第11話「新たな生活の始まり」
第2章の始まりです。
お楽しみください。
翌日、ルビアンは早速レストランカラットで働き始める。
彼の担当は食材の仕入れと管理の担当である。
ルビアンが就職した事により、食材は彼の魔法でいつでも新鮮な状態に戻せる。これによって仕入れた食材を無駄なく使いきれる。この鮮度の魔法を使えるのは王都ではルビアンだけであった。
それもあって食堂は廃棄コストがないと言える状態になっていた。
ルビアンは瞬間移動の魔法をガーネから教わり、一度行った場所であればすぐに行けるようになっていたが、ガーネは習得の速さに驚いている様子。
魔法の適性は生まれた時に決まるが、努力次第で他の分野の魔法も使えるようになる。だがどの魔法にも適性があるため、その習得範囲は人によりけりである。ルビアンは瞬間移動こそ習得できたものの、ガーネのようにあらゆる移動魔法を習得する事はできなかった。
パーティ追放から1ヵ月後――。
「もう瞬間移動はすっかり身につけたみたいね」
「ああ、俺の適性に合ってたからすぐに習得できた。それにガーネの教え方が上手かったからだよ。ありがとな」
「べっ、別にっ、あなたのために教えたわけじゃないわ! ただ、その方が店の利益になると思っただけだから。それだけよ」
ガーネは顔を赤らめながらそっぽを向いた。褒められる事には慣れていない。だがルビアンにとっては可愛い仕草でしかなかった。
「それでも――な」
「ル、ルビアンもありがとう。おかげで仕入れた食材が全部無駄にならなくて済んだわ。私、いつも思うの、賞味期限を過ぎて廃棄処分をするたんびに、もったいないなぁって」
「ガーネは優しいな。まあそれだったら、仕入れる量を抑えれば済むと思うけどな」
「簡単に言うけどさー、いちいち売り切れになってたら商売にならないの。だから利益率を考えても在庫切れにならないようにした方がお得なのよ」
「へぇ~」
ルビアンがガーネの説明にゆっくり頭を縦に振りながら感心する。
実のところ、ルビアンは商売などした事がなく、モンスターから採ったアイテムを売っていただけであるため、交渉はできても利益まで考えた商売はできない。
ルビアンたちがいるのは王都の郊外であり、外から調達を終えて帰るところであった。2人はそのままレストランカラットへ帰ろうとしていた。
その時だった――。
「きゃあああああぁぁぁぁぁ!」
肉眼で目視できる程度の少し離れた距離から悲鳴が聞こえると、ルビアンとガーネはすぐに目線を悲鳴が聞こえた方向へと向ける。
「ガーネ、そこにいてくれ」
「うん」
ルビアンが見たのは人よりも少し大きめなフェンリルだった。
フェンリルは王都の外でよく見る野生のモンスターである。普段は大人しく、人を襲うような事はあまりないが、怒ると猛スピードで噛みついてくる曲者である。
その嗅覚の強さを買われ、警察犬として使われる事もある身近なモンスターでもある。
その4足歩行にして迫力ある漆黒の姿は目の前にいる少女を震え上がらせ、今にもその鋭い牙でかぶりつきそうな勢いであった。
「おーい、こっちだ!」
フェンリルがルビアンの方を向き、少しずつ彼に近寄ってくる。
ルビアンはすぐに違和感を持った。普段は群れで暮らし、怒らせなければ安全なはずのフェンリルが人を積極的に襲っている姿に対して。だがそんな事も言っていられない。フェンリルと1人で対決すればただでは済まない。だが逃げれば少女を見殺しにする事になる。
この世界の人々は成人であれば全員が武器を携帯している。いつモンスターと遭遇しても全く不思議ではないからだ。
ルビアンは腰につけていた鞘から久々に剣を抜き、その先端をフェンリルへと向ける。フェンリルも敵意を感じ取ったのか、もはや少女には目もくれなかった。
少女はビビったまま足が石になったかのようにそこから一歩も動かない。いや、正確に言えば動けないのだ。少しでも刺激すれば襲ってくる可能性が一気に上がりかねない。少女にはモンスターの知識はなかったが、その危機を本能で感じ取っていた。
フェンリルが威嚇をしてから真っ直ぐ突っ込んでくる。だがルビアンは怯まない。しかし思った以上にフェンリルの動きが素早かったのか、彼は反撃を中止するとともに剣を横に構える。
フェンリルがルビアンが持っている剣に噛みつき、ルビアンは両手で剣を押さえている。
「ぐうううううっ! こいつっ、思ったより力がつええじゃねえか! おいっ、今の内に逃げろっ! 早くっ!」
「あ、あわわ……」
ルビアンは時間稼ぎをするが、少女は足がすくんで動けない。近くには住宅もある。このまま放っておくのも危険だが、最も危機に立たされているのはルビアンだった。
くそっ、このままじゃこっちの身が持たねえ。何とかしねえと。
「ルビアンから離れなさいっ!」
フェンリルが横からの強い衝撃に倒れる。ガーネがフェンリルの横から瞬間移動を利用した強力なキックをくらわせていた。そして彼女は片手を地面に着きながら着地する。
「今だっ! これでもくらえっ!」
ルビアンが黒く丸いフラムという爆弾を使い、それを思いっきりフェンリルに向かって勢いよく放り投げた。フラムは討伐隊の間でよく使われている最もポピュラーなアイテムであり、非アタッカーでも強烈な威力を出したり、道を開いたりする時に使われる。
フラムがフェンリルに直撃した瞬間大爆発を起こし、フェンリルは爆死する。フラムには攻撃魔法の1つ、爆破の魔法が込められている。人間が攻撃魔法として使った場合、チャージが必要な上に後隙も大きい代わりに大ダメージを与える事ができる。
少し時間が経ってもピクリとも動かない。フェンリルの死亡を確認すると、ルビアンたちは安心する。
「ふうっ、もう大丈夫だ」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……ありがとう」
少女はガーネに抱きつき、涙目になりながらもお礼の言葉を述べ、心からの安心を覚えた。少女はガーネの方に懐いていた。
ふと、ルビアンは横たわったまま動かないフェンリルを見つめるのだった。
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