第122話「討伐隊からの挑戦状」
食堂の隣にある畑を作物でいっぱいにしようとルビアンは考えている。
食糧不足の問題は相変わらず続いており、レストランモンドは作物がサマリアン島から仕入れられなくなった事で値段が上がり、貴族以外の客があまり寄りつかない高級レストランと化してしまった。
より正確に言えば、高級レストランに戻ってしまったのだ。
そしてルビアンがナイトの称号の授与式を終え、食堂に戻ってきた時だった。
「ルビアン凄いじゃない! ナイトの称号なんて滅多に貰えない代物なのよ」
「ふーん、めっちゃええバッジやん。売ったらなんぼになるんやろ」
「加里、これは売り物じゃないのよ」
「冗談やってー。あはははっ!」
食堂の同僚たちがルビアンを褒め称え感心しながらもいつものように軽いノリで楽しく談笑している。ルビアンたちにとってこの時間はかけがえのないものだった。
ルビアンとアンが出かけている間、食堂は激辛ブームとなり、高級レストランにはまずできない激辛料理によって何とか持ちこたえていた。
そこに1人の男が入ってくる。
「随分と仲がよろしいようで」
「オニキかよ。なんか用か?」
「お前、モルガンと結婚する約束をしてたそうじゃねえか」
「そんなの昔の話だろ」
「幼馴染との約束破っちゃって良いのかなー。今近所中でお前の事が噂になってるぜ。結婚の約束をした相手を捨てて別の女とでき婚しちまったってなー」
「誰がその噂を広めた? お前か?」
「さあ、俺は何も知らねーよ。今までずっと調子こいてたツケが回ってきたんじゃねえか」
オニキがルビアンに近づき、ニヤニヤした顔で言った。
ルビアンはすぐに噂の出所がアルカディアであると確信した。だがその証拠はどこにもなく、捻じ曲がった噂だけが広がっていく一方であった。
「どうりで客が少ないわけだ」
「客はちゃんと良い店を選ぶからなー。ルビアン、お前はもう終わりだ」
オニキが最終通告をするように告げると、闊歩しながら食堂から去っていく。ルビアンは嫌な予感しかしなかった。
「なんやあいつ、ルビアンに嫌味を言うためだけに来たんかいな」
「アルカディアも落ちたものだな」
「だが何故あそこまで食堂を目の敵にするのか、理由が分からないな」
「……」
理由はもう分かっていた。モルガンには誰にも負けない執念深さがある事をルビアンは知っている。彼女は一度狙った獲物は必ず仕留めるまで追撃を続ける習慣がある。それは相手が人間でもモンスターでも関係なかった。
「ルビアン、何か知っているんじゃないか?」
カーネリアがルビアンに近づいて言った。彼が何かを知っている事を確信して。
彼がモルガンの幼馴染である事からもなおさらその疑念は強まった。
「――俺さ、男の友達は結構いるけど、女の友達は1人もいなかったんだ」
「それは自然な事じゃないのか?」
「ああ、俺も最初はそう思ってた。でも違ったんだ。俺と仲良くなれそうな女がみんな友達になる前に俺から離れていく現象が起きたんだよ」
「何も悪い事をしていないのにか?」
「ああ」
ルビアンのアルカディア時代初期から起こっていたこの奇妙な現象、原因すらも分からずに心の中がモヤモヤしていたルビアンは策を講じた。男友達を自分から離れていった女に接触させ、情報を探った。
そしてルビアンはその犯人を確信する。
モルガンが根も葉もないルビアンの良からぬ噂を広め、女子たちがルビアンから離れるように仕向けていた事が発覚したのだ。
最も信頼していたはずの仲間にそんな事をされていたと信じられなかったルビアンはモルガンを問い詰めたが、モルガンはしらをきるばかりか、みんなの前で泣いてみせたために他のメンバーたちから顰蹙を買う結果となってしまった。
「酷い話だな」
「あくまでも推測だけど、あいつがあんなマネをしたのは、俺を独占したかったからかもしれねえんだよ。もし今もあの時と同じ気持ちを持ち続けていたとしたら――」
「ガーネが危ないな」
ルビアンが予測した通りであれば、モルガンはルビアンを取り戻すために食堂を潰そうとしている事になる。だがそれだけは防ぎたかった。
ルビアンにとって食堂はただの職場ではない。家であり拠点であり大切な居場所でもあるからだ。
そして今は亡きグロッシュが確かに生きていた事を証明する証でもあった。
彼は何としてでもここを守りたかった。
「で、でも私が知っているモルガンはとても素直で明るくて社交的な人よ」
「ガーネはつき合いが浅いから分からねえと思うけど、あいつの本性は依存そのものだ。モルガンは何かに依存する事でしか精神を保てないところがある。例えば誰かへの愛情とかな」
「好きでもない相手からの愛情など迷惑でしかない」
「……」
アンのさり気ないこの言葉にカーネリアが緘黙する。
モルガンと同様に自分やアンの愛情がルビアンに迷惑をかけているのではないかと。
そう思っただけで以前のような愛情をルビアンに示す事が怖くなった。
「カーネリア、どうしたの?」
「いや、何でもない」
「?」
翡翠がきょとんとした顔でカーネリアを見つめている。カーネリアは逃げるようにバックヤードへと戻っていった。
こうしている間にもアルカディアの食堂倒産計画は続くのだった。
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