第132話「大胆な賭け」
アルカディアのアジトに10人の歴代最強と呼ばれたメンバーが勢揃いだ。
理由は他でもない。大臣派であるエメラ、ローズ、アレクの3人がアジトに顔を揃え、重大な話をしている最中だからだ。その場にいる全員が目をギラギラさせながら真剣にエメラの話を聞いている。
「――それは本当ですか?」
モルガンが恐る恐る口を開いて言った。
「ええ、本当です。ジルコニアに上級ドラゴンが出現したのです。その名もエンマリュウ。あまりの凶悪さと威厳から神の名をつけられたそうです。以前はジルコニアにある冥府の祠と呼ばれる洞窟で眠っていたそうですが、何らかの原因で起きてしまったそうです」
「エンマリュウ――聞いた事がある」
「モルガン、知ってるのか?」
「ああ、奴は上級ドラゴンの中でもヒュドラーに匹敵する力を持った最上位ドラゴンだ。あのヘルドラゴをも凌ぐ力を持ち、その目は見た者の動きを封じ、その爪は切り裂いた者を呪い、その炎は浴びた者を焼き尽くすという恐ろしい存在だ」
「古代ジルコニアでは死者の魂を導く存在とも言われていたそうです」
エンマリュウにまつわる数多くの伝説を聞いたメンバーたちは終始強気であった。
彼女らはヘルドラゴにさえ苦戦していた自分たちに倒せるのだろうかと恐怖するかと思いきや、むしろエンマリュウを倒す気満々であり、エメラたちはその様子を冷静な顔で見つめている。
大臣派は国王派の功績に対抗しようとついに切り札を使う事になったのだ。
その切り札とは、最強パーティの実力をもってエンマリュウを倒し、その功績によってエメラの次期国王にしてもらおうというものだった。
無論、アルカディアが受ける恩恵も大きく、歴代最強パーティとしてその名を後世に残す事ができ、討伐隊にとって最も重要視されている名誉を確固たるものとする事ができる。これはモルガンたちにとっても大きなチャンスである。
アルカディアは4年前のヘルドラゴとの引き分けからは全戦全勝であり、現代最強パーティの名を欲しいままにしていた。
「あなた方がエンマリュウを倒せば、最上級ドラゴンを倒せるようなパーティに目をつけて育て上げたエメラ様の名は全国に轟き、間違いなく次期国王に選ばれる事でしょう」
ローズがエメラを強調するように言った。
彼女はアレクを国王にする事を諦めていたわけではない。より人気の高いエメラを中継ぎの国王とし、即位させてからアレクを国王にする算段である。この計画を成立させるためには何としてでもアルカディアに成功してもらうしかなかった。
これは大臣派の面々にとって重大なる任務であった。
それだけに彼女らのアルカディアに対する期待は大きい。
「望むものを可能な限り与えましょう。職人たちにも最高の武器やアイテムを作るように発注をしているところです」
「エメラお嬢様のご厚意、誠に感謝します。謹んでこのクエストを攻略してみせましょう。我々にお任せください」
モルガンは片膝をつき、エメラの前へと跪いた。
その後に続くように他のメンバーたちもエメラの前に跪く。次期国王の候補として、この賭けに負けるわけにはいかなかった。
彼女らはクエストを受けると、その準備に追われながらも食堂へと向かった。
モルガン、オニキ、スピネの3人が食堂の周囲に陣取った。残りのメンバーには遠征用の武器の調達を任せた。
「食堂はまだ潰れていないようだな」
「あいつらが移民に恩を売っていた理由が分かったぜ。自分たちの食堂が危うくなった時の保険だ。奴らは移民たちに飯を食わせてもらっている状態だ」
「敵だった国の人間に養ってもらってるなんて情けないわね」
ルビアン、今に私が助けてやるぞ。そんな情けない生活を続ける事は私の良心が許さない。
「オニキ、噂はもう流したか?」
「ああ、ばっちりだ。明日にはもう身動きが取れねえようになる」
食堂が潰れたら、後はルビアンがうちのハウスキーパーに志願するのを待つだけだ。うちの方がずっと待遇が良いんだ。その方がルビアンにとってもずっと幸せに決まっている。
モルガンは妄想を巡らせながらクスクスと笑っている。
彼女の部屋には最高の絵師に書かせたルビアンの絵画がいくつも壁に設置されており、それが彼女のルビアンに対する依存をより一層強めている。
それほどにまで彼が愛おしく、待っている事さえ苦痛である様子だ。
全てはルビアンを愛するが故の行動だった――。
「そこで何をしている?」
「「「!」」」
彼女たちの後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
アンがモルガンたちに気づき、彼女たちからは気づかれぬよう後ろに回り話しかけた。
「何でもない。私たちが王都の街中を闊歩して悪いか?」
「私にはずっとここにいたように見えたが。どうせまたルビアンを見ていたんだろう。いい加減に諦めたらどうだ?」
「余計なお世話だ。私はガーネとは比べ物にならないほどルビアンを愛している。お前たちはルビアンを良からぬ方向へ導こうとする邪魔者でしかない。今すぐルビアンから離れろっ!」
「それは無理な相談だ。私もカーネリアもルビアンと結婚したからな」
「なん……だと」
モルガンは目を大きく見開き、両腕はプルプルと震え、既に理性など吹っ飛んだ状態であった。アンは呆れながら後ろを向いて去ろうとすると、彼女の憎しみがアンへと向いた。
「この、泥棒猫がっ!」
モルガンが聖剣を鞘から抜こうとしたその時――。
「うっ!」
彼女が聖剣に手をかけた途端にアンが聖槍を出現させ、その矛先をモルガンの首に突きつけた。
武器を手にしてから相手に突きつけるまでのスピードが桁違いだ。モルガンはたまらず聖剣からゆっくりと手を離した。
「人に武器を突きつけても良いのは、殺される覚悟のある奴だけだ。今回は見逃してやるが、次はお前の首を飛ばす」
アンが怖い顔で言った。彼女は食堂へスタスタと戻っていくとモルガンは肩を落とし、力の差を思い知ったような顔でしばらく静止していた。
オニキとスピネはアンを目の敵にし、モルガンを心配するのだった。
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