表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/200

第10話「悲願の就職」

 ルビアンの強い魔力が注がれた魚が見る見るうちに鮮度を取り戻していく。


 そしてあっという間に、市場にある他の魚にも見劣りしないピカピカの光沢を放つようになり、思わず食べたくなるような鮮度になったのである。ドヤ顔を決めるルビアンの後ろで2人が驚く。


「「うわぁ~」」

「良しっ! これで美味い魚が食えるな」

「ルビアン! 凄いじゃない!」


 目の前で見ていたガーネがルビアンに飛びついてくる。


「えっ、何が?」

「だってさー、私今まで色んな回復担当(ヒーラー)を見てきたけど、食材の鮮度まで回復できる人なんて初めて見たもん。食材の回復は超一流の料理人にしか使いこなせない魔法なのよ」

「こんなの普通だろ」

「普通じゃないよっ! 人間や家畜用のモンスターを回復する人はいても、ここまで回復の範囲が広い人って世界でもルビアン以外に聞いた事がないわよ!」


 今度はアイオラがルビアンにツッコミを入れるように驚きながらも解説をする。


「俺さ、アルカディアにいた頃、食料調達をしてたんだけどさ、どれもこれもすぐに鮮度が落ちるのが気になってたんだよ。だから駄目元で食材に回復魔法を使ってみたら、何故かできちまったんだよなー」

「あたしも基本的な回復魔法は使えるけど、人間とモンスターにしか効果がないの。もしかして、建物とかも回復できたりする?」

「一応できるけど」

「「何ですってっ!」」

「何でそんなに驚くんだよ?」

「あんた知らないの? 建物の回復は超一流の建築士にしか使いこなせない魔法なのよ!」


 そう、ルビアンはアルカディアの回復担当(ヒーラー)としてがむしゃらに修行を重ねている内に、一部の人にしか使いこなせないとされる、ありとあらゆる回復魔法を自然習得していたのだ。


 だが本人にその自覚はない。故に食材の回復も建物の回復もできてしまったのだ。


「そんな能力とは知らなかったな。そんな事より、早く帰ろうぜ。じゃないとまた食材に回復魔法を使わないといけなくなる」

「う、うん、分かった。アイオラちゃん、また来るね」

「うん、毎度ありー」


 ガーネがルビアンの腕を掴み、2人はレストランカラットへと瞬間移動で戻ってくる。


「おかえりー。おーっ、随分と新鮮な魚を仕入れてきたなー。やるじゃねえか」


 そう語るのはサーペン・アンチゴライト、この店始まって以来の常連の中年男である。ボサボサした短髪が特徴で、ルビアンたちとも知り合いである。


「そ、それがね。実はルビアンのおかげなの」

「ルビアンのおかげ?」


 ガーネは今までの事をグロッシュたちに説明する。


「「「なにーっ! ルビアンが食材を回復させたーっ!」」」

「3人共声が大きい」

「――あっ、すまん。でもガーネちゃん、それ本当なの?」

「本当よ。目の前で見たんだから」


 グロッシュもペリードもサーペンもなかなか信じようとしない。どれも超一流の職業を極めて初めて習得できる魔法ばかりだったからだ。


 この時、外はすっかり暗くなっていた。ルビアンはグロッシュから日給を貰い、賄いとしてチャーハンをご馳走してもらっていた。


 そしてルビアンがレストランカラットを立ち去ろうとした時だった。


「ねえ、うちで働かない?」

「えっ!」


 ガーネがここぞとばかりにルビアンを誘う。彼のありとあらゆるものを回復する魔法は食堂の経営に使えると思ったのだ。


 ルビアンは驚く。まさかガーネに誘われるとは思っていなかった。


「うちで働いてくれるなら、給料も寝床も提供するけど――」

「是非働かせてくれ」

「ふふっ、分かりやすいわね」

「今の俺は職場を選んでられるような立場じゃないからな」

「お父さんも良いでしょ?」

「ああ、ちょうど人手が欲しかったところだ。ルビアンなら構わないぜ。でもうちは厳しいからな。それだけ覚悟しておけよ」

「もうっ! 水を差すような事言わないでよ! 言いたいだけでしょ」

「手厳しいなー」


 グロッシュが茶化すようにその場を誤魔化そうとする。常連たちにとってはいつもの光景である。もはや名物と言っても良いやり取りだ。


「でも、本当に良いのか?」

「あなたって、食材を新鮮な状態に戻せる魔法を使ってたでしょ?」

「お、おう。遠征時に食料調達の担当もしてたからな。俺は鮮度の魔法って呼んでる」

「うちはせっかく仕入れをしても、いつも余った食材は処分する事になっちゃうの。だからその鮮度の魔法がかなり役立つんじゃないかなって思ったの」

「それは願ってもない話だ」

「でもルビアンが言っていた通り、うちは貧乏な食堂だから、給料は月に10ラピスと賄いしかあげられないけど、それでも良いかな?」


 ガーネが申し訳なさそうな顔でルビアンにうかがう。


 10ラピスは王都の月収の平均に遠く及ばない額だ。だがルビアンにとって給料などどうでもいい話である。寝床を提供してもらえるだけでも十分にありがたい。1人で野宿しながらフリーランスでモンスター狩りをするより遥かにマシな待遇である。


「良いに決まってんだろ。雇ってもらえるだけでも十分ありがたいよ」

「じゃあ、この契約書にサインしてもらえる?」


 ガーネが1枚の契約書をルビアンの前に差し出した。この店のルールを順守して働く内容の契約書である。


 もっとも、自由すぎる風潮のレストランカラットにとっては、目に見える約束に過ぎない。ルビアンは用意された羽根ペンを手に取り、すぐに自らの名を契約書に刻む。


「契約書にサインしたからには、精一杯頑張ってもらうね」


 ルビアンは今までの苦労が報われたかの如く満面の笑みを浮かべる。この時のルビアンにとって、ガーネはまさしく天使のような存在であった。


「――ああ、精一杯頑張らせてもらうよ」

「ふふっ、よろしくね」


 彼は泣きそうになっていた。だが彼女の前で涙は見せない。みっともないところをガーネに見られたくないという意地だった。


 パーティを追放されてから2週間後――ルビアンは大衆食堂であるレストランカラットに『就職』する事が正式に決まった。


 彼にとってはこれが人生の『転換期』であった。


 アルカディアには彼に嫌悪感を抱いたり、あからさまに見下す者も多くいた中でいつも庇ってくれていたはずのモルガンにまで見捨てられ、もうあんな奴らとは一生関わりたくないという悔しさを持っていたが、それさえ吹き飛ばしてくれるほどの朗報であった。


 ルビアンは自分を必要としてくれている人もいる事を知る。


 彼はこの食堂で精一杯働く事を決意するのだった。

第1章終了です。

気に入っていただければブクマや評価をお願いします。

サーペン・アンチゴライト(CV:杉田智和)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ・ルビアンの就職先が決まった ・ルビアンの回復のすごさが理解されている [一言] 再就職おめでとう! 主夫にならずにすんで、よかった!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ