第131話「罪悪感からの解放」
新章の始まりです。
パーティ追放7年目の話となっております。
パーティ追放から7年後――。
サマリアンの騒動から4年の月日が流れた。
食堂は隣の畑から採れる作物やジルコニア街の人々の支援によって支えられ、最悪の状態から徐々に息を吹き返しつつあった。
ガーネとの間には2人の子供が生まれ、1人目はルビアンにそっくりな男の子、2人目はガーネにそっくりな女の子だ。ルビアンもガーネも2人の子供を可愛がり、食堂のメンバーが総出で育てていた。
ルビアンは献身的に支え続けてくれたカーネリア、世の中を変えようと共闘してくれたアンとも結婚する事となり、2人の間にも愛が芽生えていた。
ガーネはそんなルビアンに悪態をつく事もなく、自然な形で受け入れていった。
「加里はチャーハンとラーメン、翡翠はカルボナーラとマルゲリータをお願い」
「分かった」
「了解した」
食堂の厨房は大忙しだ。あの食中毒事件以来、ジルコニア街の者たちが食堂の名誉を回復しようと毎日のように通い続けた事で、食堂は徐々にその信用を取り戻していった。
「ここにきてもう6年か、長いようで短かったな」
「せやな」
加里と翡翠の2人は共に生き抜いた6年を語っていた。
かつては王国の脅威として、今は食堂の料理番としての顔を持つ2人にも思うところはある。特にルビアンが真っ先に自分たちを受け入れてくれた事に対しては感謝と共に罪悪感もあった。
家族を失った事を思えば、自分たちも相当な罰を受けているはずだ。
そう思う彼女らではあったが、心の内では複雑な想いを巡らせている。
1つ確かなのは、自分たちが一生ルビアンのため、食堂の料理番であり続ける事だ。彼女らの料理の腕は絶品であり、グロッシュやペリードをも超えかねないほどであった。
「うちら、ホンマに受け入れられてるんかな?」
「加里、私たちは受け入れられていようとそうでなかろうと、私たちに居場所を与えてくれたルビアンに誠心誠意を尽くす義務があるのよ」
「せやな。こんな事――考えるだけ無駄かもしれへんな」
「分かったら口じゃなく手を動かす」
「はいはい」
2人はひたすら己の気持ちに蓋をし、淡々と食堂に貢献するしかなかった。
そんな2人の気持ちにカーネリアだけは気づいていた。
加里も翡翠も戦争が終わってからはまるで遠慮しているかのようにあまり笑顔を見せなかった。
すぐに感情を表に出す加里、いつもは無表情で冷静さのある翡翠の姿に、カーネリアは自分とアンの姿を重ねていた。
自分自身を見失い、料理を作る機械と化している2人にカーネリアは気が気でない。
それもそのはず、2人は過去を捨てきれていないのだ。
「2人共、ちょっと良いか?」
カーネリアが加里と翡翠を呼んだ。
「どないしたん?」
「それはこっちの台詞だ。今日は2人共ずっと無表情だったぞ」
「気にするな。いつもの事だ」
「まだ過去にしがみついているのか?」
「「……」」
図星を突かれた2人は自室のベッドに座ったまま黙ってしまった。
「実はな、私にも辛い過去がある」
カーネリアは2人に自らが討伐隊にいた頃の出来事を話した。
彼女が持つ全体攻撃は敵全員どころか近くにいる味方をも巻き込んでしまう諸刃の剣であり、その全体攻撃のためにパーティのエースを負傷させて引退させてしまい、討伐隊を追放された上に多額の賠償金を請求された話をした。
「じゃあ、無事に賠償金を払い終えたんか?」
「ああ、お前たちとの戦争で得た褒美を賠償金に充ててな、それで無事に全額払う事ができた。お前たちのおかげとは言わないが、あれからあいつに会っても一切遠慮はしなくなった」
「「!」」
カーネリアはいつまでも過去に囚われる必要はない事を2人に伝えた。
「でもうちらは――取り返しのつかへん事をしてもうた。せやから一生罪を背負っていく覚悟や」
「私も同意見よ。自分のした事の責任は最後まで取るつもり。今さら自由が欲しいとは言わない」
「お前たちはもう十分すぎるほど罪を償った。女王陛下から課せられた王都修繕の義務は果たしたし、何より食堂の料理番として貢献してくれている。ジルコニアのみんなとの仲を取り持ってくれたし、お前たちがいなければ、今の食堂はなかった。そうだろ、ガーネ?」
「「!」」
そばでずっと話を聞いていたガーネが部屋へと入ってくる。
ガーネは終始悲しそうな顔で下を向いていた。だがガーネは勇気を振り絞って心の内を明かした。
「ずっと苦しんできたのね。私が結論を言わなかったせいだわ。ごめんね」
「ガーネが謝る事はない。私たちにも責任がある」
「ならあなたたちの迷いを断ち切ってあげるわ」
「どっ、どういう事や?」
ガーネは深呼吸した後、再びその口を開いた。
「私はこの時をもって――あなたたち2人を許す」
「「!」」
加里と翡翠の顔が固まっている。
2人の目からは今までずっとため込んできた想いが溢れ出た。
「前にも言ったけど、これはあなたたちの上司の責任なのよ。今までご苦労様、あなたたちはもう自由の身よ。ずっとここにいても良いし、ジルコニアが恋しいなら戻っても良いわ」
「いや、うちはずっとここにいる」
「私もよ。あなたがいても良いと言うなら」
2人は同時にガーネに抱きつき啜り泣きをする。ようやく罪の意識から解放された事を確認できた2人は心底嬉しく感じた。
「もちろんよ。2人はもう家族同然なんだから」
「ガーネ、おおきに」
「ガーネ、ありがとう」
加里と翡翠はずっとガーネの胸を借りて泣きながらこの食堂に生涯尽くす事を誓った。
ルビアンたちも彼女らの光景を見て一件落着と言わんばかりの表情だ。
2人の涙はしばらくの間止まらなかった。
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