第135話「数奇な占い屋」
翡翠とサーファが入ったのは占い師のテントだった。
中には光の魔法が施された派手なシャンデリア、丸いテーブルの上に置かれている神秘的な力を放っている水晶がある。
「愛奈、早速で悪いが仕事を頼めるか?」
「ええ、良いわよ。うふふっ、可愛いぼうやだね」
色気のある声で返事をしたのは猫目愛奈という女性だ。
名前通り猫のような目をしており、黄色く短めの髪が特徴だ。全面的に細身で小柄であり、両腕を丸くしたまま両肘をテーブルについている。
その身軽そうな彼女にサーファは思わず子供なのかと思ってしまった。
愛奈の隣の床で座っているのがリンナエウスという人と同じくらいの大きさの猫型モンスターである。
4足歩行で小型から大型までの分類があるモンスターであり、最初から人に飼われているリンナエウスは人に懐くものの、野生のリンナエウスは凶暴で人を襲う事もあるため危険である。
「今あたしの事子供だって思ったでしょ?」
「外見だけはな」
「うふふっ、正直なのね。あなたが変身したい人なのかしら?」
「ああ、一応な」
サーファは思ったより冷静だった。小柄で子供っぽい体形には興味がないのだ。むしろ翡翠のようにスタイルの良い巨乳の女性が好みだ。
「あたしはここで占い師をやってる猫目愛奈っていうの。この子はうちで飼ってる猫のヤンシーよ」
「サーファ・サピロスだ。普段は王都の近くにある草原で牧畜をやってる。リンナエウスを飼ってるなんて珍しいな」
「あなたこそ、モータウルスを飼ってるなんて珍しいじゃない」
「よく分かったな」
「あたしは生まれつき嗅覚の魔法が常に作動しているの。おかげで外にはほとんど出られないわ。大衆の臭いがきついの。あなたの体から牧草と牛の臭いがするわ」
「あー、わりい。そこまで考えてなかった」
「別に良いわよ。普段はあたしのような変人に会う事なんてないでしょうから」
愛奈は何かを諦めたような顔で言った。
その様子にサーファは何かを感じたようだ。きっと身の毛がよだつような過去を持っているに違いないと心の中で断じた。
自分で自分を変人と言ってしまうくらいだ。普通に生きている人間が心底うらやましいのだろうとサーファは考えた。
愛奈のように生まれつき永続的に魔法が作動し続けて制御できずにいる人は稀に存在する。
この世界の人間は何かしら魔法が使えるのが当たり前だ。魔法を制御できない者、役に立つ魔法が使えない者は障害者と見なされている。彼女もまた、そのせいで謂れのない噂を流され、人生そのものに絶望している。
彼女は神秘の水晶を使う事で、かなり大雑把ではあるが自分や他人の未来が分かる。
そして変身の魔法が施された魔法薬、変身薬を作る技術を持ち、魔法薬の販売と占いによって生計を立てている。変身の魔法は変装の魔法とは違い、外見から声までもが完璧に変わってしまう。
「私はそろそろ食堂に戻るわ。後はよろしく」
「ああ、分かったよ」
翡翠がテントから出ると、駆け足で食堂がある方向へと戻っていく。
「――さて、依頼通り作っておいたわよ。この変身薬を飲んでから自分が最初に見た人物に変身する事ができるわ。間違えたらもう一度飲み直して。効き目は最後に飲んだものから数えて1日よ」
「お、おう。ありがとな。これいくらするんだ?」
「代金はもう貰っているから結構よ。ねえ、ついでに占いやっていかない?」
「占いねぇ~」
サーファはオカルトに対しては懐疑的であった。
1回で5ラピスか。まっ、人生に一度くらいは占いとやらを経験しても良いかもな。
「分かった。じゃあ1回だけ頼もうかな」
「うふふっ、すぐに終わるわ。じゃあ始めるわね」
愛奈はサーファの手を左手で取ると、神秘の水晶に右手で触り掲げ目を瞑りながら大雑把に未来を感じ取っていく。
「ふーん、性格は単純で不器用、最も得意なのは回復で戦闘能力は二の次、ほとんど同類の仲間がいて、かなり信頼し合っている。だから助けたいわけね」
「誰が単純で不器用だって?」
「気にしないで。あたしは結構好きだから。好きな人と一緒に遊戯場で遊ぶと進展があるかも」
「本当かっ!?」
サーファが真剣な表情で身を乗り出し、愛奈に事実確認をする。
「ええ、でもそのためにはあなたが身を切る必要があるみたいよ」
未来を見通せるとはいえ、依頼主が占いが示したものと同じルートを辿らなければならず、その未来に辿り着く事はなくなり、そこにどのような事実が待っているかは彼女にも分からない。
そこはあくまでも直感頼みだ。サーファはますます不信感を持ったが、本当にそんな未来が訪れるのかを確認したくして仕方がない。
だが今は任務の途中だ。真相が分からないままモヤモヤするが、彼は食堂のためというよりは翡翠のために任務を優先する事に。
「ありがとな。この変身薬、大事に使わせてもらうよ」
「まいどあり。また来てくれると嬉しいわ」
「占いが当たったら考えてやるよ。じゃあな」
サーファがテントから飛び出そうと入り口に手をかけたその時――。
「噂の発信源、特定できると良いわね」
「……そうだな」
彼はそう言ってテントを飛び出し、再び王都の街中へと繰り出した。
「あたしも噂で人生を翻弄された身、彼には報われてほしいわね。ねっ、ヤンシー」
愛奈がヤンシーに話しかけると、ヤンシーは愛奈にこたえるようにすり寄った。
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猫目愛奈(CV:椎名へきる)




