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第110話「吐き出された想い」

 食堂の空気はモルガンの聖剣と加里の長槍によって凍りついている。


 モルガンは怒りを彼女にぶつける事しか考えられない状態であった。いつものように冷静なモルガンではなくなっており、ルビアンへの想いが暴走していた。


「モルガン、よせ。それ以上暴れると営業妨害だぞ」


 カーネリアがモルガンを止めようと説得を試みた。


 だが彼女の気持ちは収まらない。過去の屈辱に加え、戦いに次ぐ戦いに明け暮れた影響なのか、自分の感情さえコントロールできなくなっており、以前と比べて傲慢さが増しているようである。


 特にルビアンの事になると居ても立っても居られない。


 またしてもそんな気持ちが空回りするばかりであった。


「加里、私と決闘しろ」

「あんなー、うちと今やりあっても勝負にならんで。冷静さを欠いた剣士なんて、めぇ瞑ってても倒せるわ。確か遠征に行くんやろ? 怪我したまま遠征なんてシャレにもならんで」

「モルガン、落ち着けって。お前らしくもない」

「誰のせいだと思ってるんだっ!?」

「「「「「!」」」」」


 モルガンがルビアンに向かって泣きながら嘆いた。


 目からは大粒の波が流れ、彼女は剣を鞘へと納めた。


「私はっ――お前が好きだっ! ルビアン、私はお前と約束したはずだ。幼い頃、強くなったら結婚してくれるって。あの約束はどうなったんだ?」

「んなもん無効に決まってんだろ。わりーけど、俺は別にお前の事は好きじゃねえんだ。あの時だって、お前の押しが強いからその場しのぎで言っただけだよ」

「!」


 何だと……約束を反故にしようと言うのか?


 モルガンはそんな事を考えながら呆気に取られた顔になっている。


「それに俺はもう結婚してるんだからよ、俺の事は諦めてくれ。もっと相性の良いパートナーに出会えると良いな」


 ルビアンは後ろを向きながら捨て台詞を吐くと、逃げるようにバックヤードへと去っていった。


 モルガンは食堂にあるいくつかのメニューをやけ食いしている。いくら食べても満たされない。彼女が満たしたいのは空腹ではないからだ。彼女はもう無理やりにでもルビアンを手に入れる事でしか欲を満たす事ができなくなっていた。


 私は……ルビアンが欲しい――。


 モルガンはそう願いながらオニキの言葉を思い出す。


 ガーネよりも私の方が遥かに魅力のある女のはず、なのにルビアンは何故あの女を選んだ? 理解できない……そうか、分かったぞ。ルビアンはガーネに騙されているんだ。


 私と一緒に暮らした方が幸せな毎日を送る事ができる。欲しい物だって何でも買ってやれる。それなのにルビアンがガーネを選ぶはずがないんだ。


 この食堂で貧困生活に耐えながら看板娘と一緒に暮らす事の何がそんなに楽しいと言うんだ?


 ――食堂を潰す事で2人の中を引き裂けるなら、私は全力でこの食堂を潰してみせよう。ガーネには悪いがルビアンは私のものだ。今こそ幼馴染としてのけじめをつける時だ。


 ルビアン、お前は必ず私が救ってやる。それまで待っていろ。


「モルガン、どうしたの? こわーい顔して」


 ガーネが心配そうな顔でモルガンに近づき声をかけた。だがモルガンには煽りの言葉にしか聞こえなかった。


「ガーネ、本当にルビアンで良いのか?」

「どっ、どうしたの急に?」

「ちゃんと答えてくれ! 私にとってはこの世の終わりがかかっているほど重要な事なんだ! ルビアンとは小さい時に結婚の約束までしている。私が強くなったら結婚してくれると約束してくれた事をずっと覚えている。私はその約束を果たすために血の滲むような努力をしてきた。お前にそれが分かるのかっ!?」


 モルガンはガーネの両肩を両手で掴むと必死に自分とルビアンの結びつきを語った。ガーネは途中から憐みの表情でモルガンを見つめている。


 その声はバックヤードにいたルビアンにもしっかりと聞こえていた。


「……分からないわ」

「……だろうな」

「私はルビアンと結婚して良かったと思ってるわ」

「!」


 モルガンの脳裏に衝撃が走った。


「ルビアンはどんな時でも私や仲間たちの事を優先的に考えてくれたわ。彼は不器用だけど、本当はとっても良い人なの。これ以上ないって言えるくらいにねっ!」


 こいつっ! 何が何でもルビアンを渡さないつもりかっ!


 許さない――私からルビアンを奪ったこの女だけは絶対に許さないっ!


 お前のルビアンへの想い、食堂と共に潰させてもらうっ!


 モルガンは行き場のない怒りや憎しみを内に秘めながらお代を置いて食堂を立ち去った。食堂内はまるで嵐が過ぎ去ったかのように全員がホッと胸をなで下ろした。


「ふぅ、やっと立ち去ったか」

「ルビアン、お前本当に厄介な奴に目をつけられたな」

「ああ、全くだぜ。俺にとっちゃただの幼馴染だってのに、あんな事言われても困るっつーの。それに俺を追放しておいてあんなに依存されても気持ち悪いだけだ」

「パーティを追放された事、まだ根に持ってるのか?」

「ああ、そうだよ。良い仲間だと思ってたのに、他の奴の言う事を真に受けやがって。もうあいつらがどうなろうと知ったこっちゃねえよ」


 ルビアンは徹底してアルカディアの面々を無視しようと決め込んでいた。


 追放されなければモルガンからの求婚に応じていたかもしれないと一瞬思ってしまったが、すぐに自分が思った事を忘れようとした。


 この日の夜はうまく寝つけないルビアンであった。

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読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーあー泥沼ですなこりゃ。 ルビアンとモルガンの認識の差異がモロに出た感じですね。 モルガンは追放によるルビアンの怒りを認識は出来ていても、それが取り返しのつかないものだとは理解してないから…
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