第1話「追放された男」
「幼馴染にパーティを追放された俺は食堂に就職する」の長編版です。
脚本の都合上、短編版とは少し異なる展開が存在しますが、基本的な部分は同じです。
短編版とは異なり、三人称小説となっております。
ルビアン視点の他、希望が多かったモルガン視点もあります。
脳内再生補助のため声優を当てておりますが、ここは無視してもらって構いません。
不定期更新なので、気長にお待ちいただけると助かります。
王都の町並みで多くの人々が歩く中、その中に溶け込む男の姿がある。
しかしその男に笑顔はなく、次の職場を探しているところであった。
賑わう王都の中を1人寂しそうに歩くこの青年、ルビアン・コランダム。赤髪のロングヘア―で幼く見える顔の彼は討伐隊の隊長にパーティを追放されたところであった。
どうしてこうなった。
彼は空を眺めながら少し前の出来事を思い出す。
数時間前――。
「お前は今日限りでクビだ。ご苦労だったな」
そう言い放ったのはアルカディアの隊長、モルガン・ベリル。優雅なピンクのロングヘアーの彼女はルビアンの『幼馴染』であり、幼少期からずっと一緒に過ごしてきた人物である。
彼女は王都を代表する討伐隊、『アルカディア』の隊長であり、ルビアンはそこの回復担当として活躍してきたのだ。
「えっ!? 何でだよ!? 俺、何か悪い事したか?」
「いや、お前は悪くない。ただ、持って生まれた才能が悪かった」
そう、ルビアンに戦闘能力はほとんどない。故に彼はパーティで唯一の非アタッカーだった。だがそれと引き換えにありとあらゆる種類の『回復魔法』を使う事ができた。
アルカディアのメンバーは総勢10人。王都にいる全てのパーティの中で唯一ドラゴンを倒して帰ってきた強者揃いだ。特に人気が高いのはモルガンだった。
「……モルガン、考え直してくれよ」
「分からねえのかよ?」
図体の大きいアルカディアのメンバーの1人がモルガンに代わって呆れ顔で言った。
「何がだよ?」
「お前はとっくに不要な存在って事だ。お前は回復する事しか能がねえ。モルガンはそれでもお前をずっと養ってくれていたんだから感謝しろよな」
「はぁ? わけわかんねえよ。お前ら俺がいなかったら今頃生きてねえんだぞっ! 誰のおかげでドラゴンを倒せるまで回復し続けられたと思ってんだよ?」
「それは昔の話だ。もう回復担当が活躍する時代は終わった」
ルビアンは絶句した。パーティの中で目立つ事はないものの、アタッカーたちを支えてきた自分がどうして追放されなければならないのか。
だがその理由を彼は知る事になる。
彼個人が倒してきた敵の数は数えるほどしかない。
「……本気なんだな?」
「……ああ、本気だ」
「そうか、分かったよ。たとえ後になって頭を下げたってもう二度と戻らねえからな。自分の決断の責任くらいはちゃんと取れよな」
「お前はもう討伐隊じゃねえ。ただの一般市民だ。さっさと出てけよ」
「クッ……」
ルビアンはまるで絶望から逃げるようにアルカディアのアジトから出ていき、そこから王都まで全力疾走する。
ちくしょう! ちくしょう! あいつら、俺が下手に出てりゃ良い気になりやがって! もういい、あんな奴らどうでもいい。元々はモルガンが誘ってきたから入ったってのによ。何で俺がこんな仕打ちを受けなきゃなんねえんだよぉ!
モルガン、お前の言葉、覚えとくからなっ!
ルビアンは遠くから見えるアルカディアのアジトを睨みつける。どのパーティのアジトも王都の郊外にあり、王都の中央には巨大な市場や住宅地がある。
彼は憤りを覚えながらギルドへと向かう。もうこの瞬間から彼は無職なのだ。
俺の貯金は残り342ラピスと48ラズリか。まいったなー。
この世界の通貨である『ラピス』。そして『ラズリ』は補助通貨である。
1ラピス=100ラズリの価値である。どの討伐隊も食べていくので精一杯であったが、ルビアンは討伐隊の中でも最高峰のパーティであるアルカディアに所属していたため、貯金はそこそこあった。
彼がガチャッと扉を開け入っていったのは宿泊施設兼ギルド、『モンドホテル』である。
そこから少し離れた場所には『レストランカラット』があり、ルビアンはそこの常連である。
「おっ、久しぶりだなー。討伐はどうだった?」
「うまくいったよ」
「おー、そりゃ良かったじゃねえか。初めてドラゴンを討伐したって聞いた時はマジで驚いたよ。まさか人類がドラゴンに勝てる日が来るなんてな」
まっ、あれはドラゴンの体力が尽きるまでずっと俺が全体回復魔法を定期的に使ってたから持久戦に持ち込んで勝つ事ができたんだけどな。
「それがさー、今回も俺の役割がほとんどなかったんだよ」
「役割がなかった? あー、もしかして回復の必要がないほど敵が弱かったとか?」
「いや、そういう問題じゃない。みんなが『回復薬』を使うようになってからというもの、俺はただそこにいるだけのお荷物になっちまったんだよ。一応食料調達もやってるからさ、それでずっと食料の管理ばっかりしてたんだけどさ。管理をするだけなら誰でもできる。それでついに戦力外通告を受けちまったんだよ」
「じゃあお前、パーティを追放されたのか?」
「ああ、まさかモルガンに追い出されるとは思わなかったよ」
「確か、幼馴染だよな?」
「――ああ、俺もついさっきまでは良い幼馴染だと思ってたよ。でもまさかあんなに冷たい奴だとは思わなかったよ。だから出て来てやった」
モンドホテルの店長は顔がポカーンとしている。
「出て来てやったとは言っても、お前仕事は?」
「だからここに来たんだよ」
「なるほどねぇ~、世知辛い世の中になったもんだな」
「同情なんて要らねえよ。しばらく世話になる」
「ああ、毎度あり」
これが、ルビアン・コランダムのパーティ追放の日である。
彼は次の就職先を探すべく、求人を1つ1つ確認していくのであった。
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モチベーションが上がりますのでどうぞよしなに。
ルビアン・コランダム(CV:浅沼晋太郎)
モルガン・ベリル(CV:柚木涼香)