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第102話「因縁の帰還」

 王都の街ではアルカディアの久々の帰還を歓迎する声が上がった。


 ルビアンたちも常連からその噂を聞きつけ、ガーネが早速騒がしくなっている外を見に行くと、そこには道路の端に沿ってできている長蛇の列に加え、王都民たちの目線の先にあるのはモルガンたちだった。


 彼女らは2年間の修行を経てこれまでとは比べ物にならないほど成長しており、世界中の上級ドラゴンを倒してきたというのだ。


「――まるで凱旋式ね」

「噂には聞いてたけど、まさか本当に上級ドラゴンを倒しまくっていたとはな」

「まっ、せいぜいうちに迷惑をかける事だけはしないでほしいな」

「でも世界中の上級ドラゴンを倒すほどの討伐隊が王都から出てくるなんて、私としては誇らしいわ」

「また世界中にエンポーが普及しまくったからだろ」


 ルビアンは彼女たちの活躍の背景にはエンペラーポーションの助けがあったとすぐに気づいた。


 エンペラーポーションを作るのに必要なポーションプラントがまたしても異常なまでに増殖し、回復担当(ヒーラー)の価値が過去最低を記録したのだ。


 この頃には全員がエンペラーポーションを所持するのが当たり前となり、かつて回復担当(ヒーラー)だった者たち全員がクビとなっていた。更にはエンペラーポーションの効果に加え、能力までアップするアイテムが出てきたために、回復担当(ヒーラー)の立場がなくなってしまった。


 ルビアンと同じく回復が1番の取り柄であるサーファも日銭を稼ぐ生活を余儀なくされている。


 王都部隊は総督部隊に統合され、ルビアンは隊長を自ら辞めたが、その後の事はルビアン本人は知らないでいた。だが特別討伐隊の称号は今でも保持している。


「今じゃ王都では単独トップのパーティになったわけか」

「随分と偉くなったものだな」

「カーネリアもアンも討伐隊に復帰しようと思えばできるはずやのに、何で復帰しないんや?」


 加里が素朴な疑問を2人にぶつけた。


「あたしはやっぱり、ルビアンとずっと一緒にいたいからな」

「私もだ。それに私がいると、他のアタッカーたちが仕事を失うだろ。一度それで顰蹙を買った事があってな、それでいつかは抜け出したいと思っていた」

「戦争が終わったと同時に討伐隊から引退か」

「ああ、余生は大切な人と共に過ごしたい」


 それに――もうヒュドラー以上の敵は現れないだろうしな。


 アンは一度ヒュドラーを倒した事で戦士としては既に集大成を迎えたと感じており、その事も彼女が引退した要因の1つであった。


 彼女自身はどちらかと言えば平和主義であり、討伐隊に入ったのは単に強い相手と戦い修行するためであった。コリンティア時代に一生分の金を稼いだため、既にルビアンと余生を過ごす気でいた。


「ふふっ、まだ若いのに余生って――うっ!」


 ガーネが手で口を塞ぎながらその場に座り込む。ルビアンたちがガーネの方を向いて彼女を心配する。


「おい、大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫、ちょっと気分が悪くなっただけ」

「この頃働きすぎなんだよ。あとは俺たちがやっとくから、ガーネは休んどけ」

「う、うん。分かったわ」


 明らかに様子がおかしい。いつものガーネだったら、反発して最後まで仕事をやり遂げようとするはずだが、少し様子を見てみるか。


 カーネリアが休んでいるガーネを観察しながら思った。


 彼女はガーネの異変に気づいていた。いつものガーネの性格を知っているためである。つき合いこそルビアンの方が長いものの、女同士の密着した仲であったために彼よりもずっと彼女の事に詳しかったのだ。


 男にはできない相談も度々ガーネから聞いていた。


「それにしても、ジャガイモがこんなに高くなったんじゃ、いくらルビアンが新鮮な状態にまで回復できるとは言っても、このままじゃ赤字だわ」

「ガーネ、一度計算してみたんだが、今のペースだと、後5年も持たずに食堂が潰れるぞ」


 アンが羽根ペンで書かれたグラフの紙を淡々とした顔でガーネに見せた。


「何ですって!」

「アン、お前よくこんなの書けたな」


 カーネリアが若干引きながらもアンの分析に感心する。グラフの紙には今のペースで商売を続けた場合のデータが詳細に書かれていた。


「アモルファス大学にいた頃、経済学を学んでいてな。その時に店の回し方も覚えた」

「ジャスパーと同じ大学なのか?」

「ああ、総督は私の先輩だ」


 こいつ――とんでもねえな。アモルファス大学へ行けるほど頭が良くて、戦闘では最上級ドラゴンと1人で互角に戦いやがるし、商品に対する目利きを活かした仕入れに、経済学を活かした経理までできんのかよ。


 段々俺がいらない気がしてきた。


「ルビアン、ここの人たちって化物ばっかりだな」


 サーファが呆れ顔でルビアンに囁くように言った。


「ああ、何だか自分が無力に思えてきた」

「多分ガーネちゃんも、お前と同じ気持ちだな」

「「はぁ~」」


 ルビアンとガーネが同時にため息を吐いた。


 その頃、モンドホテル最上階の社長室にて――。


「レストランカラットの方はどうなっているぅ?」


 社長の椅子にはかつてコリンティアの隊長であったアベンが座っており、その周囲にはかつてルビアンの世話をしていたモルダ、コリンティアの面々であったクンツ、パイロの2人が立っている。


「今のところ売り上げが下がっているそうですが、何故そこまで食堂を執拗に狙うのですか?」


 モルダが現社長であるアベンに恐る恐る聞いた。アベンがその眼光をモルダに向けるとその口を開いた。


「アンの奴がコリンティアを急に辞めたせいで、我らは解散に追い込まれたぁ。アンだけは絶対に許すわけにはいかん」


 ここにいるコリンティアの元メンバーたちはアンに恨みを抱く者たちだった。


 コリンティアはアンが辞めた後、唯一の資金源にしてパーティの精油を失った事で、彼女に憧れて入ったメンバーたちも、名声のために入ったメンバーたちも次々と辞めていき、コリンティアは解散以外の選択肢がなかった。


 クリソは考古学者としてアモルファス大学に誘われ教授となった。アベン、クンツ、パイロ、タンザ、ゾイス、ジェイ、スフェン、ディオの8人は女王ディアマンテによって仕事を与えられた。


 しかし、あくまでもコリンティアに固執していたアベン、クンツ、パイロの3人はコリンティア解散の責任はアンにあると考え、彼女を激しく恨んでいた。


 討伐隊で活躍したい想いが強かったための恨みであった。

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