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第145話「元王族の秘密」

 エメラが呆れ顔でゆっくりとローズに近づいた。


 ローズはそんなエメラを殺気に満ちた顔で睨みつけた。


「まさか裏切ったのか? ……この私を」

「私があなたを裏切ったのではありません。あなたが国を裏切ったのです」

「何故私を極秘に調べた? お嬢様……いや……姉さん」

「「「「「!」」」」」


 周囲がまたしてもざわめいた。ローズはエメラの妹だったのだ。


 顔はあまり似ていないが素振りはよく似ている。


 これは2人にとって大きな秘密だった。だが意図せず姉と敵対し、窮地に追いやられた以上、もはやこれを隠す意味がなくなってしまった。


「姉さんってどういう事だよ?」

「詳しい事情は後で。ローズ、わたくしはあなただけでなく、他の大臣派の皆さんも極秘に調べさせていただきました。私は10年ほど前から女王陛下の命で皆さんの活動を監視していました」

「女王陛下の命だと。じゃあ……姉さんは」

「お察しの通り、最初から派閥などなかったのです。わたくしが女王陛下の敵役となる事で、アモルファスを陥れようとしている裏切り者を炙り出そうとしていたのです。そしてそれがあなただった。もっと後になってから弾劾を実行に移す予定でしたが、その前にルビアンが証拠を掴んでくれたおかげで予定が早まったのです」

「クソッ! もう少しで政権を取れると思ったのにっ!」

「――連れていきなさい」

「はい、お嬢様」

「……」


 ローズは魂が抜けたかのような表情で肩を落とした。


 しかしすぐにエメラの使いの者に魔力を遮断する魔封じの手錠をかけられ、魔法を使えなくしてから2人の使いの者がローズの両肩を持ち、そのまま彼女を連れて去っていった。


 ずっと国を裏切っていた敵の呆気ない逮捕をルビアンたちが見届ける。


 エメラはそんなローズの姿をしっかりと目に焼きつけながらも悲しそうな顔になると、左手で右手を掴みながら気まずそうな顔でルビアンの顔を見た。


「お2人には事情を説明したほうが良さそうですね」


 エメラはルビアンとアンに次々と事情を話し始めた。


 アモルファス王国はディアマンテの代になってからというもの、かつての文明を復興させるために多くの資金を調達しようとしていた。そのためには国内を豊作にし、ジルコニアとの関係を改善するために関税を下げる必要があった。


 しかし国内は豊作になるばかりか、どんなに手を尽くしても何者かに調整されているかの如く豊作にならなくなってしまい、それによってジルコニアからの輸入品に対する関税を上げる破目になり、結果としてジルコニアとの戦争を招く口実となってしまった。


 そればかりか文明の発展に充てられるはずだった資金が思うように集まらず、計算上集まるはずだった資金よりも明らかに少なかった。


 これを見た女王ディアマンテは内側に裏切り者がいる事を確信する。


 そのため彼女は裏切り者を炙り出そうと()()()()()()()()に自らの対抗馬となる派閥を作らせ、対抗派閥に所属した者を徹底的に監視し、資金の流れを極秘に調査する事にしたのだ。


 だがいつもあと一歩のところで証拠を揉み消され、決定的な証拠を掴めずにいた。


「ルビアン、今こそ話しましょう。私の家の真実を。ローズは私の腹違いの妹、つまり異母姉妹です。私がそれを知ったのは宮殿へ戻ってからでした」

「確かあなたの家は先代国王から王族権を奪われ、流刑に処されたと聞いていましたが、その件の事だったのですね」

「ええ、そうです。父は妻もでない女性を、それも……既に他の男性との結婚が決まっている女性を襲ったのです。そしてローズが生まれ、秘密裏に相手の家の子供として育てられていたのです。宮殿の隠し部屋にあった大伯父の黙示録に全て書かれていました」

「つまり女を襲ったにもかかわらず、それを黙っていたから捕まったって事か」

「アモルファスでは、他の家の既婚者を襲うのは重罪にあたる行いです。それが王国民のお手本であるべき王族がやらかしたのですから――」


 エメラは押し黙った。異母姉妹とはいえ、実の妹が裏切り者の筆頭である事を知った時は涙でベッドを濡らしていた。


 実のところ、証拠は少し前におさえていた。あとは証拠を突きつけるタイミングを図っていた。


 エメラは最後の最後まで時間を稼ぎ、ローズの改心の可能性に賭けていた。だがそれも見事に裏切られたのだ。ルビアンたちの食堂の畑に対する放火によって。


 ローズは成人した頃にこの秘密を明かされ、血の繋がりのない者という理由で家督を継げなかった。家を継げなければ財産は没収され、名字を変えなくてはならないのだ。彼女はその事を理由に王国を酷く恨んでいた。


「俺たちはずっとお前らの手の上で踊らされてたってわけか」

「この事態になった今、女王陛下はローズだけでなく、彼女に協力した者全てを逮捕するでしょうね。もっとも、タンザとゾイスは裏切り者を見つけるきっかけになりましたから、あの2人は不起訴にするようわたくしから伝えておきます」

「ありがとな、エメラ」


 ルビアンがエメラの名前を呼び礼を言うと、エメラはもうこの言葉を聞く事はないのだろうと思い、悲しみに満ちた顔になる。


 この弾劾はエメラをも危機へと追いやる諸刃の剣だ。エメラもそれは重々分かっていた。


「……わたくしも裏切り者の姉です。きっとわたくしも罰を受けるでしょう。今まで10年以上にわたってローズがしてきた行いを考えれば、死刑は免れないでしょうね」

「そっ、それどういう事だよ!?」

「ルビアン、誰かが重罪を犯せば、その家族も監督責任放棄罪で同等の罰を受ける。ローズはエメラお嬢様を道連れにするために家の秘密を暴露したんだ。恐らく裁判でも同じ事を言うだろうな」

「じゃあお前、道連れにされるのを分かってて弾劾したのか!?」

「……全ては王国のためです。国の発展に犠牲はつきものですから」


 エメラはそう言いながら涙を流した。国に貢献して死ねるなら本望だと目が言っている。


「馬鹿言ってんじゃねえよ! 何の罪もない奴を裁くなんてありえねえ。エメラはこの国の発展に必要な人間だ。国がお前を裁くってんなら、俺が絶対にお前を守ってやる!」

「!」


 エメラは顔を赤らめた。彼女はルビアンをまともに直視できない。アンはこの言葉に安心さえ覚えている。


 彼の迫真に満ちた顔はエメラには眩しすぎた。

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読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう事情であったなら、女王もエメラに対して何かしら救済措置を施すでしょう。 こういう時に特例を通せるからこそ、王権の意味があるわけですし。 それにしても、いくら政権獲りたいからって、国…
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