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第106話「依存する幼馴染」

 その頃、ルビアンは女王の部屋でディアマンテと2人きりであった。


 彼女が頭にかぶっている古代の王冠の正面には始祖の宝珠がピッタリとはまっており、ジルコニアとの戦争に決着をつけた事で彼女の権威はさらに高まっていた。


 女王の部屋はもちろんの事、宮殿は優先的に修繕された事もあってすっかりと元通りになっており、大臣派の人間もしばらくは国王派に逆らえなくなっている。


 ――最後の戦争は名目上こそアモルファス王国の勝利となっているが、事実上の和解である事は既に知れ渡っていた。一部の者以外はヒュドラーの事を知らず、相も変わらず国家機密となっている。一体いつになったら公開するのやらとルビアンは考えていた。


「本当にあんな褒美で良かったの?」

「ああ、良いんだよ」

「まさか食堂の経費をしばらくの間負担してくれなんて言ってくるとは思わなかったわ」

「あの時はそれが最善策だったんだよ。しかもさり気なく始祖の宝珠パクってるし」

「戦利品よ。似合うでしょ?」

「全然。ディアは着飾ってない方が似合ってると思うけどな」

「えっ……そ、そう」


 ディアマンテが赤面しながら恥ずかしそうにそっぽを向いた。


 彼女は気分転換に話題を変えようと思い口を開いた。


「ルビアン、噂で聞いたんだけど、ガーネと結婚するんですって?」

「えっ!? それ誰から聞いたんだよ!?」

「誰でも良いでしょ。で? どうなの?」


 ディアマンテはルビアンに近づき、豊満な胸を彼に当てながら上目遣いだ。いつもの彼女であればまず見せない姿である。


 ルビアンは普段の立ち振る舞いとのあまりの違いに戸惑っている。


 これが……普段は冷徹な女王と呼ばれているディアなのかよ。何度見ても全然慣れねえな。


「まだ決めてねえよ」

「そう。じゃあ決まったら報告ちょうだい。手土産くらいは持っていくわ」

「女王が一市民を贔屓して良いのか?」

「みんなにばれないようにするに決まってるじゃない。それに――あなたはもうただの一市民じゃないのよ。ヒュドラーを倒した英雄なんだから」


 ディアマンテは天真爛漫に満面の笑みを浮かべながら答えた。


「それはあんただろ」

「あなたがいなければ、あたしたちは弱点も分からないままやられてたわ。本当ならみんなに教えて回って、あなたの本当の活躍ぶりを後世にまで語り継がせたいところだけど、ヒュドラーの事はまだ伏せておく必要があるの。ごめんね」

「俺は平穏な暮らしができればそれで良いよ」


 ルビアンは女王の部屋に飾ってある壁画を見ながらめんどくさそうに答えた。


 彼にはもう討伐隊として生きていく意欲はなかった。討伐隊の話題が飛んでくる度に自分が追い出された時の事を思い出すからだ。彼にとってはいつまで経っても忘れられない屈辱だった。


 しかも自分を追い出したアルカディアが世界中で活躍した事をみんなが知ってからはますます肩身が狭い思いをしている。まるで自分が今まで足を引っ張っていた格好に見えると彼は感じている。


「もう知っているとは思うけど、アルカディアが帰ってきたわよ」

「ああ、知ってるよ。知りたくもなかったけど」

「あなたが追放された後もアルカディアは遠征で戦果を上げているわけだし、国としては厄介なモンスターに軍を差し向けなくても済むからありがたいけど、あなたの豊富な回復魔法なしで戦果を挙げるようになってはあなたがいなくなって正解だったってみんなが思うようにならないか心配なの」

「余計なお世話だ」

「それと、今回のアルカディアの活躍で、エメラがアルカディアの正式なパトロンになったわ」

「えっ! ……それじゃあ」


 ルビアンが驚いた顔でディアマンテの顔を見た。彼女は目を半開きにさせ、表情は曇り下を向きながらうつむいている。


「ええ……アルカディアは大臣派になったという事よ。彼女らが活躍すればするほど、あたしたち国王派は立場が悪くなっていくわ」

「まっ、済んだ事は気にすんなよ。それに、俺はもう関係ねえし。用が済んだならもう帰るぜ」

「……」


 ルビアンはディアマンテの心情を知りながらも彼女を突き放した。


 その頃、アルカディアのアジトにて――。


 そこではルビアンの噂を聞きつきたオニキが言いふらすようにアルカディアのメンバーたちに噂を話していた。


「ふーん、ルビアンがガーネを襲って妊娠させたとはねー」

「サイテー、やっぱりあいつ追い出して正解よ」

「ガーネちゃんかわいそー」


 モルガンはまだ外で訓練中であった。


 オニキたちとしてはモルガンが無類のルビアン好きである事を知っていた。


 モルガンの部屋にはルビアンの似顔絵が壁に数多く貼られている。離れている時間が長くなれば長くなるほど、彼女のルビアンへの依存が強まっていく事を彼らは知っていた。


 そのためいずればれるにしても、モルガンには伏せておくべきであると考えたのだ。


「だからくれぐれも、モルガンにはルビアンがガーネを妊娠させたなんて口が裂けても絶対に言うんじゃねえぞ」


 オニキがみんなにそう言うと、オニキの背中にちょんちょんと指でつついたような感覚に襲われる。


「何だよ? 今大事話の途中――もっ、モルガンっ!」


 彼が後ろを振り返ると、既に訓練を終え真剣な眼差しのまま佇んでいるモルガンの姿がある。他のメンバーたちは口を開けながら恐れおののいている。


「ルビアンが……何だって?」

「そ、それは……」


 オニキは伝言ゲームのように伝わったルビアンの噂をモルガンに聞かせた。モルガンにとっては由々しき事態であった。


 彼女は両手の拳を強く握り、怒り狂ったオーラを発していた。


 ガーネ、お前だけは絶対に許さないぞ。


 お前は……私の心を踏みにじったのだからっ!

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読んでいただきありがとうございます。

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