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第141話「静かな対立」

 大臣の親衛隊の1人が一向に怯まないルビアンを睨みつけながら歩み寄る。


「別に誰だろうと言う事は変わんねえよ。邪魔してんのは事実だろ」


 ルビアンも負けじと親衛隊の1人に歩み寄り堂々と言い返した。


 彼の名はチャロ・アイト。大臣派に属する大臣親衛隊の隊長にして元討伐隊の隊長としての経験もある誇り高き凄腕の剣士だ。


 その刀のような長剣は俊敏さと威力を併せ持ちながら盾に変形する性質を持ち、敵味方の両方から恐れられている。


 攻める時は長剣を構えて物理攻撃と走力が高い状態となり、守る時は長剣が丸く開いた状態の盾を構えて物理防御と魔法防御が高い状態となるが、魔法攻撃だけは不得手であり、それ故遠距離攻撃は使いこなせない。


 親衛隊の者たちは均一ではないが様々な剣や防具を装備している。大臣たちの防衛の他、現場の管理まで任されている何でも屋だ。討伐隊出身の者が多く、どれも剣術に優れている者ばかりである。


 剣のように真っ直ぐで融通の利かない性格、盾のように堅い意志の持ち主である事からも、同様の性格を持つルビアンと対立するのは無理もない話だ。


「貴様、そんなに死にたいか?」

「やれるもんならやってみろよ」

「黙って聞いていれば、この成り上がり風情がっ!」


 髭を蓄えた中年のような顔で鋭い眼をしたチャロが長剣を素早く鞘から抜くと、そのままルビアンを一刀をくらわせる。その剣にはルビアンの血がついていたが、驚いているのは親衛隊の1人の方だった。


「「「「「!」」」」」


 斬られた瞬間にルビアンの体からは血が出たが、すぐに傷が塞がっていく。


「今何かしたか?」


 彼は痛がるどころかニヤリと笑い、挑発とも受け取れる一言でチャロを煽り、全く怯まない様子でゆっくりと歩み寄る。


「くっ、化物めっ!」


 チャロがまたルビアンに切りかかると、今度はそれを両手で受け止めた。


「チャロ、やめなさい」


 エメラがチャロの後ろから話しかけ制止する。


「お嬢様、奴は我らを侮辱したのですぞ。このまま放っておくわけには」

「いくらあなたでもすぐに回復し続ける彼を何度斬ったところで埒が明きません。しかし、痛みは感じないのですね」

「鎮痛の魔法と瞬間回復の魔法を合わせた鎮痛瞬間回復魔法を使ってるからな。俺も回復限定で合体魔法を使える事が分かったからよ、それからはいつもこの合体魔法を常態化してるってわけだ」


 この説明に周囲がざわめき驚いている様子だ。


 そもそも合体魔法自体なかなか使えるものではない。


 それを涼しい顔で使いながら何度でも攻撃を受けてみせると言わんばかりの態度に周囲はすっかり呆れかえっている。


「いつどんな攻撃を受けても痛みを感じず、すぐに回復ができる仕様か。なかなか恐ろしい組み合わせの合体魔法を使える回復担当(ヒーラー)がいたもんだ」

「クリスター様、何故こちらに?」

「俺たちがここにいるのがそんなにおかしいか?」

「い、いえ……」


 チャロの前に現れたのは国王派のクリスターだった。その後ろにはディアマンテ、トルマの2人が佇んでいる。


「一体何の騒ぎだ?」

「おっ、ちょうど良かった。こいつらが邪魔してくるから困ってたんだよ」

「ふむ、では理由を聞こうか。お前たちは作業に戻れ。少なくとも中止命令を出した覚えはないぞ」

「そうこなくっちゃな」


 ルビアンは安心しきった顔で作業へと戻っていく。


 ディアマンテを始めとした国王派はクリソや大臣派に対して事情聴取を行い、エックス計画についての詳細までを述べている。


 ディアマンテとしては、このエックス計画が完了するまでは文明復興どころではない。


 故に一刻も早い計画の遂行を望んでいる。大臣派がそれを邪魔する事も見越して。


「このような抽出効率の悪いものに国家予算を長期間投じるおつもりですか?」

「今はこの方法で地道に解決する他はあるまい。もし他に有効な案があると言うなら聞くが、こうしている間にも、世界各地ではこの毒素のせいで農作物の減少やモンスターの活発化が進んでおる。サマリアンの一件も、この毒素によるジャガイモの不作が起因となっておる。それに、ルビアンならきっと何とかしてくれるはずだ」

「――でしたら、この件は女王陛下の責任で行うという事でよろしいですね?」

「ああ、そのつもりだ」


 ディアマンテとエメラが互いに見つめ合った。ディアマンテは優しそうな目で彼女を憂い、エメラは厳しい目で女王の心境を探っているようだ。


 エメラはディアマンテに対して心を閉ざしている様子だ。


 たとえ世のためであっても、実行者がディアマンテであるというだけで反対しているようにルビアンには見えた。


「エメラ、ちょっと良いか?」

「どうしたのですか?」

「ちょっと来てくれ」


 ルビアンがエメラを呼び止め、人気のないところまで行こうと彼が歩き出すと、エメラも彼に続いて歩きだした。


 エメラは彼の後ろ姿を直視できない。


 2人きりになろうとしている事が直感的に分かった。


 彼を少なからず異性として意識しているエメラとしては、何を聞かれるかを考えただけ鼓動が高鳴った。だが宰相という立場上、それを表に出してはならない。


「ルビアン、一体何の話がしたいのですか? エックス計画の件でしたら、不備が見つかるか別の案が通るまでの間は実行を認める事で収まりましたよ」

「そうじゃねえよ。もっと肝心な事だ」

「この件よりも肝心な事があると?」

「ああ、素朴な疑問なんだけどよ――何でディアと仲が悪いんだ?」

「!」


 さっきまで冷静な表情を崩さなかったエメラが一瞬驚いた後、シュンと落ち込みながらルビアンの姿をやっと直視する。


 ルビアンは壁にもたれながらエメラの口が開くのを待った。

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読んでいただきありがとうございます。

チャロ・アイト(CV:上田燿司)

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