた」

「「「「「!」」」」」


 アマゾナが仲間たちの死を告げると、モルガンの両腕の握力が一気に強まった。


 それは仲間を殺された事による憎しみに他ならなかった。

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