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第100話「大切な居場所」

 その頃、ガーネはアモルファス料理の食材を仕入れるべく買い出しに行っていた。


 市場は大盛況であったものの、圧倒的な食糧不足から食材の値上がりが続き、安く出回っているのはいずれも新鮮とはとても言えない食材ばかりであった。


 だがガーネは素人が見ても分かるほど劣化した食材でさえ意に介さず次々と購入していく。


「おじさん、このジャガイモちょうだい」

「それかなり劣化してるぞ。良いのか?」

「ええ、構わないわ」

「1個5ラズリだ」


 店員のおじさんが片手を広げて値段を提示する。


「そこを何とか、1個3ラズリにしてくれないかなー」


 ガーネが上目遣いをしながら両手を合わせて目をウルウルとさせながらお願いする。


「う~ん、しゃあない。1個3ラズリで良いよ。どうせ買うのあんたしかいないし」

「ありがとっ! はい、これお代ねー」

「まいどありー」


 良しっ! これで当分カレーには困らないわね。


 それにしても、ここ最近でかなりジャガイモの質が劣化したわねー。どうしてかしら? 他の食材もかなり劣化してるみたいだし、やっぱりあの戦争の影響かしら。


 でも畑を荒らされたわけでもないのに、ここまで酷くなるなんて――。


 ガーネが購入したのはいずれも劣化しきった食材ばかりであった。


 以前はここまで酷くなかったが、市場で出回っている食材の質が明らかに下がっている事に彼女は疑問を感じていた。


「おっ、ガーネ、買い物中か?」

「サーファじゃない! 久しぶりねー」

「ああ、昨日遠征が終わったばっかで――うわっ! 何だそれ!? 全部劣化してんじゃねえか!」


 籠の中を覗いたサーファが呆気に取られた顔になり後ろにのけぞった。


「大丈夫よ。全部新鮮な状態に戻してから使うから」

「ルビアンが持ってる鮮度の魔法だろ。あれマジで便利だよなー。あいつがいた時のアルカディアが食糧難に陥った事がないのも頷けるよ」

「へー、アルカディアでも活躍してたんだー」

「ああ。あいつは戦闘でこそ回復ばっかりだったけどよ、遠征に出かけてから帰って来るまでパーティ全員の食料調達に服の洗濯に寝床の準備まで全部あいつ1人でやってたんだよ」

「結構詳しいのね」

「俺も一時期アルカディアにいたからな。回復担当だからって理由で雑用までやらされてたし」

「――結構大変だったのね」


 ガーネはルビアンがどれほど大変であったかをサーファから聞いた。


 ルビアンはパーティの中で最も物理攻撃と魔法攻撃が低く、パーティメンバーが増えてからはそれを理由に後衛に回され、何かある度に後衛である事をいじられるようになり、他のメンバーとの間に亀裂が生まれるきっかけとなってしまった。


 次第にアルカディアでは後衛は前衛よりも格下という風潮が生まれ、どんなにメンバーが入れ替わっても前衛になる事がないルビアンは次第に追い詰められていった。


 そしてエンポーの普及が決定打となり、ルビアンの追放が確定となってしまった。


「酷い。それって……散々雑用係で使い回された挙句に捨てられたって事でしょ。戦闘以外の部分で貢献してくれていたのに」

「だからあいつら、ルビアンがいなくなってからは遠征の度に食糧難に陥ったり、寝床を確保できずに夜番に見張りをさせたりする破目になって、いつ戦いになっても疲労困憊だってさ」

「自業自得よ」


 ガーネはここにきてようやくアルカディアの実情を知った。


 普段は誰に対しても愛想よく振舞っているモルガンが裏でルビアンを追い詰める行為を事実上容認していたとは思いもしなかったからだ。


 ガーネはそんな彼の力になってあげたいと思いある事を決断する。


「まあでも、ルビアンはアルカディアにいた時よりも生き生きしてるように見えるぜ。案外討伐隊よりも食堂の方が向いているのかもな」

「そうだったのね。私、ルビアンの事――何も知らなかった」

「あいつが好きなんだな」

「そっ、そんな事ないわよ!」


 ガーネが雌のような顔を赤らめ、サーファから見えない位置に顔を背けた。


 サーファはそんなガーネの心情を知りながらも、それ以上指摘する事はなかった。


「じゃっ、俺こっちだから。今日も昼から行くよ」

「うん。いつもありがとねー」


 ガーネはサーファと別れると残りの食材を購入し、食堂へと瞬間移動する。


「あれっ! もうみんな戻ってたの?」

「ああ。あのさ、アンが凄かったんだよ。抜群の目利きができて交渉もうまいからさ、今後はアンも一緒に調達に同行させようと思ってんだけど、どうかな?」

「そうなのー。それなら是非お願いするわ」

「役に立てるポジションを見つけられて良かったな」

「うるさいぞ貴様。まっ、これで仕入れの時は私がルビアンと一緒にいられるわけだ」

「くっ! 接客も調理もできないくせに。何故お前がルビアンとツーショットなんだ?」

「何だと貴様、やるか?」

「望むところ」


 カーネリアとアンが睨み合いながら決闘を示唆する。


 ルビアンたちには2人の体のアウトラインをなぞるように炎が燃え滾っているのが見えた。この2人が暴れたらとんでもない事になるのが目に見えている。


「はーい、そこまでー。決闘だったら休みの日に好きなだけバルーンバトルでもすれば良いでしょ」

「ガーネ、この食材全部劣化してない?」

「大丈夫よ。加里ちゃんも翡翠ちゃんもルビアンの鮮度の魔法を見るのは初めてだっけ。ルビアン、見せてあげて」

「ああ」


 ルビアンが鮮度の魔法を施すと、さっきまで劣化していた食材が次々と新鮮な状態へと戻っていく。その光景に加里、翡翠、アンの3人が驚きの表情を見せていた。


「す、凄い」

「どないなってるんや」

「さすがは回復に特化しているだけの事はあるな」

「元々は食料不足を補うために使ってたけど、こんな時に役立つなんて思ってなかったな。でも結果オーライだったよ」


 ルビアンは水を得た魚のような顔になっていた。


 新鮮な状態に戻った食材を加里と翡翠が使い、昼を迎える頃には仕込みが完了し、既に外ではサーファを始めとした常連の他、食糧難に苦しむ王国民が長蛇の列を作っている。


 そして昼を迎え、いつものように開店の時間がやってくる。


「いらっしゃいませー。お好きな席へどうぞ」


 食堂の扉が開いて客が次々入ってくると、ガーネやカーネリアが客を席へと案内していく。


 食材の良い匂いにつられキッチン手前のカウンター席から客席が埋まっていき、店内はあっという間に人で埋まっていく。


 また平和な食堂を取り戻せた事に、ルビアンとガーネは喜びを感じるのだった。

第5章終了です。

第6章もお楽しみに。

ルビアンの設定を少し変更しました。

具体的には攻撃魔法をアイテム攻撃に変更しました。

次は短編版と同様に追放から3年目に沿った展開となります。

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