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第116話「作物輸送計画」

 ルビアンとエメラは攻撃が当たらないよう部屋の端に避けた。


 そして倉庫の扉に対し、瞬く間にアンの攻撃が炸裂する。


「フリーズボルト!」


 大きな音が鳴り響くと共に扉があった場所に大きな穴が開いた。


「2つの魔法の魔力を同時に使いこなすとは、さすがですね」

「お褒めに預かり光栄です」


 アンがペコリと頭を下げた。彼女は人から褒められる事が嬉しくてたまらない。表情には出さないものの、心底ではしっかりと喜んでいる。


「でもよく破壊できたよな。要塞の魔法は俺の解除の魔法でも時間がかかるってのに」

「フリーズボルトは相手の物理防御を無視できる貫通能力を持っている。いくら要塞の魔法と言えども関係のない話だ」


 アンは元から使えた炎の魔法と雷の魔法に加え、氷の魔法を習得した事で技の幅が広がり、合体魔法までもが多様化していた。ヒュドラーとの戦いで彼女は氷の魔法に目覚めたのだ。


 店舗のすぐ近くに倉庫があった事もあり、周囲は騒然となった。


「ルビアン、これで瞬間移動もできるようになったはずだ。お前はお嬢様と一緒に王都に戻って、女王陛下にこの事を伝えろ」

「アンはどうするんだよ?」

「私は総督に会ってくる」

「分かった。俺も用事を済ませたらすぐに戻る」

「ちょっと待ってください。勝手に予定を決めないでくださいます? 女王陛下とお会いして話すには手続きが必要なのです。それで会議が開かれて初めて発言権が生まれるのですよ」


 エメラが唐突な決定に異議を唱えた。彼女は宰相という立場上形式を踏まなければ動けない。だがそんなものはルビアンに関係なかった。


 思い立ったらすぐ行動がモットーなルビアンにとっては形式などどうでも良かった。かつて創成期のアルカディアにいた頃、ルビアンは何をするにも隊長の許可が必要であった。その事を思い出しながら彼はエメラの方を向いた。


「んな呑気な事言ってる場合かよっ! これは緊急案件だ。もしこのままサマリアン島からジャガイモが全部輸出されたら、大勢の餓死者が出る事になるんだぞ! お前は島民の命よりも手続きの方が大事だってのか?」

「……」


 ルビアンの言い分は事の本質を突いており、さすがのエメラでも反論はできなかった。


「お嬢様、これは一刻を争う事態です。縁都の外にある貧しい地域にも私の友人や親戚が住んでおります。どうか私からもお願いします」


 アンが頭を下げ、エメラは規律と人命を天秤に乗せた。


「――分かりました。ルビアン、くれぐれも粗相のないようにお願いしますよ」

「分かってるって。じゃあ早速行くか」


 ルビアンはエメラの腕を掴むと、そのまま女王の部屋へと瞬間移動するのだった。


 その頃、アルカディアはヘルドラゴを相手に休憩を挟みながらも死闘を繰り広げていた。


 どうにかヘルドラゴに怪我を負わせる事には成功したが、モルガンたちも疲労困憊であり、いつ体力が尽きても不思議ではなかった。


「スピネ、エンポーSをくれ」


 エンポーSとはエンペラーポーションスペシャルの略である。体力が完全回復するだけのエンポーの効果に加え、物理攻撃、魔法攻撃が上がる特注品であった。


「もうこれが最後よ。この攻撃で倒せなかったら引き返すしかないわ」

「何だと」

「他の上級ドラゴンはもっと早く倒せたというのにしぶとい奴だ。エンポーDはもう切れた。これで駄目ならここまでだ」


 エンポーDとはエンペラーポーションデラックスの略である。エンポーの効果に加え、魔法攻撃、魔法防御が上がる特注品だが、こっちの方が需要があるためかすぐに使い切ってしまっていた。


 モルガンが焦りの顔を隠し切れない。予想以上に強いヘルドラゴを前に彼女は恐怖と焦りでいっぱいであった。


 だがそれは他のメンバーも同じ事である。ルビアンがいた頃であれば回復から攻撃に転じているところではあるが、アイテムの個数という限界を抱えていたために持久力が下がっていたのだ。


 このままではエメラお嬢様に顔向けができない。


「おいっ! そこで何やってんだっ!」


 少し遠くから怒号が走ってくる。モルガンたちは声が聞こえた方向を見ると、そこには1人が怖い顔でモルガンたちを睨みつけている。


 彼女らが木を取られている隙に怪我を負ったヘルドラゴが巨木から立ち去っていく。


「モルガン、逃げたわよ」

「待てっ! お前らアルカディアの連中だな?」

「お前、確かどこかで」

「俺はディオ。コリンティアの元メンバーだよ」


 止めに入ろうとモルガンたちの前に立ちふさがったのはディオだった。彼はコリンティアが解散した後、討伐隊を引退して縁都に戻ってきたのだ。今では縁都民の1人として生活している。


「コリンティアの元メンバーが私たちに何の用だ?」

「お前らヘルドラゴを倒そうとしてただろ。ったくとんでもねえ事しやがって」

「私たちはギルドに張り出されていた依頼を受けただけだ。邪魔される謂れはない」

「はぁ? ギルドに張り出さていたぁ!? だとしたらそいつはデマだぜ」


 ディオは縁都の生まれという事もあってサマリアン島の事情に詳しかった。


 モルガンたちはしばらくの間、ディオの話を聞く事になるのであった。

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