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第14話「絶たれた渡航便」

 ルビアンたちがジルコニア本土まで行くのは初めてである。


 故に瞬間移動は使えず、一度船を使って海を渡る必要があった。


 ルビアンとガーネは昼過ぎに王都の港から出発しようとしたが、アモルファスとジルコニアが貿易摩擦を起こしている影響でジルコニア行きの船がない。そこでガーネが1人のジルコニア人らしき人物を見つけると、彼女はその女に声をかけた。


「ちょっと良いですか?」

「はい。何でしょう?」


 透き通った顔の女がルビアンたちの方を向く。


 彼女の名前は高陵香(こうりょうかおり)、ショートヘアーで小さめのスラッとした体形が特徴であり、大人しい性格である。


「あなたはジルコニアから来た人ですか?」

「ええ。仕事で出稼ぎに来ています」

「私たち、ジルコニア行きの船を探してるんですけど、知りませんか?」

「――いえ、全く。私もしばらくしたらジルコニアへ戻りますけど、それまではずっと待ち続ける事になりますし、そもそもジルコニア行きの船は少し前に渡航便が途絶えたばかりですけど」

「時期が悪かったかー」

「お役に立てず申し訳ありません」


 香がそう言いながら頭を下げる。


「いえいえ、私たちこそ、つき合わせちゃってごめんね」

「せめて木材を加工できれば良いんですけど――」

「木材……それだよっ!」

「ルビアン、どうしたの?」


 ルビアンは香が台詞を言い終わる前に何かを思いついたように叫ぶ。


「もしかしたら行けるかもしれない」

「行けるかもしれない?」

「ああ。アイデアをくれてありがとな」

「いえいえ。えっと、私は高陵香です」

「私はガーネ・メラナイト。こっちはルビアン・コランダム。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします。私、普段はこの近くで働いているので、良ければ是非寄ってください。いつでもお待ちしております」

「分かった。じゃあ俺たち、用があるからもう行くわ。じゃあな」


 ルビアンがガーネの手を掴むと、瞬間移動でその場から消える。


「ルビアン・コランダム。ふふっ、その名前、憶えておきますね」


 しかしそれを知っていたかのように香は驚かないばかりか、何かを狙っているかのような笑みを浮かべている。


「ちょっとルビアン、いきなり消えたら香さんがビックリするじゃない」

「心配すんな。ジルコニアの連中だって魔法が使えるんだから、これくらいじゃ驚かねえよ」

「ていうかここ、サーペンの家じゃない。どうしてここに?」

「ガーネ、サーペンは確か、木材を加工する魔法が使えたはずだ。それなら木材で船が作れるかも」

「それはそうだけど、常連さんに悪いわ」

「サーペンもあのチャーハンが好きだから大丈夫だ。それに俺たちの給料がかかってる。手段なんて選んでられねえよ」


 ルビアンがサーペンの家の扉を叩く。


 3階以上の高さ、三角の屋根、数多くの窓、アモルファスでは一般的な家である。その周辺にある家も似たような建築であり、家の外観はカラフルな色彩が施されている。


「はーい」


 扉の向こうから声が聞こえると、すぐにその扉が開いた。


「あっ、ルビアンにガーネ、どうしたんだよ?」

「実は1つお願いがある」


 ルビアンたちはサーペンに事情を説明する。彼はすぐに理解するも、肝心の木材がない事に気づく。それを指摘されたルビアンは万策尽きたかのように頭が真っ白になる。


「――ルビアン、何固まってんの?」

「言われてみれば木材がないと無理だ。はぁ~、もう当分チャーハン食えねーかもなー」

「そうね。他の方法を考えましょ」


 ガーネが困った顔になっていると、サーペンはすっかりガーネを気に入っていたのか、どうしても助けてあげたいと思った。


「あっ、そうだ。エメラお嬢様にお願いしたらどうだ?」

「あー、あの偉そうな女だろ。何であいつなんだ?」

「あそこのお嬢様は次期王室候補のエスメラルド家だ。当然船なんて腐るほど持ってるはずだ」

「でも、こんな時に彼女が手を貸してくれるかしら?」

「心配するな。俺に考えがある。サーペン、一緒に来てくれ」

「えっ、俺? 分かった。ちょっと荷物まとめてくるから待ってろ」


 サーペンが支度を済ませると、ルビアンがガーネとサーペンの腕を掴み、エメラがいる部屋まで瞬間移動をする。


「きゃあっ! あなたたち、一体どうやってここへ?」


 エメラがいきなり目の前に現れたルビアンたちに驚く。


「瞬間移動だ。以前ここの大掃除に来た時に、エメラの部屋を覚えてたからさ、それですぐにここまで来る事ができたってわけ――」


 エメラがルビアンを拳で殴りつける。


「うわあああああっ!」


 ルビアンがエメラのパンチで吹っ飛ばされ、エメラの部屋の一部が壊れる。


「いってぇ――前にもこんな事あった気がする」


「あなた、自分が何をしているか分かってるんですか!? 住居侵入ですよ! そこの2人もです」

「申し訳ありませんでしたっ!」

「ごめんなさい。ご迷惑でしたらすぐに出ていきます。でも1つだけ、どうしても話を聞いていただきたいのです。お願いします」


 ガーネが頭を下げる。その間にルビアンが最初の位置に戻ってくる。


 エメラは健気な彼女の姿勢に感心したのか、もはや慌てている様子はない。ようやく冷静さを取り戻した彼女は用件を尋ねる。


「まあ良いですわ。ですが、わたくしはこれから大事な会議がありますので、話はできるだけ手短にお願いします」

「ありがとうございます。ルビアンも頭を下げて」

「あ、ありがとな。それと……いきなり現れて悪かったな」

「で? 用件は何ですの?」

「実はジルコニアから一切の産物を輸入できなくなっちまった。このままじゃ、最悪食堂が倒産するかもしれねえ。だから船を貸して欲しいんだ」

「まさか、それを使ってジルコニアまで行くつもりですか?」

「ああ、個人で産物を輸入するのは禁止されてないはずだ。だから――」

「お断りします」

「「「!」」」


 ルビアンたちはエメラの一言に一蹴され絶望的な顔になる。


 そこにはエメラが知る壮絶な理由があるのだった。

気に入っていただければブクマや評価をお願いします。

読んでいただきありがとうございます。

高陵香(CV:種崎敦美)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いくらなんでも国政に関わるレベルの貴族の私室に直接瞬間移動出来るのは防犯的に不味くないですかね? 瞬間移動が基本的な魔法とのことから諜報に暗殺何でもやりたい放題ですよ。
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